博之45歳2月4週目。伊勢神宮帰り。九鬼水軍で1泊後松坂帰還。子供たちが色々話す。博之は色々疲れたから寝るwww
伊勢神宮を参り、門前町を歩き回り、買い物をして、天ぷらまで食べた四十人の子供たちは、
帰りの船に乗るころにはさすがに疲れ切っていた。
「旦那……眠い」
「そら眠いやろ。朝からずっと騒いでたもんな」
土産物を抱えたまま船の上でうとうとする子もいる。
そこで博之は、無理にその日のうちに松阪まで戻すのをやめた。
「九鬼さん、すいませんけど、今晩一泊させてもらえません?」
「まあ、この有様ならその方がええな」
九鬼水軍の館へ入り、子供たちは大部屋に分かれて寝ることになった。
「布団ある!」
「そらあるやろ」
「船の人らの家、もっと怖いと思ってた!」
「どういう想像してたんや」
九鬼の若い衆まで笑う。
さすがに一日遊び回った後である。
いつまでも騒いでいるかと思えば、布団へ入ると次々に眠っていった。
「静かになったなあ」
博之が呟く。
「旦那も疲れたんちゃうか」
「疲れましたよ。四十人は多いわ」
「自分で連れてきたんやろ」
「饅頭一個配った時は、こんなことになると思ってへんかったんです」
翌朝。
子供たちが起きるころには、伊勢松坂屋の者が朝飯を九鬼水軍の館へ運び込んでいた。
飯。
味噌汁。
焼いた魚。
少しの漬物。
「ほら、朝飯食え」
「またご飯出るん?」
「出るわ。腹空かせて帰ったら親御さんに怒られるやろ」
「旦那、昨日もいっぱい食べさせてくれた!」
「今日は普通の朝飯や!」
九鬼の者も一緒になって飯を食う。
「しかし、伊勢松坂屋の飯をうちの館で四十人の子供と食う日が来るとはな」
「私も思ってませんでした」
「次はうちの子らやな」
「朝からその話やめてください」
「忘れてへんか確認しただけや」
「覚えてますよ!」
朝飯をしっかり食べ、少し休ませてから松阪へ向かう。
帰りは昨日ほど急がない。
歩ける者は歩く。
疲れた者は荷車へ。
「もう足痛くない!」
「昨日より元気やな」
「寝たから!」
「若いってええなあ」
そんなことを言いながら進み、松坂へ着いたのは昼前だった。
すでに城下の寺や神社の前には、親たちが迎えに来ていた。
「帰ってきた!」
「おかえり!」
子供たちは親の顔を見るなり、一斉に喋り始める。
「船乗った!」
「伊勢神宮行った!」
「これ買った!」
「天ぷら食べた!」
「九鬼の館にも泊まった!」
そして次々と土産物を取り出す。
小さな鈴。
櫛。
布袋。
飴。
木細工。
親たちの顔がだんだん変わった。
「……お前、こんなに買ったんか?」
「うん!」
「二百八十文で?」
子供が博之を見る。
「旦那が買ってくれた!」
「全部言うな言うたやろ!」
周囲に笑いが起きた。
「いやいや、ちょっと私が裏で出しただけです」
「ちょっとではないでしょう、これ」
「途中で楽しくなってもうて……」
母親の一人が深く頭を下げる。
「旦那様、本当にありがとうございます」
「いやいや、頭上げてください」
「うちでは、こんなこと絶対させてやれません。伊勢神宮なんて、一生行けるかどうか分かりませんし」
「そこまで言われると、やってよかったとは思いますけど」
博之は少し困ったように笑った。
「でも、ちょっと買いすぎましたわ」
「子供には一生の思い出ですよ」
「その気持ちは、お寺や神社にも返してやってください」
今回の伊勢参りは、個々の家へ銭を配ったわけではない。
普段、寺や神社を手伝っている子供への褒美として行ったものだ。
「これからも掃除したり、薪運んだり、手伝ったってください」
「また行ける?」
「毎年とは言うてへんぞ!」
子供たちが笑う。
「もう九鬼水軍にも見つかったからな。『うちの子らは?』って言われてんねん」
「では次は九鬼さんですか?」
「そんな全部でやってたら、わしが疲れる!」
「銭は?」
「破産はせんかもしれへんけど、俺の体力が破産する!」
また笑いが広がった。
「まあ、松坂はうちの本拠ですから」
博之は少し真面目になった。
「ここで商いさせてもろてる。将来この子らが伊勢松坂屋で働くかもしれへんし、
別の仕事するかもしれへん。でも、お客さんにはなるかもしれん」
「先々まで考えてはるんですね」
「半分はな」
「残り半分は?」
「俺が楽しかったから」
「旦那様、太っ腹ですなあ」
その言葉に博之がぼそっと言う。
「こんだけ太っ腹やのに、なんで俺モテへんのやろな」
「旦那様」
お花の声が飛んだ。
「そういうことを言うからですよ」
「いやでも」
「でも、ではありません」
「太っ腹やぞ?」
「子供に銭使ったら女の人にモテると思ってるんですか?」
「そこまで言うてへん!」
親たちまで笑い出した。
お花は仕方なさそうに言う。
「まあ、分かりませんよ。こうやって人との縁を大切にしてたら、そのうち何か縁が
できるかもしれません」
「ほんま?」
「知りません」
「最後雑!」
博之はとうとう肩を落とした。
「もうええ。俺、子供もうごめんや。家帰って寝る」
すると後ろから声が飛ぶ。
「旦那、ありがとうございました!」
「伊勢めっちゃ楽しかった!」
「また働かして!」
「船また乗りたい!」
「また連れてって!」
「次は知らん!」
博之は振り返って笑った。
「でも寺も神社もちゃんと手伝えよ!」
「はい!」
「親の言うことも聞け!」
「はい!」
今度は全員が元気よく返事をした。
九鬼水軍の館で一泊し、朝飯までしっかり食べ、昼前にようやく松阪へ帰ってきた四十人。
疲れた。
思った以上に銭も使った。
それでも、子供たちが土産を抱えながら夢中で親に話している姿を見れば。
「……まあ、やってよかったな」
博之は満足そうに呟いた。
そしてその日は、本当に何もせず、家へ帰るなり布団へ潜り込んだ。




