↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★296.4万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
705/714

博之45歳。三月四週目、九鬼水軍の子供たち

三月四週目。

 伊賀越えを来週に控えた博之は、ふと思い出した。

「……あれ、やっとかなあかんな」

 用意したのは四万文。

 それに伊勢松坂屋で作らせた弁当をいくつも積み、自分も歩く練習を兼ねて

 九鬼水軍の拠点まで向かった。

「旦那、また歩いて来たんか」

「伊賀行くからな。鍛えてんねん」

「途中、荷車乗ってないやろな」

「……細かいこと聞くな」

 弁当を広げながら、博之は本題を切り出した。

「今日は子供らの話で来た」

「おお!」

「覚えてたんか!」

「覚えてるわ!」

 以前、松坂の子供四十人を伊勢神宮へ連れていった際、九鬼水軍の者から、

『わしらの子供は?』

 と言われていた。

「四月入ったら俺、伊賀越えするねん」

「ほんまに行くんか」

「一生に一回あるかないかやな」

 普通なら亀山や関を回り、荷車も使って草津方面へ抜ける方が楽である。

 今回はあえて伊賀を越え、伊賀の村や寺へ顔を出し、さらに信楽まで見る。

「信楽焼も自分の目で見たいねん」

「その後は?」

「京都郊外と、坂本とか比叡山の方も少しな。せやからしばらく松阪空ける」

 その前に、約束だけは片付けておこうと思ったのだ。

「これ」

 博之が四万文を置く。

「何じゃ?」

「子供ら用」

「四万?」

「表では言うなよ。裏の銭や」

 博之の案は、松阪でやったものとほぼ同じだった。

 松阪、伊勢、鳥羽。

 それぞれの港町で、寺と神社から五人ずつ選ぶ。

「六か所で三十人」

「残り十人は?」

「港でよう手伝ってる子とか、弟妹の子守してる子とか、漁の手伝いしてる子とか。そこは任せる」

「基準は?」

「独断と偏見」

「雑やな!」

「全員連れて行けへん以上、絶対誰か不満言うねん。最初から今回はこっちで決めます、

 恨みっこなし。それでええ」

 年齢はおおむね十歳以上。

 親の了承を取り、選ばれた子には一週間、伊勢松坂屋で働いてもらう。

「松坂で受け入れた時のやり方、こっちにも手紙で送っとく」

「一日四十文やったか?」

「そう。七日で二百八十文」

 掃除、薪運び、皿の準備、軽い荷仕事。

「ちゃんと七日働いたら、その二百八十文は本人の銭」

「それ持って伊勢神宮へ?」

「そう」

 まず参拝。

 その後、門前町で自分の稼いだ銭を使わせる。

「ただな」

 博之は四万文を指差した。

「二百八十文なんか、伊勢行ったら一瞬や」

「そらそうや」

「せやからこれは大人側の銭」

 引率の費用にも使う。

 子供が本当に欲しい物を見つけた時には、後ろから少し足してやる。

「松坂の時と同じや」

「最初から千文渡さんのか?」

「それしたら自分で稼いだ二百八十文をどう使うか考えへんやろ」

「なるほど」

「自分の銭で考えて、それでもどうしても欲しいもんがあった時だけ大人が少し助ける」

 必要な道具や移動の手配については、伊勢松坂屋側でも融通する。

「船は?」

「それこそ九鬼さんらの得意分野やろ」

「そこは任せろ」

「ほんで伊勢神宮参って、買い食いして、土産一個二個持って帰ったら、ええ思い出になる」

 九鬼の者たちは嬉しそうに笑った。

「旦那、ほんま太っ腹やな」

「いつも世話なってるからな」

「四万文やぞ」

「八億九千万ある言われても、俺もよう分からんようになってきてるし」

「その感覚は危ないぞ」

「分かってる」

 弁当を食べながら、話は信楽へ移った。

「せっかく四月に俺も行くから、焼物も見てくるわ」

「安城で売ってるやつか」

「そう」

 ただ、生産量を無闇に増やせばいいわけではない。

「値段壊したらあかんからな」

「ほう」

「でも例えば若い職人がおるやろ?」

「おるやろな」

「一人前の商品として売るにはまだちょっと、いう焼物もあると思うねん」

 形が少し揃わない。

 焼き色が予定と違う。

 熟練者の品として高値では出せない。

「それを伊勢松坂屋が店用に買えへんかなって」

「練習で焼いた物を?」

「そうそう。飯盛る器なら多少形違っても使えるやろ」

 若手は練習できる。

 窯元は捨てずに銭へ変えられる。

 伊勢松坂屋は安く器を揃えられる。

「でも大量に買ったら、それはそれで『安いやつ作れ』ってなってまう」

「難しいな」

「せやから現地見て考える」

 九鬼の男が笑った。

「子供の話しに来たと思ったら、またでかい話しとるな」

「まだ何もしてへん」

「考えてる時点で怪しいわ」

 別の者が四万文を見て、にやりとした。

「まあ、子供らには自慢できるな」

「何て?」

「『わしらが大旦那説得して伊勢連れてってもろたぞ』って」

「お前ら一文も出してへんやん!」

「そこは言わん」

「ずるいやろ!」

「船は出すぞ」

「それは仕事や!」

 笑い声が広がった。

「でもほんま、ありがとな」

「ええよ」

 博之も笑う。

「ここまではもうバレてるからな。しゃあない」

「ほな他所には黙っとこか?」

「ぜひそうしてください」

「どうしよかなあ」

「言うなよ!」

 九鬼水軍の拠点で、また四十人分の思い出作りが決まった。

 そしてそれを済ませた博之は、ようやく心置きなく伊賀へ向かう準備に入れる――はずだった。

「旦那」

「何?」

「帰りも歩くんか?」

「……弁当食ったし、荷車でもええかな」

「伊賀、大丈夫か?」

「あと一週間あるから」

「一週間しかないんやぞ」

 九鬼の館に、また大きな笑い声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。