父と子
ーー現在ーー
ゲルドの攻撃後、小屋は全壊し、カサインとリーグルはその場に倒れていた。
後に立っていたの守られていたセラミスと、セラミスの父親……ゲルドだけだった。
「お父さん…やっぱり追いかけてきたんだね」
『ア、ア…サア…ワタシノ…モノ…セラミス…』
もう、父親にまともな意思は残ってはいなかった。
「お母さんは……生きてる?」
『ア、アアアアア??………ア……ガ……ダメダッタ…タエラレナカッ、カッタ』
「…そっか…」
黒い何かが、セラミスの周りを飛び回り始めた。
それは、あまりに黒すぎた。光を反射せず、今にも吸い込まれそうなほどに黒かった。
ゲルドは、笑い始めた。
『ヤハ、ヤハリスバ、ラシシ、シシイイイ』
「本当はね、あれ以来使えてなかったの…あの地下室から逃げてから、一回も」
ゲルドの表面が、再びブツブツと波打ち始める。
「あれからいろんな人に会ったんだ。センパイやアルキさん、カサインさんにリーグルさん…ザインさん…他にもたくさん」
『ワタ、ワタシノ』
もはや、ゲルドに声は聞こえない。
「守りたいものが増えて、センパイを助けたいって思った時に、ほんの少しだけ、また使えたの…今、たくさんの人を守りたいって思えるの……だからね、お父さん」
『ガアアアアアアァアアアアアガアアアァアアア!!!』
黒い粒子は集まり、ゲルドの背中に平面の黒い丸を作った。
触手はセラミスに向かう。
そして、セラミスは目の前にもう一つの黒丸を作り出す。
セラミスに向かっていた触手は、必然的に黒丸へと飛び込んでいく。
「だから、私今、幸せだよ」
ゲルドの背中の黒丸から飛び出した触手は、ゲルド自身の頭を貫いた。
泥のような肉体は爆発して、後に残ったのは、動かない泥だけだった。
ーー1週間後ーー
…眠い…どこだここ…しばらくの記憶があいま
「センパーーーイイイ!!」
「セイスケエエエエ!!」
「ギャーーーー!?」
いきなり起きて早々にセラミスとリーグルが俺に突っ込んできた。
あ、やばい、なんか出る。
「ゲボッ」
あ、血が出た。
「キャーーーー!?」
途端にセラミスが叫ぶが、カサインに叩かれる。
「『キャーーーー』やないやアホ!安静にさせろ言われたやろ!」
「カサイン…みんな…なんでここにいるんだ?」
「そうだよな、よし、俺が説明を……
ーーーーー
その後、俺は一部始終を聞いた。
セラミスの行動、カサインやリーグルが、俺のために何をしてくれたのか…
それらが終わった後、気絶した俺をザインの自宅に運びこんでくれたらしい。
本当に感謝してもしきれない。
そんな話の終わりに、セラミスは空に黒丸を作った。
「多分、おと…誘拐犯の人と戦った時に目覚めた私のスキル…もう一つ作ると、こうやって…」
セラミスがお見舞いようであろうバケットに入っていた林檎を黒丸に放り投げる。
その後もう一つの黒丸をバケットの上に作り出す。
すると、バケットの中に林檎が入ったのだ。つまりは瞬間移動……!
「黒門…私はこの力をそう名付けたよ…!」
セラミスはどうにも男っぽい感性してるよな…俺の刀を名付けようとした時といい……
でもまあその感性はどうでもいい…重要なのは…
「なんでわざわざ危ない目にあったんだ…!」
俺なんて見捨てておけばよかったはずだ。俺にはできないだろうが、セラミスは俺がいずとも…
「セイスケ」
俺が怒り出す前に、リーグルが仲裁した。
「俺たちもこの子がいなかったら死んでたんだ…それに、お前を守りたい、助けたい一心で命がけで戦った…確かに、お前ら子どもが戦うなんて感心はしないけど、その前に言うべきことはあるんじゃないのか?」
……確かに、リーグルの言う通りだよな…
俺だってまだ人を殺すってのは踏ん切りがつくものじゃない。それでもセラミスは決心して、恐怖を乗り越えて俺を助けてくれた…俺にだってできないことだ。
そんなセラミスに、怒りの言葉をぶつけると言うのは情が薄いよな…
「セラミス…ありがとな…」
「…た…」
セラミスが小さく呟いた後、今まで抑えていたものが溢れ出したように大きく泣いた。
「怖かったよおおお!!お医者さんが!!センパイが死んじゃうかもって!!
「…そうか…」
「私もっ、あの時死んじゃうんじゃって!!怖かったあああ!!」
「そうだな…」
余裕ぶっこいていたいのに、俺もセラミスの泣く姿を見て、ずっと泣かずに、精一杯押さえつけてきた何かが溢れた。盗賊や誘拐犯、ゴブリン…何度も命の危機にあって、まだ子どもの俺が、そう思わないはずもなかったと言うのに。いきなり溢れた。
「俺もっ…怖かった…!痛くて……!今にも死ぬんじゃないかって…!俺もっ…!」
こんな姿を見られたくないのを分かっていたのか、二人で泣く俺たちを前に、カサインとリーグルは何も言わずに立ち去っていってくれた。
ーーーーー
ドアの奥、カサインは感慨深い様子を見せながら壁にもたれかかり、リーグルは隣で号泣している。
「うう…よかった…よかった…」
「ほんま涙脆いんやから…しゃあないからハンカチ貸し」
ズビビビビビビビ
いい終わる前にリーグルはカサインの服で鼻水を拭いた。
「…お前ほんま殺したろうか」
それからしばらくして、セイスケは退院した。




