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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之45歳。2月3週目。半月の帳面合わせ。合計8億3,000万文。各地の状況聞きながら自分居なくても回っているのが寂しいwww

 二月三週目。

「旦那様、帳面合わせです」

「もうざっくりでええよ」

 博之は最初から諦めた顔で言った。

「金がでかすぎて、もうよう分からん」

「大旦那がそれ言うたら終わりですよ」

 ヨイチは呆れながら帳面を広げる。

「前回、おおむね八億文でした」

「うん」

「今回の利益が三千八百万文ほど」

「いつものやつやな」

「それで、各地の催し、寄進、移動費、仕入れ、旦那様が思いつきで始めた人気投票やら何やら――」

「人気投票そんな金使った?」

「それだけではありません」

「ほな一緒くたでええわ」

「では、もろもろ八百万文ほど引いておきます」

 博之が指を折る。

「八億に三千八百万入って、八百万出たから……」

「八億三千万文です」

「ほな、それで」

「軽いですねえ」

「一千万文単位でも誤差みたいになってきたから怖いねん」

「誤差ではありません」

「分かってるけど、感覚が追いつかへん」

 ヨイチもその点については少しだけ同意するように息を吐いた。

「まあ、お金だけ見てても仕方ありませんので、各地の状況も」

「そっちは聞きたい」

「帳簿より反応いいですね」

 まず北。

 比叡山坂本から堅田、高島と伸ばしていた小さな拠点は、少しずつ近江今津方面まで

 届き始めているという。

「おお、今津まで来た?」

「まだ細いですよ。常に荷が行き来するほどではありません」

「それでええねん」

 博之は頷いた。

「飯食える。ちょっと荷置ける。困ったら誰かに聞ける。その点が消えへんかったら十分」

「敦賀まではまだ先ですね」

「先でええよ。無理して太くして潰れる方が嫌や」

 次は東。

 三河の安城方面では、試しに持ち込んだ信楽焼が少しずつ売れていた。

「信楽焼、評判いいそうです」

「お、それはええな」

「器を何個か追加してほしいと」

「追加はええけど、大量に流すなよ」

「やはりですか」

「百個売れたから千個持っていけ、みたいなん絶対あかんからな」

 珍しいから売れているだけかもしれない。

 急に物を流せば、地元の焼き物や商人の相場を壊すこともある。

「ちょっとずつでええ。向こうの商人から『伊勢松坂屋来たら値段おかしなった』って

 言われるのが一番嫌や」

「岡崎は、まだ少し難しいようです」

「何が?」

「場所もそうですが、商いの話を持っていっても様子見されております」

「そらそうやろ」

 博之は何でもないことのように答えた。

「いきなり伊勢から来た商人が『店出させて』言うても警戒するわ」

「焦らない?」

「焦ってどうすんねん」

「最近、余裕ありますね」

「余裕というか」

 博之は寝転がった。

「焦ってもしゃあないこと分かってきただけや」

「成長しました?」

「四十五やぞ。ちょっとぐらい成長するわ」

「最近の旦那様、女衆と買い物したり人気投票したりしてましたけど」

「そこは成長と関係ない」

 ヨイチが笑う。

「で、旦那様自身は最近何を?」

「歩いてる」

「歩いてます?」

「歩いてるって」

 四月の伊賀越えに向けて、博之は人知れず――というほどでもないが、松坂の周辺を

 少しずつ歩いていた。

「昨日も歩いたで」

「どれぐらい?」

「前よりちょっと先まで」

「ちょっと?」

「日々の積み重ねが大事やねん」

「九鬼水軍のところまで歩こうとして、途中で荷車乗ってましたよね」

「あれは最初や」

「今は?」

「……まあ、そんなに距離伸びてへん」

「全然あかんやないですか」

「一月以上あるから!」

 博之は起き上がって反論した。

「伊賀越えは逃げへん」

「春も逃げません」

「せやからゆっくりやる」

 最近は、歩くついでに郊外の店を覗く。

 寺へ寄る。

 市場を見る。

 たまには女衆に声をかけ、買い物へ付き合ってもらう。

「なんとか暇を潰してんねん」

「暇を潰す規模じゃないですよ」

「仕事は皆がやってくれてるしなあ」

 博之は少しだけ寂しそうに言った。

「昔は何でも俺に聞きに来てたのに」

「旦那様が『自分がおらんでも回るようにせえ』言うたんでしょう」

「言うた」

「その通りになったんです」

「それは嬉しいねん」

「では何が不満なんです?」

「多少寂しい」

 ヨイチが笑った。

「贅沢ですね」

「自分で育てた子が、親に聞かんでも勝手に動くようになった感じやねん」

「子供おられませんけど」

「例えや!」

 しばらくして、ヨイチが帳面を閉じた。

「まあ、こういう時こそ暇でいいんじゃないですか」

「そう?」

「大事件が起きた時に、旦那様まで忙しかったら困るでしょう」

 博之の顔が止まった。

「……不吉なこと言うなよ」

「例えばですよ」

「例にも出すな」

「比叡山の時みたいな――」

「やめて!」

 博之は首を押さえた。

「今年は平穏に過ごすって決めてんねん」

「それ、年始から北伊勢の国境まとめた人が言います?」

「もうまとめたから平穏や!」

「その油断してる時に来たりしますからね」

「ほんまやめて。怖なるやん」

 八億三千万文。

 北の道は今津へ。

 東の商いは安城へ。

 岡崎はまだ時間がかかる。

 それでも伊勢松坂屋は、博之が何も言わなくても少しずつ前へ進み始めていた。

「まあ、ええか」

「何がです?」

「大事件来るまでは、歩く練習して遊んどくわ」

「来る前提に変わってますよ」

「お前が言うからや!」

 松阪の店の奥に、また笑い声が響いた。

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