↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
679/714

博之45歳2月1週目。九鬼水軍と伊勢より南の海。摂津への道と三河への道

 二月一週目。

 松坂のお殿様と北伊勢の話をしてから数日後、博之は今度は伊勢方面へ向かった。

 目的は、九鬼水軍への挨拶と伊勢神宮への参拝、それから伊勢側の領主への顔出しである。

「今年もよろしくお願いします、ぐらいは言うとかんとな」

「旦那様、正月からずっと挨拶回りしてません?」

「付き合い増えたら、そうなるんやって」

 船を使うたび九鬼水軍には何かと世話になっている。

 堺や摂津方面へ船を出す時も、紀州沿岸の話を聞く時も、海については彼らの知識なしで

 は危なすぎる。

 そのため、まったく顔を合わせていなかったわけではない。

「おお、大旦那。今度はどこへ行くつもりや」

「今日は伊勢ですよ。普通の挨拶です」

「お前の普通は信用ならん」

「最近それ、皆に言われるんですけど」

 そんな話をしながら船に乗っていると、博之はふと南の海を眺めた。

「そういや、南の道って今どないです?」

「南?」

「摂津へ抜ける方です。紀州沿いに回る道」

「ああ」

 九鬼の者が海を見ながら答える。

「まだ探り探りやな。伊勢湾の中とは違う」

「やっぱそうですよね」

 博之も頷いた。

「今まで鳥羽より南って、うちもほとんど店出してへんかったでしょう」

「そうやな」

「せやから、まず志摩の港に小さい店というか、荷置き場みたいなん作ろうと思ってるんです」

「店というより補給所か」

「そんな感じです」

 飯が食える。

 水が取れる。

 薪が買える。

 荷を一度降ろして置いておける。

「そこから南へ、ちょこちょこ点を作っていけたらなあと」

「また点か」

「点がないと線にならんでしょう」

「その言い方でどこまで伸ばす気や」

「摂津まで?」

「十分遠いわ」

 笑いが起きた。

 博之としても、一気に大量の荷を動かす気はなかった。

「海の仕切りも違いますしね。湾の中と違って、風も波も港ごとの付き合いも分からん」

「そこを分かっとるならええ」

「だから最初は少量ですよ」

 干物。

 味噌。

 焼き物。

 伊勢の小物。

 場合によっては尾張で集めた品も積む。

「一番嫌なんは、行きだけ荷積んで、帰り空っぽで帰ってくることなんですよ」

「そら船賃がもったいない」

「でしょう」

 伊勢湾の品を畿内へ。

 畿内の品を伊勢湾へ。

「珍しいもん同士を交換するだけでも、結構な値になると思うんですよ」

「量が動けばでかいな」

「そうなんです」

 博之は楽しそうに海を見る。

「向こうで当たり前に売ってるもんが、こっちでは珍しい。こっちで余ってるもんが、向こうでは高い。それだけで商売になりますから」

「夢のある話やな」

 九鬼の者も笑った。

「ただ、手堅いんは伊勢湾やぞ」

「それは分かってます」

 南へ進むほど、天候も航路も未知が増える。

 船を失えば、荷だけでは済まない。

「せやから、現実的には東ですよね」

「三河か」

「はい」

 熱田、知多、伊勢湾東側。

 そこから三河の港へ荷を回す。

「こっちなら南の紀州回りより近いですし、海もまだ読める」

「荷の珍しさは南ほど出んぞ」

「でも安全の値段がありますから」

「それはそうや」

「うちの店も、三河側に一個ずつ欲しいんですよ」

 ただし、そこには別の難しさがある。

「尾張側は織田領やけど、その先は松平領になるでしょう」

「そうやな」

「大名家が変わると、港の扱いも違うし、関銭も違うし、誰に話通せばええかも変わる」

「海だけ見とったらあかんいうことやな」

「結局、人なんですよねえ」

 博之がため息をつくと、九鬼の者が笑った。

「八億文持っとる商人が、まだそんなこと言うか」

「八億文あっても、港で『知らん奴は入れるな』言われたら終わりですよ」

「それは確かに」

「やから、少しずつです」

 南は志摩から紀州へ。

 東は尾張から三河へ。

 無理に一度で伸ばさず、荷置き場と飯場を一つずつ作る。

「行きも帰りも荷がある形ができたら、そこから増やします」

「昔より慎重になったな」

「比叡山で学びました」

「首まで使ってか」

「それ言わんといてください」

 船の上でまた笑いが起きた。

 やがて伊勢へ着くと、博之はまず伊勢神宮へ向かった。

「今年も商いさせてもろてます。ありがとうございます」

 神前ではさすがに余計なことは言わない。

 その後、伊勢の領主にも顔を出し、北伊勢の話や今年の商いについて軽く報告した。

「また海の方を広げるそうやな」

「広げるいうても、ちょっとずつですよ」

「九鬼の者から聞いたぞ。紀州回って摂津までつなぐとか」

「誰ですか、もう喋ったん」

「お前の話は広まるのが早い」

「まだ構想ですって」

「三河にも出るんやろ」

「そっちはもうちょっと現実的かなあと」

「十分でかいわ」

 博之は頭を掻いた。

 伊勢神宮への挨拶に来ただけのはずだった。

 だが、話をしているうちに、地図の上にはまた二本の線が浮かび始めている。

 伊勢から南へ。

 そして伊勢湾から東へ。

「まあ、今年中に全部やるわけちゃいますから」

「その言葉、去年も聞いた気がするぞ」

「気のせいです」

 伊勢の領主が笑った。

 博之も笑う。

 陸では北伊勢から近江、日本海へ。

 海では三河と紀州へ。

 本人は少しずつ試しているだけのつもりだった。

 しかし伊勢松坂屋の道は、今年も確実に長くなり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。