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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之45才1月3週目。蟹江の港、織田、北畠、北伊勢国人衆。集まる。外交会議の前にまず飯

 一月三週目。

 北伊勢の扱いについて条件を詰めていた博之は、松阪のお殿様や北畠方の重臣たちとともに

 蟹江へ向かった。

 北伊勢の国人衆も、それぞれの立場を代表して蟹江へ集まる。

 もちろん、それだけではない。

「料理人も連れていくんですか」

「連れていく」

 松坂のお殿様は当然のように答えた。

 伊勢松坂屋の師範や師範代。

 北畠家の松阪、伊勢方面から選ばれた料理人たち。

 そして織田方も、腕に覚えのある料理番を連れて蟹江へ向かっていた。

 本来の目的は、北伊勢の庇護と通行料についての会議である。

 ところが、蟹江の港へ着くなり信長が言った。

「まず飯じゃな」

「まだ何も話してませんけど」

 秀吉が苦笑する。

「伊勢松坂屋と北畠の料理人がおるんじゃぞ。尾張も料理人連れてきた。やらん理由がない」

「何をです?」

「料理大会じゃ」

「外交会議ですよね?」

「料理勝負とは言うておらん。飯を食うだけじゃ」

 そう言いながら、信長の顔は完全に勝負を見る顔だった。

 料理人たちも察した。

「これ、絶対比べられるやつや」

「そら比べるやろ」

「負けられへんな」

 伊勢松坂屋も背筋を伸ばす。

 北畠の料理人も、

「殿の前で尾張に負けるわけにはいかん」

 と気合を入れる。

 尾張側も、

「前より腕上げたいうところ見せたれ」

 と火を起こした。

 外交の緊張感とは別のところで、料理人たちだけ別の戦が始まっていた。

 今回は大きな御膳ではなく、小鉢を多めに作る。

 焼き魚。

 煮物。

 和え物。

 汁。

 小さな肉料理。

 魚介を使った一皿。

 少しずつ盛り、食べ比べられるようにする。

「こっちの方が話しながら食えるやろ」

 博之が言う。

「腹いっぱいになりすぎたら、後の会議で寝る奴出るし」

「誰が寝るんじゃ」

 信長が笑った。

「さあ」

「お前が一番怪しいわ」

 一通り料理が並ぶと、ようやく一同が席についた。

「ほな、とりあえず飯食うか」

 本来なら緊張していてもおかしくない。

 織田。

 北畠。

 北伊勢国人衆。

 その間に伊勢松坂屋。

 下手をすれば今後の北伊勢の形そのものを決める会談である。

 ところが、最初の話題は、

「この魚うまいな」

 だった。

「それ伊勢松坂屋です」

「焼き方がやっぱり強いな」

「炭火で散々野良試合してますから」

 次の小鉢を食べた信長が眉を上げた。

「これは?」

「北畠方でございます」

「細かいな」

 出汁が前へ出すぎない。

 野菜の香りが残る。

 後味だけに少し塩気が残る。

「こういうのは北畠の料理番、強いですね」

 博之も素直に認めた。

 一方、尾張の焼き物を食べた松阪のお殿様は、

「うまいぞ」

 と言った後、少し笑った。

「ただ、やっぱり濃いな」

「尾張ですからな」

 信長は平然としている。

「飯が進む味じゃ」

「酒も進みますな」

「それでええ」

 秀吉が食べ比べながら首を傾げた。

「でも、前に松阪で食べた時より、尾張の料理かなり変わってません?」

「変えた」

 信長が即答した。

「伊勢松坂屋の連中を尾張へ入れて、野良試合増やしたからな」

「そこまでやってたんですか」

「客に食わせて文句言わせる。別の料理人と並べる。うまい方を真似する。それを繰り返した」

 信長は汁を一口飲んだ。

「まだ伊勢には負けるが、一段は上がったじゃろ」

「信長様が食について、そこまで細かく語るようになるとは思いませんでした」

 秀吉が笑う。

 信長は箸を置いて、博之を指差した。

「こいつの罪じゃ」

「なんで私なんですか」

「お前が飯は腹を満たすだけのもんやないと、散々見せつけてきたんじゃろ」

「見せつけた覚えないですよ」

「あるわ」

 信長は笑う。

「昔なら粥食うて腹膨れたらそれでええと思うとった。茶漬けでも食えば十分じゃとな」

「今も忙しい時はそれでええでしょう」

「でもお前は、飯の前後までひっくるめて楽しませる」

 湯浴み。

 布団。

 市。

 季節の催し。

 客同士の会話。

 料理人の勝負。

「味だけやない。そこで過ごす時間まで売っとる」

 松阪のお殿様も頷いた。

「それはあるな」

「それを一回知ったら、戻れんのじゃ」

 信長が言う。

「尾張の料理人にも、ただ濃くして飯食わせればええ、では足らんようになった」

「完全に毒回ってますやん」

 博之が笑う。

「そうじゃ。お前の毒じゃ」

 秀吉も笑った。

「でも、その毒のせいで今日も料理大会になってるんでしょうね」

 一同が周囲を見る。

 織田の料理人は北畠の煮物を味見している。

 北畠の料理人は伊勢松坂屋の焼き場を覗いている。

 伊勢松坂屋の師範は尾張の濃い味付けについて質問している。

「……確かに」

 博之自身も笑ってしまった。

 信長がその顔を見て言った。

「そもそもこの場自体がおかしいんじゃぞ」

「何がです?」

「北伊勢の国境と庇護の話をするために、織田と北畠と国人衆が蟹江へ集まっとる」

「はい」

「なのに料理人が三組おる」

「飯は必要でしょう」

「小鉢を十何種類も並べる必要はない」

「せっかくやし」

「それじゃ」

 信長が指を差す。

「お前が仕切ると、何でも『せっかくやし』で祭りになる」

 松阪のお殿様が声を上げて笑った。

「それは間違いない」

 秀吉も笑う。

「しかも気づいたら皆それを楽しんでますからね」

「そういうことじゃ」

 博之は少し不満そうに汁をすすった。

「ええやん。険悪な顔して話するより」

「まあな」

 信長も笑った。

 料理について一通り言いたいことを言い。

 伊勢が勝った、尾張も前より良うなった、北畠は細かい仕事がやはり強い。

 そんな話で場が温まったところで、ようやく地図が広げられた。

 北伊勢。

 織田。

 北畠。

 そして蟹江。

「さて」

 信長の表情が変わる。

「飯は食った」

 松坂のお殿様も地図へ身を乗り出す。

「ほな、本題やな」

 博之も頷いた。

 料理人たちの戦はひとまず休戦。

 今度は槍を使わず、北伊勢そのものをどう残すか。

 蟹江の港で、本当の勝負が始まろうとしていた。

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