↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
698/714

博之45歳。3月1週目。信長公が本拠を小牧山に移すので遊びにこいと言われたので祝いの品と饅頭の準備をして赴く

三月一週目。

 松阪へ一通の文が届いた。

「旦那様、織田様からです」

「何やろ」

 博之が開いてみると、内容は案外簡単だった。

 小牧山へ拠点を移す。

 せっかくなので顔を見せに来い。

「……遊びに来い、みたいな書き方やな」

「実際、そんな感じですね」

「ほな行くか」

 祝い事なら手ぶらでは行けない。

 うなぎ飯。

 寄進の銭。

 それに最近作り始めた饅頭。

「蒸籠も持っていこ」

「何段です?」

「いっぱい」

「またいっぱいですか」

「祝い事やからな」

 荷車には蒸籠が何段も積まれた。

 菜饅頭、甘い小豆餡の饅頭、親鶏を使った肉饅頭。

 さらに現地でも蒸せるよう、粉や餡まで持っていく。

「旦那様、小牧山へ商売しに行くんです?」

「祝いに行くんや」

「荷物だけ見たら出店ですけど」

「気にすんな」

 小牧山へ着けば、当然ながら人が多い。

 普請に関わる者。

 荷を運ぶ者。

 武士。

 足軽。

 商人。

 まだ整い切ってはいないが、新しい拠点特有の勢いがあった。

「おお、来たか」

 信長は博之を見るなり、その後ろの荷車へ目をやった。

「……何じゃ、その蒸籠の山は」

「お祝いです」

「祝いに蒸籠持ってくる奴、初めて見たぞ」

「うなぎ飯もありますよ」

「それを先に言え」

 まずは祝いのうなぎ飯。

 それとは別に寄進も渡す。

「これは普請なり、周りの整備なりに」

「また銭か」

「祝い事ですから」

「お前、祝い事のたびに銭出しとるな」

「飯屋ですから」

「その答えで全部逃げるな」

 そして本番。

 火を起こし、釜へ湯を張る。

 蒸籠を何段も重ねる。

 しばらくすると、辺りに白い湯気が立ち上り始めた。

「おお」

 信長だけでなく、周囲の者まで目を向ける。

「これがええんですよ」

 博之が得意げに言う。

「蒸してるだけで人が寄ってくる」

「確かに目立つな」

「匂いもほんのり出るし、蓋開けた時が一番ええ」

 頃合いを見て蓋を取る。

 ぶわっと白い蒸気が広がる。

「うまそうじゃな」

「でしょう?」

 丸に井の焼印が入った饅頭を紙で包んで渡す。

 信長はまず肉饅頭を手に取った。

「箸は?」

「いりません」

「椀も?」

「いりません」

「そのまま食う?」

「そうです」

 一口。

 信長の目が少し細くなる。

「……なるほどな」

「どうです?」

「歩きながら食える」

「そこです」

 博之が嬉しそうに頷いた。

「器いらん、箸いらん。紙一枚あったら手もそこまで汚れへん」

 信長は饅頭を見ながら、すぐ別の方向へ考え始めた。

「行軍にええな」

 博之の顔が曇った。

「……またそっち方向に行きます?」

「何がじゃ」

「せっかく新しい飯作ったのに、すぐ軍の話しをなされますね」

「便利なんやから仕方ないやろ」

「門前町とか旅人向けとか、そういう話ししましょうよ」

「行軍中でも食えるぞ」

「いやいやいや」

 博之は首を振った。

「私はむしろ、村で野菜とか芋を仕入れて、その場で蒸して振る舞う方がええと思ってます」

「振る舞う?」

「そう」

 村へ入ったら、そこで採れる野菜を買う。

 蒸籠で蒸す。

 塩や味噌を少し添える。

「火ぃ使って煮炊きするより、蒸すだけやったら量も作りやすいでしょう」

「ほう」

「地元からちゃんと買って、そのまま村の人にも施しで返す」

「なるほどな」

「軍が通ったら取られる、じゃなくて、軍が来たら銭落として飯まで出た、の方が絶対ええでしょう」

 信長は少し笑った。

「結局、軍の話になっとるやないか」

「違います。施しの話です」

「軍が村へ行った時の施しやろ」

「……まあ、そうですけど」

 横で聞いていた木下秀吉が、何とも言えない顔をしていた。

「木下さん、何です?」

「いや……旦那様の考えは、非常によろしいかと」

「何で言葉選んでんの?」

「いえ」

 秀吉は咳払いする。

「兵が村で勝手に物を取らず、銭を払い、そのうえ飯まで振る舞えば、村人の受けも良うございます」

「ほら」

「しかも蒸籠なら、饅頭だけでなく芋、菜、根菜も使える」

「ほらほら」

「その土地の物を使えば運ぶ荷も減りますし」

 信長が笑う。

「ほら、行軍向きやないか」

「木下さん!」

「いや、私は旦那様の施しの考えを褒めております」

「顔が軍略の顔やねん」

 秀吉は困ったように笑った。

「まあ……両方に使える、いうことでは」

「その言い方ずるいですわ」

 信長は今度は菜饅頭を取った。

「でも面白いぞ」

「でしょう?」

「湯気で人を集めて、腹を満たして、紙で渡して、器を洗う手間も少ない」

「そうそう」

「城下でも使えるな」

「そういう話を待ってたんです!」

「陣中でも使える」

「戻った!」

 周囲から笑いが起こった。

 信長は気にせず饅頭を食べ続ける。

「熱田でもやれ」

「え?」

「お前、伊勢ばっかり見て熱田忘れてへんやろな」

「忘れてませんよ」

「ほんまか?」

「伊勢で売れるなら、熱田でも受けると思ってます」

「なら試せ」

「はいはい」

 秀吉が横から笑う。

「旦那様、また店増えますな」

「店増やすとは言うてへん!」

「でも蒸籠は増えそうですね」

「それは……増えるかもしれん」

 信長が声を上げて笑った。

「小牧山祝いに来て、結局また商い増やして帰るんか」

「違いますって」

「何が違う」

「今日は祝いです」

 そう言いながら博之の目は、すでに蒸籠の数と人の流れを見ていた。

 新しい拠点。

 大勢の人。

 湯気に寄ってくる足軽や職人。

「……ここ、普通に売れるな」

「ほら見ろ」

「今のはなしで!」

 祝いのうなぎ飯よりも。

 寄進の銭よりも。

 結局一番人を集めたのは、白い湯気を上げる饅頭だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。