薄氷のように砕ける
森から戻りリーグルを医者に引き渡した俺は、早速熊の頭をギルドに売ろうとしていた。が、ここで問題が起きた。
「報酬は無しぃ!?」
受付からの無慈悲な判断を受けて、俺は大声を出してしまった。それでも声は響かず周りの話し声に消えていく。
受付の女性は大きい青色の瞳を潤ませながら滑舌良く説明する。
「冒険者には黒炭、屑鉄、木、銅、銀、金と6つのランクがあるんです…この『レッドベア』は銀に相当する討伐対象で、最低でも銀等級でないと評価はできないんです…実力不足の人が不当な評価を得て、いざ緊急辞退になった場合の危険を無視はできないので…」
…ぐうの音も出ない正論を言うのはやめてもらいたい!!!
いや、まあちゃんとした理由がある以上帰るしかないしな…また森に薬草をとりに行くしか…
「ケラリちゃん、どうしたん?」
気づくと、後ろにすらっとした剣士が立っていた。特段異色さだったりは感じない。
強いて言えば、赤い夕焼けのような髪と独特な訛りは随分と印象に残る男だな。
「カサインさん?!うぇっ、えっ、えっと、こ、この冒険者さんがレッドベアを討伐してくれて、それで等級に合っていなかったので、その説明を…」
受付の女性はいきなり話しかけられたからか、少し返答がしどろもどろになっている。
でもまあそれでも随分聞き取りやすい声してるな…やっぱそういうやつはこういうのが天職だったりすんのかな。俺の天職ってなんだろうか、できれば冒険者が天職ってのは嫌だよな…
「すごいやん!!レッドベア、ほんまに一人で倒したん!?」
「わっ」
考え事をしてる中でいきなりカサインとやらが喋りかけてきた。うるさっ、耳元だからさらにうるさい。声量どうなってんだ。
「まあ、いちおうひと…」
言い終わる前にリーグルのことを思い出す。あいつもいたし、一応二人か、いなかったら初っ端で死んでたわけだし。
「やっぱり二人だな」
「…ほーん、そうなんか……いや、邪魔してもうて悪かったな、堪忍堪忍」
?随分あっさりしてるな。まあ別にいいが。
「えっと、そのもう一人の等級を教えていただけませんか?」
「あー…たしか銅だったって言って」
また言い終わる前にカサインとやらが邪魔をしてきた。
そして、それは言葉ではなく、剣による物理的なものだった。
咄嗟に刀を出して受ける。
ガギンッ
鈍い音がしたあと、カサインの殺気は無くなり、両者剣を収める。いや、それより…
「お前っ…なんなんだよ」
「なんや、やっぱり一人だったやろ…なんで二人なんて嘘言ったんや?」
なんなんだよいきなり…というか嘘じゃ……………
……………いや、刀…ちゃんと受けたらキンッて、もうちょっと高い音が鳴るよな?
…そーっと刀を見ると、見事にヒビが入っていた。
「先生の、刀が……」
カサインを見ると、目は白目をむいて顔の穴という穴から汁が出まくっていた。受付がドン引きしている。
「か、カサインさん……」
「ブクブクブクブクブク…」
カサインは口から泡を吹いて卒倒すると、受付がドン引きして体を後ろに寄せた。
……いや、精神貧弱すぎだろ。
ーーーーー
「ほんまに申し訳ありませんでした!」
少し経ってカサインは気を戻してすぐに俺に土下座をしてきた。
冒険者みたいな職業は名誉が金に直結するようなものだろうに…誠実なのはいいが、俺ごときのためにそこまでしてしまうと周りの目が怖くないのだろうか。
「詫びはワシにできることならなんでもする!ワシは金等級やし多少の融通も効くから、あのレッドベア分の金も組合の代わりに渡す!せやからどうか堪忍してくれや!」
…うーん、反省しているようだし、許したいというのが本音だな。
そもそも大熊…いや、レッドベアの硬い皮膚に無理矢理刀を入れたり、あの山賊どもの刀を受けたり、ここまで持ってくれたこと自体奇跡だ。
…でもまあ、お金に困ってるのは事実なわけで、貰っておいて損もないよな。
「じゃあまあ、レッドベア分の金くれるならそれでいいよ」
「ほんまか!…いや、恩に着るわ!多分金貨2枚くらいかかるやろうけど、その刀打ち直ししてくれる店も教えたるからな」
おお!至れり尽くせりだな。ここまでくるともう刀には折れてくれて逆に感謝…は、流石にできないな……先生、すみません。
「それじゃあまた明日、集合は組合前でいいよな?」
「そうやね、ワシもはようその刀直してくれるところに話つけとくでな」
そうして俺たちは別れたが、道の途中で俺は、カサインの最後の言葉の違和感に気づいた。
…あいつ、なんで「土下座」も「刀」も知ってたんだ?




