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悪夢と秘密

「ングウウウゥウウゥヴウゥゥヴヴヴ!」

「まだ声が出るのか、元気だな」


 あれから何分経ったかも分からなくなった頃、俺はいまだに拷問をされていた。もう指に感覚はないのに痛めつけられると前以上に痛んでいく。


「…それにしても…なぜもう爪が治りかけているんだ?リザードマンはそこまでの回復力はなかったはずだが…突然変異か、それともそもそもの…」

「ンンヴンン…(なにぶつぶつ言ってんだよ)」


 いや、そりゃ拷問よりはよっぽどいいな…うん。そのまま朝までブツブツ言ってろ。


 だが案外、布越しの声でも言わんとしてることは伝わったらしく、眼鏡坊主は質問に答えた。


「ああ…私は研究者が本業でね…まあもちろん公に知られてもいないし個人業だが」

「ンゥヴヴウン(拷問官の間違いだろ)」


 口調が少し優しくなったな…こっちが素か?


 拷問官野郎は俺の布越しの煽りに苦笑する。…絶対後で殺す。


「なにを言っているかは分からないが……いや、そうだな…どうせなら話しておこうか」

「……?」

「君の匿う少女…あれは人とは呼べない…いや、君を人と定義するなら人か…」


 ……は??


 いや、どう考えてもあいつは人だろ。尻尾や角があるわけでもないし。


 そんな俺の疑問ははお構いなしに坊主頭は話を続けていく。


「私は、魔力について研究している……特に『スキル』についてね」


 スッ、スキル?研究者とか言ってたが拷問のしすぎで脳の構造がおかしくなってるんじゃないのか?


「その顔…スキルについてそもそも知らないのか…それじゃ教えてあげよう」


 俺の脳までおかしくなりそうだ。


 目の前にいるのは俺を痛めつけてきた敵なのに、口から紡がれる言葉に敵意はないし、むしろ優しささえ感じる。猛毒のキノコかと思ったが、猛毒の蒲公英みたいなやつという認識に変わっていく。


 もちろん目の前のこいつは強面のハゲなので普通に声だけならという話だ。


 それに、こいつが「猛毒」を持っていることに変わりはない。


「まず人には体に血とは別に『魔力』という力が巡っている。これを使い、魔法に変換させる」


 魔法…セラミスが使っていたが、別に特別な力というわけでもないのはアルキさんから学んでいた。


「通常人間の魔力は肉体の成長と共に増幅し、馴染んでいく…だが、たまに適応できない者もいる…それらもほとんどは死ぬが、ごく稀に生き残る………そしてその『体の異常』は魔力にも変異を起こす」

「ンンヴンンンヴ(それがスキルになるってことか)」

「飲み込めたようだね、その魔力変異は魔力の循環を通常とは違う()()()に変える…当然出力の様も変わる……分かりやすくすると、皆青色の染料のみを使い魔法という絵を描くが、5000人に一人…いや、それ以下の確率で、赤や紫の染料も使う者がいるというところか」


 セラミスが使えるとは思えねえけど…まあ分かりやすい説明で恐縮だ。さっさと家に帰らせてほしい。


「私は人為的にスキルを発現させるため、エルフや吸血鬼、魔力の多い種族と人間の遺伝子を組み合わせた…その結果生まれ落ちた存在…それがセラミス・フォーンであり、産み落とすために使われた人間の遺伝子こそが私…ゲルド・フォーンなのだ!」

「ふぉふはは…(そうかよ…)」


 坊主頭の手が震えている。


 相当頭にはきているんだろうな…でも、娘が攫われたからじゃなく、()()()()()()()()が逃げたからって理由の時点で、こいつは親とは呼べない。


 そして、改めて思った。


 こいつ(ゲルド)をセラミスに会わせるわけにはいかない。


「実験も成功し、アレは無意識のうちにだろうがスキルを使い研究所から逃げた…私は追手を雇い、捕まえ、結果君に逃がされた…」


 手がプルプルし始めて…利口なフリも限界か?と言う煽り文句が頭にチラつく。


 一部始終は分かった。こいつが個人業っていうんなら、あいつらチンピラは雇われの珍獣ハンターで、金を目的にセラミスを捕まえたってところだろう。


「さて、話を戻そうか…そんな作られただけのモノに救う価値はあると思うか…という話だ。もう痛い思いもごめんだろう?」


 ゲルドは俺の口布を外した。


「…脳の栄養が髪に抜き取られたか?話すわけねえだろ、ハゲ」

「……クソガキが」


 ゲルドは、何かを呟いた。


マインドブレイン(自我喪失)


 ゲルドの背後からいくつもの黒い触手が生えて、俺の耳に入っていく。


 っあっ……?


 ……ガッギギギギガガアアアァァアアア!!

 

 アッタマガガッアア!?ナニカイイイイハイッッッギキキギ!


「君の脳の自我のみを破壊する…後に残るのは魂を持たない、私に従うだけの肉塊だ」


 目の前に血溜まりが見える!先生がイテエエエエエエ!!!!!アアアア!?!?


 先生が死んで!!いや!!それは過去で……過去ってどっちだ…!?あ!?あああ!??!!!


「私を殺すか触手を断ち切らない限り解けることはない、大人しく従っていれば…」


 もう既に、何も考えられない。だが、かすかに耳に残ったのは


 ドガアンッ!!!


 ドアが蹴破られた音と


「セイスケくん!!!おるかぁ!!」


 うるさい奴の声と


「…ドアのノックくらいしたらどうなんだ」


 ゲルドの、小さなつぶやきだけだった。


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