血は泥のように
暗い小屋の中、破壊された屋根から陽が差す。
『セェラミィィィス!!』
顔が半分焼け爛れたゲルドには3つの手足に腹と背中から生えた何本もの触手が生え、人の形をかろうじて保ってはいたがもはや人とは呼べない、泥を纏った化け物と化していた。
左腕や触手から、泥がいくつも爛れ落ちている。
今はただ、過去の栄光にしがみつくだけを野望とし、変幻自在の泥で攻撃し続ける。
なんとかリーグルとカサインはセラミスとセイスケを守るが、その防衛戦も今にも敗れそうなほど拙い。
(あかんな…足手纏いは二人…セラミスちゃんとセイスケくんや…)
セラミスとセイスケの二人は個々人で逃げ切る能力が現在ない。無論、カサインとリーグルがどちらかを担ぎ走りされば逃げ切れはするだろう。
だが、どちらか一人はすぐに追いつかれる。
(しゃあないな……ちっちゃい女の子にあそこまで言わせて、そんな格好悪いことできへんしな)
カサインは、まずセイスケを持ち、外に向かって走り出した。
『ハハハハハッ!!見放されたか!!』
無論、見捨ててなどはいない。カサインは、セイスケを小屋の外に置いた後、作戦を立案する。
現状の不利、有利、弱点の予想に至るまで、脳の全リソースを終着点……全員の生還に注ぐ。
(まずあいつは泥やなく、幾つもの種族を組み合わせた…そうやな、合成獣と言うんが相応しい存在になった。それも不完全…せやから泥みたいに常に融解して、再生して、まるで泥に見えとるんや)
カサインは、記憶を滴り落ちていた泥に集中させる。
血肉の泥は、落ちれば動かずに静かに冷たくなっていくものと、少し蠢いてから停止するもの、二つに分かれていた。
(おそらく、再生する魔物……スライムなんかをを取り込んどる部位はどんどん再生する…せやのに、なんで取り込んどらんような部分も崩れ切らずに再生しとるんや…………推測は…)
取り込んでいない部分…つまりはあまり崩れていない箇所…左腕と胴体…これらは大きく崩れては再生してを繰り返していたはずだ。それら重要な記憶をカサインは瞬時に脳から探り当て、作戦を立案する。
この間、わずか2秒。
『これで終わりだ!!』
小屋の中では、ゲルドがリーグルの防御を破り、触手で攻撃しようとしていた。
ザンッ!
しかし、戻ってきたカサインがその触手を断ち切った。
「リーグル!セラミス!作戦を伝えるで!」
カサインは再びゲルドに向き直る。
「リーグルはそのまんまセラミスちゃんを!セラミスちゃんは出来れば魔法をあいつの右腕に!」
「「分かった!!」」
カサインは、すぐに刃をゲルドへと向け、殺意とともに質問をする。
「右腕と頭、足の根本やな?」
適当な質問のように聞こえるそのカサインの推測は、合っていた。
事実、答え合わせはゲルドがしたのだから。
『再生する部分を移動させて再生していると見破ったか!!君は強いな!!』
「お前に言われても嬉しないわアホんだら」
腹と背中から、十数本もの触手が攻撃を仕掛ける。
「カサイン流!昇天斬り!」
それっぽい技を叫んだ後、カサインは剣を横に向け、昇るような太刀筋は触手を全て斬った。
(カサイン流って流派があるんだ…)
カサイン流という言葉に対して、その場でセラミスだけがそう考えていた。
『ハハハハハッ!!今の技は君が考えたのか!?』
カサインは少し頬を赤らめる。
「…悪いかアホ…」
『いや!そういう新しいものは大好きだ!』
気分が少し高揚しているのか、ゲルドはだんだんと声を大きくしていく。
そして、背中から触手を出し、カサインの上、右、左、全方向に攻撃を繰り出し、声高らかに叫ぶ。
『ならばこういうのはどうだ!』
「カサイン!まずっ」
カサインは、背中を滑らせて下から潜り抜けた。
「下、空いとるぞ」
カサインは滑る勢いそのままに、ゲルドの両足を根本から切り分けた。
「ウインドカッター!」
同時に、セラミスの魔法によってゲルドの右腕も後方へと飛ぶ。
ゲルドは地に倒れ、少しずつ左腕と胴体を崩していく。
胴体と左腕、頭部だけになり、再生もままならない。
「…これでもう終わりや…大人しくしとれば生か…」
『…だ』
ゲルドは、小さく呟く。
『…私の研究はまだ終われないんだ…!』
ゲルドの全身がブツブツと波打ち始める。
「これは…」
リーグルが叫ぶ。
「カサイン!!逃げ」
小屋は、何百もの触手によって崩れ去った。




