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神を越える

 料金を支払い終わった後、俺はオヤジ、もといザインの刀の打ち直しの見学兼手伝いをしていた。

 

 実際に工房に来てみるとすごい熱気が身体中に走る。今すぐに革手袋を外したくなる。


 幸い今日は工房にいるのはザインだけではあるし、尻尾も見られてるのに腕の革手袋はどうにも外したくない。


「どうした?その手袋、暑いだろ」

「……分かった」


 今のところ、俺の鱗だらけの腕はセラミスと、一緒に野宿したアルキにしか見せてはいない。


 拒絶されるのは怖いが……まあ、その時は俺がこの工房からさっさと出ていけば済むよな。


 俺は、手袋を外した。


「……」

「なんだよ…別に気持ち悪いなら出てくぞ」

「……いや、いい腕だと思ってな…」


 いい腕…自分の尻尾や鱗をそんなふうに褒めてくれたのは、先生と母さんくらいだったな。


「わざわざ俺らみてえに厚い手袋しなくたって飛び散る火花を気にしなくて済むんだろ?いい腕じゃねーか」


 自分の腕を改めて見ると、自分でも醜いと思えるくらい君の悪い色合いの鱗に覆われているだけだった。


 でもまあ…そうか、いい腕か。


「…なにぼさっとしてんだ、さっさと素材持って来い」

「あ、ああ、すまん」


 おっと…ザインがいよいよ怒ってクソオヤジになってしまう前にさっさと手伝いを終わらせないとだな…


 いくつか指定された鉄や燃料を持ってきて、ザインは早速やるかとでも言うように深く息を吐く。


 さあ、早速刀の打ち直しが…と、思ったのも束の間。



 ザインは、俺の刀を溶かしていた。



「なにやってんだああああああああああ!!!!!!」


 思わず叫んでしまった。いや!でもなんで溶かしてんだ!もっとなんかこう…なんか、そういうやつなのか!?


「しょうがねえだろ…カタナに使われてる「素材」がいる」

「……そざい?鉄だろ?」


 先生が玉鋼から作ると言っていたが、鉄を錬成すれば鋼自体は作れる。古釘から作られた刀だって多いし…


「普通はな…大陸だとミスリルなんかの希少鉱石なんかでも作る」

「…?じゃあ刀にそういう鉱石が使われてるってことか?」

「じゃねえと、あの細さであんな強度ありえねえからな…」


 ザインは冒険者が普段から持っているような太めの剣と、あの龍紋の入った刀を持ってきた。


 龍紋刀を台に置いた後、剣を振り上げる。


「…どっちが折れる?」

「いや、そりゃ切れ味は刀だろうけど、そんなんでぶっ叩いたら流石に刀も…」


 キンッ!!


 高い音が鍛冶場に響く。


 あー、ほら、なんてもったいないことす、る…


「太い剣の方が…折れてる」


 剣は折れて二つに分かれていた。刀は傷一つだってついてはいなかった。


 いや…さすがにどういう切れ味してるんだよ…それは。


「カサインの剣はな、ありゃ俺が作ったやつだったんだが、それもこれだ」


 ザインはもう一つの剣…いや、「剣だった」物を見せた。


 ほとんど壊れている。刃にもはや光はなく、ギリギリ形を保っていたという見た目だった。


 マジかよ…俺あいつの剣折ってたのか…申し訳な


「あいつのせいでこうなってるだけだ…あのクソは好奇心が強い…」


 ああ、そうですか……あのクソって…


 クソオヤジとあのクソ…ハエがたかりそうなあだ名を付け合ってるってどうなんだよ。


「…なんでこんなにカタナが強いか、分かるか?」


 ザインは龍紋刀を手に取った。その目は、嫉妬や羨望の感情が乗っているように見える。


「そりゃ作ったやつの腕がよくって、素材も完璧って話で……さっき言ったろ」

「それもあるんだろうな……でもな、俺は腕じゃなく、心の話だとも思う」


 心?精神や魂の話か……いや、まあ大事だとは思うが、所詮そういうので出せる力なんて少しだけだ。


 結局は日々の積み重ねとか才能の話になる。それが大部分なんだから、心の力なんてのは考えている暇もない。


「ちっぽけだろうがな…ちっぽけでも、神様が決めてくれたいつもの自分より少しだけは強くなれる」


 ザインは刀を握った。強く、心を込めて。


 ザインにだって思うところはあるんだろうな…いくら努力しても越えられない壁がそこにある。どうしようもない高いほど壁というのは別にいい。


 だが、あと一歩、もう少しで届かない壁なんだろう。でないとここまで入れ込む理由もないだろうし。


「もしも俺があのカタナよりダメなモンを作っちまったら、てめえに両方やる」


 …突然提案してきた……


「いや、そりゃ嬉しいが、凄い値打ちのある代物でもおかしくないモノをハイそうですかって簡単に受け取れねえよ…ありがたいけど、そこまでする必要は…」

「心の問題だ…どっちにしろ踏ん切りをつけたい」


 心…か。


 神なんていうものは信じていない。いたら、俺みたいな半端なヤツを作ろうだなんて思わないだろう。良くているとすれば地獄の鬼か閻魔かだ。


 もし神がいるのなら、それは自分の中にしかいない。神を超えたいのなら、自分を超えるしかない。


 つまりは、(じぶん)を超える、ということなんだろう。

 

 溶鉱炉では、すでに刀がグツグツと音を立て始めている。俺はザインの一言がやけに耳に残っていて、この工房の暑さのせいか、やけに胸が熱くなった。


 



 




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