寝る間を惜しんで
ザインの鍛冶屋で、今日も俺は手伝い(日給銀貨3枚)をしていた。
金が欲しいししばらく森には入りたくないというのが主な理由ではあるが、自分の刀が出来ていく様を見たいというのも本音だ。
流石に暑すぎて最近頭を坊主にしようか迷っていたころに、カサインが様子を見に来た。
「お〜やっとんねえ、クソオヤジ」
「黙れクソカス、今集中してんだよ」
カスがついた…
「そういやセイスケくん、このオヤジどれくらいこの刀打っとるん?給料いくら?俺の剣できた?」
カサインはすぐに俺に狙いを変えて色々質問してくる。ただでさえ工房は暑いのにこいつの暑苦しさで2倍増しで暑くなる。クソカスめ。
「まず、剣は店の右の棚に入れたって、給料は1日3000貰ってて、ザインは5日間寝ずに鉄打ってる」
「いつっ…!?……流石に剣狂いやな…一応無理しんようには言っといてな、あれでも育ての親やし」
ここでとんでもない情報ぶっ込んでくんな、最初に言えよという言葉を飲み込んだ。
「ああ、分かった…それじゃあな」
「ほんじゃあねー」
やっと行ったという感じだ…いた時間としては10分にも満たないはずなのに何故か1時間くらい話していた感じを与えてくれるクソカスである。
うし、じゃあ手伝いしないとな…そろそろセラミスに給料負けそうなんだよな…まずいよな…
あいつこの街に来てものの1週間くらいで一日2万円持ってくるので、このままだと俺はヒモになる。
ヒモになる前に俺もちょっとは稼がないとな…
「おおい!!誰かいるか!!??」
受付の方から声がする。
いつもいる見習いさんが流行り病に感染したらしく、受付も俺になった。
早速、怖がられたりしないように手に革手袋をつけて見に行く。尻尾を見られるのでほとんど意味はないが…まあマシにはなるだろう。
というか…何か聞き覚えがあるような…
「おお、この剣欲しいんだが……ん?」
「はいはい…早速在庫から出してく……ん?」
「セイスケ?」
「…リーグルか?」
今日は見知ったやつとよく会う日らしい。
ーーーーー
昼の休憩時間、俺はリーグルと店の裏手で談笑していた。
その中で、俺はあの言葉をまた聞いた。
「そう言えばあのレッドベア、本来の生息地から大分離れたところに同種が湧き始めてるらしいぞ」
嘘だろ…あんなのが大量に来たら薬草どころの話じゃないだろ。
…というか、急にそんな事態になる理由なんてものは限られてくるよな。
餌が足りなくなったとか、もしくは…
「レッドベアよりずっと強い奴から逃げてきたのか…」
レッドベアの顔を思い出す。大分興奮していたはずだ。そうでないとあり得ない暴れようだったんだから。
「まあ、そんな想像したくねーけどな…んじゃ俺帰るわ」
「ああ、またなリーグル」
こうして、俺も午後からの作業を再開した。
戻ってきてみると、熱気の中でザインはまともに休憩もしていないだろうにまだ鉄を打っていた。
「ザイン、流石に休んだらどうなんだ?」
「……あとでな」
ここでハイそうですかというのは簡単だが、カサインにザインのことを頼まれているし、簡単には引き下がれない。
「俺の刀なんて、そこまで工夫して作らなくってもいい、自分の体の方を大事に…」
「てめえのためじゃねえって言ったはずだ…休憩も必要ない」
「…それは……」
ザインの心境が分からないわけじゃない。あの龍紋刀以上のものを俺は見たことがない。
職人があれを見たら嫉妬や尊敬の念が生まれるのだって分かる…だが。
「だからって、その刀を作る体を壊したら元も子もないだろ!」
チャンスは今回だけってわけじゃない。非合法でも刀に使われている「特殊な素材」も、集めるのは不可能ってわけじゃない。そもそもあれ以上のものが作れなくっても、俺はあれを貰う気はない。
「そうか…まあそうだな、言い方が悪かった………もう出来てるんだよ、刀は」
「…は?」
ん?いや、じゃあなんでまだカンカンカンカン鉄を打って……
「刀を作るための他の素材を買うとき借金した。あと二日で利息分返さねえと鍛冶屋が押収される」
「…ああ、そう……」
ここで俺の休んで欲しいという優しさは瓦解した。
どうなってんだ。




