赤き大熊
母さんを救えなかった。それでも今度は、ここでは人を救いたい。先生が俺にしてくれたように…
「ガルアアアアア!!」
…そうは思ったはいいが、この熊が弱くなるわけじゃない!文字通り刃は立たず、俺の方はまともに受ければ即死。どうなってんだ。
リーグルも容態が分からない…一応防いではいたが、失血多量で死ぬまで時間があるかも…
「ガアッ!」
「ちょっとは考えさせろよ!」
油断はできないが、攻撃自体は見慣れてきたな。気が立っているのか大振りばかりなのが幸いか…
とは言っても、さっさとこいつの首を吹っ飛ばしてやる計画を立てられなきゃその内死ぬな。
「アアアアアアアア!!!」
熊が乱打を始めたな…よし、これなら時間も…
「ゥアッ!!!」
熊が乱打で飛び散っていた土を手にすると瞬間でぶん投げる。土は、高速で俺の肉体を叩く。
柔らかい土であっても、高速なら石と変わらない。
「なっ…!?」
こいつ…頭を使い始めやがった…!
くっそ、そういう地の利を生かしたり頭働かせんのは人間だけでいいんだよ…!お前らみたいなのが頭まで使うといよいよ手に………いや、そうか…
「俺も頭使うからな…覚悟しろクソ熊…!」
どうにも興奮してくると先生の口調がうつるな……いや、そんなことは今どうでもいい。今の問題は、この思いつきが成功するかだ。
そして、熊が早速乱打を始めようという時に、俺は「逃げた」
「………ガ……」
熊がいきなり俺が逃げたもので困惑して棒立ちしている。
「突っ立ってんじゃねえぞ間抜けぇ!!」
俺は一瞬逃げた後、そこら辺にあった石を熊の目をめがけて投げつける。
石は見事に熊の右目にヒットしたらしく熊が怯む。
「ァガアッアア!?!」
「ほれクソ熊!てめえの脳天に石で穴開けんぞ!いいのかよ!」
「ガアアアアアアアアア!!!」
熊は怒り狂い、俺に向かい突進する。そして、すんでのところで避けてやると、木に激突した。
「ギガッ…!」
…よし、ここまでは計画通り…あとは…!
「グアアア!!」
熊はフラフラと立ち上がる。そして、俺に向かい二足で近づき、その手を思い切り踏み込んで振り下ろす……
だが、それは「踏み込めれば」の話だ。
熊は、俺の目の前で転倒する。
「ガッ…!?」
「土を投げつけたおかげで、でかい木の根っこも見えにくくなってたからな…」
刀を落ちてくる首に当てる。ここで失敗すればあとはない…
足を踏みこめろ…!力を刀に集中させろ…!歯を食いしばれ……!!!
「死ねエエエエエ!!!!!!」
全力の元に熊の首を斬る。落ちてきた勢いもあり、熊の首の皮は剥がれ、血がドバドバと出てくる。
しかし、まだ首を完全には切れておらず、熊の目は生きている。瀕死に変わらないだろうが、俺を殺せるくらいには気力も残っているだろう。
だが、俺の勝ちだ。
「回天」
先生がたった一度だけ、俺のためだけに考えて、俺だけに教えてくれた技。切った勢いのまま、体の中心を軸に回転する。尻尾を相手の顔面に叩きつけて怯ませ…
「二の太刀により、首を跳ばす」
ザンッ
熊の首は、胴体と泣き別れた。
一瞬飛んだ首が俺を見て、血は土に染み込んでいく…そこにはただ小鳥の鳴き声だけが木霊する。
「……勝った……んだよな…?」
俺はほっとして地面にへたり込む。よかった、これでリーグルを………………あ。
「せ、セイスケ…余裕があったらでいいんだが、街に…」
そうだった。この巨体を街に運ばないとだったんだったな…
刀を握っていた右の手は痺れて使い物にならない。残った左の肩で、俺はリーグルを担ぐ。
「…リーグル、歩けるか?」
「大丈夫、ちょっと痛むが、死にゃあしねえよ」
よかった…また救えなかったらと怖かったのが嘘のように気分が晴々としていく。
そうして俺が浸っていると、リーグルが震える指で熊の首を指差す。
「ああ、セイスケ…あいつの首くらいは持って行ったほうがいいぞ…討伐申請分の金はもらえる…」
「?他の報酬もあるのか?」
「例えば素材の解体までやってんなら十割分の報酬…素材まるまるでも八割だな…討伐申請と頭だけってなると三割がいいとこだ」
こんなに苦労して倒したのに三割か‥でもまあ金貨一枚くらいはもらえるだろうし、もう二、三日は持つだろうしいいか。
「この熊はいくらくらいになるんだ?」
「…まあ、十割なら金貨100枚くらいになったはずだ」
「ひゃくっ」
変な声が喉から出た。




