彼方の記憶
ーー???年前ーー
周りは草木に囲まれた平原の、とある小さな家で、幼女の声が聞こえてくる。
「おとうさん!またあのすごいやつおしえて!」
「セラミス…分かったから…一度肩からどいてくれ」
幼女は男の肩から降りる。
その男は、ゲルドに似ていた。
男は、幼女に優しく語りかける。
「その前に…少しお母さんに会いにいこう」
ーーーーー
平原部とまるで違った不気味な雰囲気の地下室で、男と幼女は手を繋いで、檻の中の母親を見ていた。
母親の口には牙が生え、耳は尖り、目は血走っている。
『グルルルルル…』
もはや人のものとは呼べない、獣のような唸り声を母親は上げる。
「おかあさん、おはよう」
幼女は、その化け物とも言える母親に手を差し出す。すると、母親は唸るのをやめて、頬を幼女の手に当てる。
「おとうさん、なんでわたし、おかあさんににてないの?」
「いろいろ混ぜ……お母さんは、特別な存在だからね…お父さんの方に似るしかなかったんだよ」
「ふーん…」
父親の答えに、幼女は少し口を尖らせて不満そうにする。
「でも、セラミスだって少し耳が長いし、奥歯も人より尖ってるだろう?大丈夫、僕とお母さんの子だよ」
「…うん!」
幼女は、朗らかに笑った。
ーーーーー
ある夜、幼女は書斎から何か声が聞こえて目を覚ます。
「んー……」
幼女は書斎に向い、扉を開いた。
「おと…」
「くそ…やはりいつになっても目覚めん…!前までまだ5歳だったのに……10歳だぞ!?適齢期は当に過ぎている…次は四回目…私の年齢ももう限界…今回もダメだったのか…!?さっさと捨ててしまうか…!?」
父親は、ゆっくりと笑う。
「そうだ…あの子も色々と混ぜてみれば…!そうだ!ゴブリンにも稀スキルが発現する事例があった!もしかすれば…!」
あまりの父親の人とは思えない形相に、幼女は尻餅をついた。ついてしまった。
父親は、振り返った。
ーーーーー
「お父さん!お父さん!出して!!お願い!出して!」
幼女はあの母親の隣の檻に入れられた。
「ククッ…よし、ゴブリンをベースにしておけば……出来た」
父親は黒い液体の入った注射液を取り出して幼女の檻を開けようとした。
「さあ…これで成功すれば…」
しかしここで、母親が叫んだ。
『ガルアアアアアア!!!!ゥカアアアア!!!ガアアア!!アア!!」
何度も何度も体を檻に当てる。
その様子を見ていた父親は、次第になにかに怒り出し、母親に魔法を放った。
「痛みと苦痛!!」
『ガアアア!?」
母親は頭を抑えて暴れ回り始めた。
「……鞭を何万回も叩きつけられたような痛みだ。一時間は何もできない」
「お母さん!お母さん!」
「さて…研究を…」
ドンドンドン
上から、ドアを強く叩く音がする。
「…クソッ…あの珍獣ハンターもどきめ…タイミングの悪い…」
ドアの音を聞き、父親は一度地下室を去っていった。
「お母さん…!お母さん…!」
幼女は母親に手を伸ばすが、それに応えることもない…はずだった。
母親は、少女の手を握りしめた。
「セ、ラ……ミス……わたしの…こ…ど…」
それは確かに、獣ではなく、人の言葉だった。
「おかあさん…!だいじょ」
母親は、握りしめていた手を幼女の頬に当てる。
幼女が、母親にしていたように。
「セラミス…おねが…い……どうか…いきのびて…』
「おかあさ…」
『ガルッ……グアアア…!』
しかし、母親はすぐにまた獣の声を発し始め、苦しみにもがく。
「おかあさん…」
幼女は、決意した。
(いき…なきゃ…)
足音は、もうすぐそこまで来ている。
(生きなきゃ!生きなきゃ!生きたい!!おかあさんが!生きろって言ってくれたんだ!いき…)
運命の天秤は、幼女に傾いた。
その直後、幼女は、農村にいた。
(!?)
当然、幼女は驚いた。
理解できるわけもなかった。なぜ檻の中から何百メートルも離れたここまで来たのか…
「なん、で……」
混乱の中で、幼女は家の方角を見る。いつも通りの平和な平原だった。
だが、それでも幼女は反対に歩き出した。母親の遺言を、叶えるために。
ーー3年後ーー
幼女は立派な少女へと成長した。しかし、ついに捕まった。
少女は…セラミスは、誰もいない檻の中で、母を思い出す。




