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頑張れ先輩ども

ーー約3時間前ーー



「なあ、リーグル…」

「分かってるぜ、カサイン」


 セイスケが協会を出てから、二人は着いてくるなと言われたのにも関わらず、セイスケの跡をついてきていた。


「でもまあセイスケくんなら楽勝だとは思っとるけどね?レッドベア一人で倒す奴なんて心配する方が失礼言うもんやとも思うん、やけど…」

「まあ…そうだな…」


 事実リーグルもセイスケが負けるとは思っていないらしく首を縦に振る。が、言葉に反して二人は物陰に隠れながらセイスケを尾行し続ける。


「でもまあ……心配だからついてきてしまってるわけだが…」


 リーグルの吐いた言葉がピタリと当てはまったらしく、カサインはバツが悪そうに目を逸らしてみた。


 が、いるのは二人を不審者のように見つめる子どもの群れだけだった。


「…なに見とんねん…見せもんちゃうぞ…」


 カサインはなんとか追い払おうと威嚇してみるが、まるで子猫のようなそれに効果は無かった。


「ふしんしゃ」


 拙い発音で子どもが指を刺すと、周囲の大人、二、三人がカサイン達を注視し始めた。


「どうするんだよ…!これ…!」

「……」


 カサインは、リーグルの問いには答えない。


「カサイン?」


 なぜなら、あまりの恥ずかしさで気絶していたからだった。


 役に立たなそうなカサインを担ぎ、リーグルのみが一人走り出す。


 そうして二人が無駄な行動をしている間にセイスケは門の前まで来ていて、二人……いや、リーグルも急いで追いかけたのだった。


ーーーーー


 こうして二人はセイスケについて周り、ゴブリンを倒すのを、セイスケとゴブリン両方ににバレないよう遠目から見守っていた。


 5分ほどしてセイスケのゴブリン討伐は無事に終わり二人は急いで帰ろうとした……その時に、セイスケは矢を撃たれ、倒れた。


 2秒ほど、沈黙が走った直後、限界まで抑えた声がリーグルの耳を伝う。


「リーグル、盾役頼む」

「ッ……」


 しかし、あまりの突然さに、リーグルは判断能力が低下していた。


「…リーグル」


 リーグルは、隣から発せられた殺気で正気に戻る。


「……!おう!」


 少し大きい声でリーグルは返事をした。その巨体も相まってか、木々がざわついたように揺れる。


 この場での判断が早かったのはやはり金等級のカサインであり、即座に剣を引き抜き臨戦体制に入る。


 リーグルも少し遅かったが、大剣を持ち、カサインの前に出た。


「そこまで人数はおらんはずや…一、二人ってとこやろうな…」

「どうするんだ?」

「決まっとる…遠距離武器がある以上迂闊に近づけへん…木に隠れつつ、隙を見計らってワシが後ろからやる……………ッ……」


 カサインは言葉に詰まる。


 最も盾に適しているのはリーグルではあるが、それでも、ほぼ他人とも呼べる人間のために死の危険を侵せと言っているようなものだからこそ、カサインは「囮役をやってほしい」とは言えなかった。


 しかし、リーグルという男は


「俺が囮役をやる。大丈夫だ。この森とは十年仲良くやってんだからな」

「…ほんまにお人好しやな……ほな、頼むで」


 カサインが風切り音を鳴らして消えた。同時にリーグルも前方へと飛び出す。背中から大剣を取り出し、盾がわりにして突っ込んでいく。


(俺は十年、雑魚を倒して薬草を取って過ごしてきただけ…楽しみといえば初心者に心得や森の生態を教えるくらいだ)


 リーグルは突進の最中で自分の半生とも言える長い年月を振り返る。楽しくはあった。充実しているとも言えるのに、何か足りない日々の連続。


(カサインは金等級…ランク一つ違うだけで犬と熊くらいには差がある。カサインは俺より若いだろうに二つも上のランクだ…)


 そして、そんな男が状況が状況とはいえ自分を頼りにした。それは、お人好しのリーグルにとって何よりも嬉しいことだった。恐怖の中、確かにリーグルは笑っていた。


 そんな感情が積もりきる前に、攻撃が始まった。

 

 いくつもの矢はリーグルの大剣により弾かれ続ける。しかし、一本は肩を掠め取った。


「グッ…!」


 あるのは痛みのみで、リーグルは眠らなかった。


 痛みを押し殺し、リーグルは走り続けカサインはリーグルの状況を見つつ、矢が打たれた方向に走る。


(リーグル、上手くやってくれとるみたいやな…さっさと倒さんとあかんのやが…多分ワシと同格かそれ以上か…リーグルも耐え切ってくれるか分からへんし、救援用の煙弾も急に来たもんで持っとらへん…いやになるで)


 草木に隠れつつのため、見つかることはない。カサインはそう考えていたが、敵は、気づいた。


 ビュンッ


(くっそ…!気づきおった!……勘もええな…狙いもこっちに変えてきよったわ)


 矢がカサインの頬を掠めてわずかに血が滴り落ちる。幸い軽傷ではあったが、状況としては重傷だ。


「虎の子やったんやけどな…高くつくで」


 カサインは立ち止まり、古びた紙を取り出した。


甲斐甲斐しく吹く風(ノイジーウインド)!」


 カサインが叫んだ瞬間紙は塵に変わり、轟轟と風が吹き始める。


 風は矢を振り落とし、木の葉を絶え間なく吹き飛ばす。


(これでもう撃てへんやろ!さっさと殺してセイスケくんを…)


 全ては順調だった。


 カサインには、相手が手練れでも勝つ自信さえあった。


 問題は、相手が()()()()()()()()()ことだった。


「武器を捨てろ」


 敵…セイスケの前でクロヌノと名乗った男が、短剣をセイスケの首に突き立てていた。


 血が滴り落ちてなお、セイスケが目覚める様子はない。


(くっそ…!最悪もいいとこやぞ…!)


 カサインはすぐに打開策を考えようとするが、セイスケの命を守ると言う目的がある以上、ここからどうすることもできないのは分かり切っていた。


 おそらく、目的は彼自身である以上、実際に殺すことはないのかも知れないし、その想定だったが、命というものを天秤にかけるには、リスクが大きすぎた。


「…カサイン……」

「……はよ行くで…」


 次にリーグルが見たのは、街がある方向へ逃げていくカサインだった。


 クロヌノもここでセイスケを殺せばすぐにカサイン達が自分を取り押さえる…カサインも、殺したいのなら脳天なり首なりにもう一本矢を撃つだけ…


 両者ともが、何も言わずに妥協点を合致させた結果、カサインは帰ることにしたのだ。


「でっ、でも、セイスケは…」

「帰る言うとるんやアホ」


 冷たい言葉に、リーグルは激昂してカサインを見る。が、すぐに怒りはおさまった。


 顔を歪ませ、今にも動き出しそうな手の震えを見て、リーグルも、カサインがどれほどの不甲斐なさを感じているのかを瞬時に理解したからだった。


 クロヌノが見えなくなった頃に、カサインは小さく呟いた。


「…ホンマにダサいな…」




 







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