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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之45歳。2月3週目。饅頭の味の調整をしながら試食させていたら人が集まり松坂の殿様に呼ばれ披露することになる

 二月三週目。

 菜饅頭、小豆餡の甘い饅頭、親鶏を使った肉饅頭。

 三種類を作った博之は、その後も料理人たちと味を少しずつ調整していた。

「肉はもうちょい濃くてもええかな」

「皮と一緒に食べますからね」

「甘い方は?」

「私はこれぐらい好きです」

 店の者に食べさせるだけでなく、軒先でも少量を蒸して、客へ試食として配ってみる。

 蒸籠を重ね、下から湯気が立ち上る。

 蓋を開ければ、白い蒸気とともにふっくら膨らんだ饅頭が現れる。

「何や、それ」

「新しい飯ですか?」

 売ると言っていないのに、人が寄ってきた。

「やっぱ湯気って強いな」

 博之が面白そうに眺めていると、その話をどこから聞いたのか、数日もしないうちに

 松坂のお殿様から声がかかった。

「何や、また面白そうなもん作っとるらしいな」

「早いですね、話入るの」

「お前の店で湯気上げて人集めとったら、そら聞こえてくるわ」

 仕方なく、博之は蒸籠ごと用意して城へ持っていった。

「元々は奈良のお坊さんが持ってた古い書物なんですよ」

「ほう」

「菜とか根菜を粉の皮で包んで蒸す、いう料理が載ってまして」

「それを作った?」

「最初はそのままやりました」

 まず菜饅頭。

 次に、ふくふく焼きで使っている小豆餡。

 最後に、親鶏と葱、茸などを炒め、少し濃いめに味をつけた肉餡。

 三段の蒸籠を火へかける。

「……これ、蒸してる最中からええな」

 殿様が笑った。

「でしょう?」

「湯気見てたら、何か食いたなる」

「店の前でもそうなんですよ。まだ売ってへんのに人集まってくる」

 蓋を開ける。

 白い湯気が一気に上がった。

「おお」

「こういう見せ方も商売なんでしょうね」

「海鮮焼きと似とるな」

「そうそう。あっちは焼く音も匂いもあるから、もっと派手ですけど」

「ただ、あれは鉄板に銭かかっとるやろ」

「めっちゃかかってます」

 専用の焼き型、火床、それを扱える者まで必要になる。

「こっちは蒸籠と釜があったらできますからね」

「しかも軽い」

「そうなんですよ」

 蒸籠なら運びやすい。

 饅頭だけでなく、野菜や芋を蒸すことにも使える。

「蒸す料理って、もうちょい色々できそうなんですよね」

「暇になったら、飯のことばっかり考え始めたな」

「今めちゃくちゃ暇なんです」

「贅沢なやつじゃ」

 博之は笑った。

「奈良の和尚さんにも、昔の食い物が載ってる本あったら持ってきて、って頼みました」

「それはええな」

「自分の頭の中だけでは限界ありますから」

 殿様は肉饅頭を割った。

 湯気の中から、肉餡の香りが立つ。

「うまい」

「でしょう?」

「腹にもたまる」

「で、こっちは甘い方」

 小豆餡の饅頭も食べる。

「これもええ」

「これ、伊勢神宮向けやと思うんですよ」

「またお前、罰当たりなこと考えとるな」

「なんでですか!」

「神宮参りに来た人間へ商売する気満々やないか」

「門前町ですから!」

 博之は笑う。

「絶対受けると思うんですよね。蒸籠積んで湯気出してるだけで目立つし、歩きながら食える」

「ただな」

 殿様が少し真面目になる。

「食の水準上がるんはええ。せやけど、お前の店ばっかり客取るような真似はするなよ」

「あ」

「考えてなかったな?」

「そこまで考えてませんでした」

「考えろ」

 博之は頭を掻いた。

「じゃあ、値段で分けます?」

「それも一つじゃな」

「伊勢で売るなら、ちょっと高めにして珍しいもん、ご褒美で食うもんにするとか」

「その方がええかもしれんな」

「日常の飯屋全部食うような値段にせんかったらええわけですね」

「そういうことじゃ」

 殿様は饅頭を眺めた。

「どうせまだ何か考えとるんやろ」

「焼印作ります」

「やっぱりな」

「丸に井」

 饅頭の頭へ、伊勢松坂屋を示す丸に井の焼印を押す。

 さらに塵紙にも同じ印を入れ、下半分を包んで渡す。

「箸いらん。椀いらん。手で持って食える」

「なるほど」

「炊き出しにも便利やと思うんですよ」

「それは使えるな」

「一人一個渡して終わりですから」

 殿様は少し考えた後、笑った。

「なら松坂でも一回やってみたらどうじゃ」

「炊き出し?」

「いや、まずは催しでな」

「伊勢で売る値段で炊き出ししたら、後が怖いですもんね」

「そうや。子供らが『またあれくれ』言い出すぞ」

「確かに」

 博之も笑った。

「ほな、何か頑張った子への褒美にします?」

「褒美?」

「読み書きで一番やったとか、計算できたとか。剣術の腕比べで勝ったとか」

「おお、それはええかもしれんな」

「大人にもやれますね。料理勝負の景品でもええし」

「食うこと自体を褒美にするわけか」

「そうそう」

 昔の書物を再現して遊んでいただけだった。

 それが数日で、伊勢松坂屋の新しい名物候補になり、門前町の商品になり、炊き出しの飯になり、

 さらには催しの景品にまでなろうとしている。

 殿様は呆れたように笑った。

「暇になったお前、やっぱり危ないな」

「飯考えてるだけやないですか」

「その飯が毎回でかくなるんや」

 博之は肉饅頭をもう一つ取りながら首を傾げた。

「でも、うまいからええでしょう」

「そこは否定できんな」

 二人は湯気の向こうで笑った。

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