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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之45歳2月1週目。松坂の殿様に北伊勢の巡回情報の共有がてら飯を持って来いと言われるwww

 二月一週目。

 北伊勢を一週間かけて見て回った博之のところへ、松坂のお殿様から文が届いた。

「北伊勢で遊んできたそうやな。話を聞かせろ」

「遊んでへんのになあ」

 そう言いながらも、博之は伊勢松坂屋で作らせた弁当をいくつか持たせ、城へ向かった。

「おお、来たか」

「来ましたよ。お土産まで持って」

「飯持ってきたなら歓迎じゃ」

「私やなくて飯目当てですやん」

 そんな軽口を交わしながら膳を広げる。

「それで、どうやった。北伊勢は」

「おおむね歓迎されてますね」

「ほう」

「結局、織田につく、北畠につく、北伊勢で独立してまとまる。

 その三つのどれも決めきれへんかったわけです」

「まあな」

「そこへ私が、北と南で庇護を分けて、しばらく緩衝地帯にしたらどうや、いう四つ目を入れた」

 北半分は織田。

 南半分は北畠。

 それぞれ庇護の対価を払い、街道の銭も土地と庇護する家、道普請へ分ける。

「言うたら決断を薄めただけとも言えますけどね」

「それでも戦にならなんだ」

「民からしたら、そこが一番大きいみたいです」

 漁師も百姓も、どちらの旗を立てるかより、小競り合いで道や港が止まる方を怖がっていた。

「税は取られる。でも荷は通る。銭は落ちる。道も直る。それなら今の方がええ、と」

「なら上々やな」

「当面は、ですけどね」

 博之は弁当の焼き魚をつまみながら、少し表情を変えた。

「問題は、この先の力関係です」

「織田か」

「はい」

 今回の取り決めで、北畠と織田は北伊勢を挟んで、事実上すぐ隣まで来た。

 北畠には北へ出る道もあれば、伊賀上野から大和へ向かう道もある。

 近江方面を見れば六角もいる。

「でも殿様、あんまり領地広げたい人ちゃいますやろ」

「面倒なところまで欲しいとは思わんな」

「でしょうね」

 博之は笑った。

「一方、信長公は多分、北伊勢はしばらく放置します」

「蟹江は?」

「そこはじわじわやるでしょうけど、一番欲しいのは美濃やと思います」

 今日明日で全部取れるとは思わない。

 しかし一年、二年、三年。

 もし信長が美濃をきれいに飲み込んでしまえば。

「兵の数も、銭も、土地も、今とは比較にならんようになる可能性があります」

「そうなると、今回の取り決めの均衡が壊れるか」

「そういうことです」

 北畠が急に小さくなるとは考えにくい。

 だが、織田が大きくなる可能性はある。

「ですから『周辺の勢力が大きく変わった時は再協議』って入れたんです」

「お前、最初からそこまで考えとったんか」

「なんとなくですよ」

 殿様は笑った。

「ほな、その時はまたお前が信長殿に頭下げてくれるんやろ」

「いやいや」

 博之は箸を止めた。

「頭下げて済むことと、済まんことがありますよ」

「冷たいこと言うなよ」

「それでも、できる範囲ならやりますけど」

「それでええ」

 殿様は上機嫌で酒を一口飲んだ。

「何にせよ、お前のおかげで北伊勢の南側からは、庇護の対価が入るようになった」

「用心棒代みたいなもんですけどね」

「攻められたら助けなあかん。せやけど、こちらから兵出して土地取って、そこを治めて、

 いう手間を考えたらずっと軽い」

「その銭、何に使うんです?」

「そこやな」

 軍備。

 道。

 備蓄。

 領内で銭が回る仕組み。

「せっかく入る銭や。兵増やすだけというのも芸がない」

「伊賀上野とか取らへんのですか」

「いらん」

「即答ですやん」

「あんなところ取ったら、山道まで全部面倒見なあかんやろ」

「私が四月に歩こうと思ってる道ですよ」

「何?」

 殿様が目を丸くした。

「春になったら、伊賀越えて信楽まで行こうかなと思って」

「お前が?」

「はい」

「歩くの嫌いなお前が?」

「全部歩くとは言うてません」

「ほらな」

 殿様が笑う。

「でも一回ぐらい見とこうかなって。私も四十五ですし、足腰動くうちに」

「お前が自分から嫌いなことやるとはな。今年また雷でも落ちるんちゃうか」

「勘弁してくださいよ」

 去年は首まで傷めた。

 今年ぐらい平穏に過ごしたい。

「ついでに伊賀から信楽、草津まで出られたら、比叡山坂本の今も見たいんですよね」

「また始まった」

「いや、見るだけですって」

 関方面から草津へ銭を動かす。

 そこから坂本、堅田、高島、今津、塩津。

 さらに敦賀まで。

「いきなり大店作るつもりはないですよ。小さい飯場とか、寺への寄進とか、炊き出しとか」

「それを世間では広げる言うんや」

「点を置くだけです」

「点が多すぎるんじゃ」

 博之は笑った。

「でも敦賀まで道つながったら面白いでしょう。日本海の魚も来ますよ」

「お前、伊賀を歩く話から、なんで敦賀まで行っとるんや」

「話の流れです」

「流れがおかしい」

 殿様は呆れながらも楽しそうだった。

「ほんま、お前は下手な大名より自由やな」

「そうですか?」

「領地はいらん言うて、北伊勢の国境決めて、尾張とも付き合って、今度は日本海まで銭撒きに行く」

「言い方悪いですよ」

「楽しそうやんけ」

「いやいや」

 博之は苦笑した。

「気苦労も多いんですよ」

「七億、八億持っとる男の気苦労か」

「八億あっても首切られる時は切られますからね」

「それはお前ぐらいや!」

 殿様が声を上げて笑った。

 博之も笑う。

 北伊勢は、とりあえず静かになった。

 だが、その先には美濃があり、織田がいる。

 西へ向けば近江。

 北へ伸びれば敦賀。

 南には伊勢の海。

「まあ今年も、ぼちぼちやりますわ」

 博之が言う。

「お前のぼちぼちは信用ならん」

「なんでです?」

「去年一年見たからや」

 松坂城の一室に、また笑い声が響いた。

 戦をしたいわけではない。

 領地も欲しくない。

 ただ、道を通して、飯を食わせて、面白そうなところへ行きたい。

 それだけなのに。

 博之の地図だけは、今年も少しずつ広がり始めていた。

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