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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之45歳。三月四週目、伊賀越えの荷物を減らされる博之。

三月四週目。

四月の伊賀越えを前に、博之は松阪郊外の和尚と、奈良から来ている僧たちを呼んで

話をすることにした。

「せっかくやから、一緒に行きます?」

「伊賀をですか?」

「そうそう。俺も行くし、皆さん奈良へ戻るんやったら途中まで一緒でええやろ」

 奈良の僧たちは顔を見合わせた。

「それはありがたいですな」

「ちょうど道も少し整備させてるんですよ」

「道を?」

「草刈ったり、倒木どけたり、小さい沢に板渡したり。大工事ちゃいますけど」

 それを聞いた途端、奈良の僧の表情が明るくなった。

「それは本当にありがたいです」

「そんな違う?」

「違いますよ」

 伊賀を越える道は、慣れていても気楽な道ではない。

「行く前から少し心持っていかれるんです」

「そんなに?」

「山ですからな」

 道幅が狭い。

 足場が悪い。

 雨が降れば滑る。

 荷を背負えばさらに厳しい。

「ただ、あそこを越えたら奈良へ帰れると思うと、それはそれで一区切りなんです」

「修行みたいな?」

「まあ、そうですな」

 若い僧なら、伊賀を越えたというだけでも一つの経験になる。

 他の僧からも、

「よう歩いてきたな」

 と認められる。

「ちょっと箔がつくようなもんです」

「ほう」

「だから覚悟して越える道ではあります。ただ、大旦那が少しでも歩きやすくしてくれるなら、

 そら助かります」

 博之は満足そうに頷いた。

「やってよかったな」

「で」

 和尚が聞いた。

「大旦那は何を持っていくんです?」

「蒸籠」

「はい」

「いっぱい」

「……いっぱい?」

「せっかくやからな」

 博之は指を折り始める。

「粉、小豆、味噌。あと菜饅頭作る材料。それと向こうで野菜買って蒸したいから、塩やら調味料やら」

「他には?」

「米も多少」

「はい」

「あと、困ってるところあったら融通できるように物資も」

「まだあるんです?」

「せっかく俺が行くんやで?」

 博之は当然のように言った。

「大旦那が来たから、ここ足りてません、あそこ困ってます、いうの見て、銭出したり

 物渡したりするんも仕事やろ」

 僧たちが黙った。

「……何?」

「大旦那」

「はい」

「伊賀の道、舐めてません?」

「え?」

「それ誰が運ぶんです?」

「あ」

 蒸籠。

 粉。

 米。

 調味料。

 施し用の物資。

 それを全部山越えさせるとなれば、当然その分だけ人が要る。

「人増やしたらええやん」

「増やしすぎたら、今度は泊まるところがなくなります」

「……あ」

「伊勢松坂屋の飯場とちゃいますよ」

 奈良の僧は笑った。

「山中の寺や小屋に、何十人も一気に来たら向こうが困ります」

「なるほどな」

「食う飯も増えます」

「それもそうや」

「水場もあります」

「確かに」

 博之はだんだん小さくなっていく。

「なら荷物減らすか」

「その方がええです」

「蒸籠何段?」

「まずそこから減らすんですか」

「大事やで」

 僧たちはさらに実際的な話をした。

「人数も一団にしすぎん方がええです」

「何で?」

「道細いところありますから」

 前が止まれば、後ろも全部止まる。

 大旦那が、

「ここ休憩しよ」

 と言っても、後ろの者まで伝わらなければ困る。

「列の前、中、後ろに声を通す者を置いた方がええです」

「ああ、それ大事やな」

「時間少しずらして出るのもありです」

「なるほど」

「宿へ着く時も、全員一気に入らん方がええ場合あります」

「さすがやなあ」

 博之は感心した。

「何回も行ったり来たりしてるだけあって、知見溜まってますね」

「大旦那が物見遊山気分なんですよ」

「いやいや、視察やで」

「蒸籠いっぱい持って山登ろうとしてる人が何言うてますの」

 郊外の和尚まで笑った。

「それに、大津や京都郊外へ物資運びたいなら、伊賀越えさせんでもええでしょう」

「え?」

「普通に迂回して東海道側から送れば」

 博之が止まった。

「あ」

「草津まで全部背負わせる必要ないです」

「……確かにな」

「伊賀越えするのは旦那さんと、最低限の荷と、人だけでええんです」

「物資は別便」

「そうです」

 博之は腕を組む。

「それ、ヨイチも考えてるやろ」

「急に人任せにしましたな」

「いやいや」

「旦那さん、完全に忘れてましたやろ」

「……ちょっとだけ」

「完全にですやん」

 博之は笑ってごまかした。

「ええねん。俺が全部考えんでも回るように今仕組み作ってるから」

「便利な言葉ですね」

「ほんまにそうやぞ」

「では蒸籠もヨイチさんに決めてもらいましょうか」

「それは俺が決める」

「そこだけ譲らんのですな」

 結局。

 大量に持っていくつもりだった物資はかなり削られた。

 蒸籠は必要最低限。

 粉と小豆も試食できる程度。

 施し用の銭は持つが、大量の物資は別の道から送る。

 同行者も増やしすぎない。

 列には前後を繋ぐ者を置き、宿と水場も先に確認する。

「……なんか急にちゃんとした旅になってきたな」

「最初からそうしてください」

「俺としては、山歩きしながら饅頭蒸すぐらいの気持ちやってんけど」

「それが一番怖いんです」

 伊賀越えまで、もう間もない。

 道の準備は進み。

 同行者も決まり。

 荷物も減った。

 残る最大の問題は。

「大旦那、足腰は?」

「……それは今日からまた頑張るわ」

「今日から?」

 奈良の僧たちの顔が、一斉に曇った。

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