人は九割見かけによる。
街の外から何時間か歩いて着く大森林、太陽を遮る木々が不穏さを醸し出すそんな場所。
そこで俺は、あのガタイのでかい男と荒い道を歩いていた。
「おい!セイスケ!こっちの方はあぶねえからあんまり奥に行きすぎんじゃねーぞ!」
随分と親切に道案内をしてくれる。なぜこんな状況になったのか説明してみようと思う。
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「悪かった!お前の事情も知らねーで…好き勝手言っちまった!!」
冒険者登録を終えて、まずそいつは謝罪してきた。
「いや、いいですって…顔上げてくださいよ…」
「そういうわけにゃいかねえ!このままじゃ俺の気がすまねえ!」
…マジかよ…いや、随分優しいやつなんだろうってのは分かるんだが、頭を下げ続けられたってどうしようもないんだが…………
……ん?あの依頼の紙…………絵からして薬草採取………あ、そうだ。
「じゃああれだ!今からあの依頼受けるから、それ手伝ってくださいよ!ね!?」
あとで他の奴らに変に目をつけられても面倒だし、適当に一回お願い聞いてもらってそれで終わりってのが一番いいだろ…
「そうか!西の大森林なら特に知っている!任せてくれ!」
随分と目をキラキラさせるなぁ…ガタイと顔の怖さとの対比がかなりやばい。
「あぁ…じゃあ、俺はセイスケって言います」
「俺はリーグル・ニン!よろしくな!」
俺の小さい手と、リーグルのゴツく傷だらけの手が合わさる。
こうして、少し奇妙な仲間ができたのだった。
ーーーーー
と、ここまでがここまでの流れ…にしたって、振り返ってみてもこいつは少し優しすぎる。
小さな川でも俺が怪我しないよう注意を払うし、分かりやすくこの森の植生を教えてくれる…
他もこうなのかな?と思ったが、森の中で会った冒険者の集団が俺をみた時のそれはもう嫌そうな顔を見るとそうでもないらしい。
「ほら、ここは特に薬草のホリ草が生えている。奥にいくと危険な奴も多くなってくるから、大体の奴らは少しずつ奥にいって慣らしてく」
「そうか…毒草とか、危険な物ってないんですか?」
「……ないが…」
な、ないが…?
「お前、敬語はやめといた方がいい、俺たち冒険者は慈善団体じゃないからな、そういう仕立てに出てくる奴…特に成り立てだと目をつけられる……軽 少し軽すぎるかってくらいの軽口でいい」
「あぁ…じゃあ……リーグル?」
「おう!それでいい!……ああ、でもお偉いさんには流石に使うようにな」
なるほどな…敬語はアルキさんに使うくらいでいいか…それじゃあまあ
「ここまでありがとな!それじゃ!感謝してる!」
俺はズイズイとリーグルを街の方向に手押しする。が、大岩みたいな体はびくともしねえ。どうなってんだ。
「?いや、俺も薬草採取手伝うぜ?それにこれからも一人じゃ不安じゃねーのか?」
マジに優しいなこいつ……こいつのせいで俺の冒険者のイメージが黒寄りの灰色からどんどん真っ白になってくる。
でもだからってこいつに頼りきりじゃダメってのは分かるし、何より…………
「もうついてこなくっていいし、邪魔だからもう俺とも関わんなっつってんだよ」
…別に嘘ってわけじゃない。半分くらいは本音だ。俺みたいなのと一緒にいたら、そのうちこいつが迷惑被るに決まってるんだ。
「そ、そうか…困ったことがあったら戻ってこいよ!」
「…ああ、ありがとうな」
リーグルは街の方向に歩いていく。…安心した。少し申し訳ないが、この森のことを教えてくれただけでうれしいくらいだしな…さて、薬草を…
その時、森の奥にいる「赤いなにか」に気づいた。
…間違いない…いや、そこまで危険ではないとリーグルは言っていたはずだ。……なのになんで…
赤い大熊がいるんだよ。
「グルオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
くっそ!気づかれた!…いや、でも足はたいして速くなかったはずだ…!リーグルを連れてさっさと街に…
ドドドドドドドド
大熊は、いつのまにか俺の目の前まで突進していた。
「はやっ!?」
咄嗟に身を逸らすが、肩に掠れて皮が剥がれる。
くそ…早く体勢を…
「ガアアアア!!!」
俺の横を熊の巨大な手が落ちる。あまりに突進から攻撃の時間が早い。
こいつ…あの時の熊より速い…興奮してんのか!?…逃げ…
「ガアアアアアアアアア!!!!!」
まずい!死……
「セイスケエエエエエ!!!!」
俺が死ぬ寸前リーグルが俺を突き飛ばす。そして熊の手は、リーグルの横腹を裂いた。
「あんた…何やって…」
「グガアアアア!!」
再び攻撃が始まる。リーグルが、満身創痍の体で熊の巨体を押さえつける。
しかし意味もなく、大熊はリーグルの首根っこを掴んで軽々と持ち上げる。
「セイスケ…に…げ…」
言い終わる前に大熊はリーグルを投げつける。リーグルの体は吹っ飛んで木に叩きつけられた。
「グルルルル…」
大熊は唸り声を上げながらリーグルに近づく……
その時、俺は逃げようとしていた。ここで俺が立ち向かって死んでしまったら、リーグルの頑張りが無駄になると思ったからだ。
それなのに、俺はいつのまにか、熊の腹に刀を立てていた。当然刺さらない。
…?いや、何やってんだよ俺、リーグルが逃がしてくれたのに、何やって…
「グルルルル…」
赤い大熊は俺に気づく。手を振り上げて俺を襲うが、今度はスレスレで避けられた。
「セイ、スケ…」
リーグルが瀕死になっている。その顔は今にも死にそうで、血が抜けているのか顔は青く染まっている。その顔はあの時の母さんにそっくりだった。
…ああ、そうか、今度は救いたいのか。




