カサインは案外モテる
ーー冒険者協会ーー
冒険者協会イェル国支部のとある一室、柔らかそうな肘置きまでついた大きい椅子に、一人の女が座っていた。
白の混じった黒髪を後ろで纏め、片方の目は白く、片方の目は海のように青いその女はどこか神秘さがあり、また、それを通り越して一種の不気味さまで感じさせる。
ドアが叩かれる音がすると、女は口を開いた。
「どうぞ」
ドアが開かれ、カサインが現れた。
服装はいつもより少し上等そうに見え、黙っていれば格好がついている。
「んで、ワシを呼んだの用はなんや?サーリア協会長」
静かにカサインは言葉を発した。いつもより低音であり、セイスケやリーグルが見れば、いつもとのイメージが違うと叫ぶだろう。
「酷いねえ…下の名前のゴーリディアでいいって何回言えばいいんだい?」
「そんなん言うたらアンタの信者どもに火炙りにされる……これもなんべん言えばいいんや?」
サーリアは、つれないねとでも言うように笑みを浮かべるが、内心は違う。
(やっぱりカサイン君かっこいいなあ…!強いし…!頭もいいし…!おまけに顔もいいし…!なのに私ってばなんでこうもカサイン君には無口になっちゃうのかなー!?私のバカ!四肢が爆散しちゃえばいいのに!)
内心は、カサインに対して大きすぎる好意を持っていたのである。
だがカサインはそんなことは梅雨知らずに、構わず話を続けていく。
「んで、話ってなんや?はようケラリちゃん口説きに行きたいんやけどね、こっちも」
瞬間、カサインは気づく。
サーリアの、表面化した圧倒的な殺意に。
(嘘…!嘘嘘嘘嘘!あの子口説かれてるの!?嘘でしょ!?いや、ケラリさんはタレ目とか少しおっとりした感じとか可愛いけど!カサイン君、そう言うのが好きなの!?)
実際には、サーリアが動揺しすぎたための緊張が殺意のように感じただけなのだが、それもカサインは知らない。
「いや!嘘やって!受付嬢に手出したりしませんって!許してくださいや!」
サーリアの殺意…いや、緊張は、その発言により止まった。
カサインは、こうした度重なる会話から、サーリアに対して恐怖さえ感じていた。
(サーリア協会長ほんまに怖い…!顔がええからファンやら信者やらもアホみたいにおるし…はよう帰りたい…)
そんなカサインの恐怖を知らずに、サーリアは少し上機嫌になってカサインの方を改めて見る。
困り顔のカサインもまた格好いいと惚ける前に、サーリアは本題を進めることにした。
「さて…君をここに呼び出した用をそろそろ言っておこうか…」
サーリアは両肘を机に乗せて手を組む。ピリッとしたようなひりついた空気が辺りを漂い始める。
まずは小手調べかとでも言うようにサーリアはある問いをカサインへ投げかける。
「君は件のレッドベアの異常発生についてどう思う?」
カサインは少し言葉に詰まったあとに、少し思考する。
3秒の後、顎に指を当て、視線を右に逸らしながら、思い出していくように答える。
「最近のあいつらの怒りっぷりから見て、子どもとか巣を奪われたんやろうな…となると、今森の奥にはあいつらより強いのが来とるはずや。例えば…」
「ドラゴンとか?」
言い終わる前にサーリアが答えると、カサインは冗談じゃないとでも言うように顔をしかめる。
「アホか、そんなん来たら、こんなちまっこい国なんぞ一瞬で炭やっちゅうねん」
カサインはドラゴンを見たことは無いが、噂話では何度かあった。
赤い鱗をしたトカゲのような生物であるドラゴンは、火を吐けば村が燃え、鱗は触れるだけで腕は割れ、爪を降ろせば城が滅ぶとも言われる化け物であり、1000年に一度、現れるかどうかというものだ。
いるかどうかすら怪しく、そのほとんどは御伽噺で聞く程度の存在だ。
カサインは、話を続ける。
「最悪でもワイバーンやろうな…あいつらは大陸中を飛び回っとるし、ここらの森は資源も豊富やし居座っとるんちゃう?討伐するんやったら金等級3人……ワシと、あのいけすかん魔法好きと…」
「いや、もう結構……流石に長年冒険者をやっているだけあるね…流石の洞察力だ」
サーリアはカサインの話を一度止めて、カサイン専用の依頼を受注する。
「ワイバーンが現在、続々と森奥部に飛来して来ている…君を含めた金等級で、2年以内にこれらを殲滅してくれ」
カサインは腕がなるとでもいうように腕を組んで、早速報酬を確認する。
「長期の依頼ってわけやな……んで?報酬は?」
サーリアは少し黙ったあと、顔を赤らめながら…
そう、顔を赤らめながら、告白をした。
「わ、私と添い遂げるというのは…」
だが、カサインがそんな乙女心を分かるわけもなかった。
「ハハっ、冗談きつっ
後日、頬が顔半分ほどのサイズに腫れたカサインが発見された。




