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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之45才1月2週目後半。織田信長、博之の北伊勢案を概ね飲む。詳細詰めて北畠側、北伊勢国人衆と来いと伝える。

 一月二週目の後半。

 松阪では、北畠側が北伊勢の扱いについて重臣たちを集め、細かい条件を詰め始めていた。

 同時に、博之が考えた案は尾張へも送られた。

 松阪から白子へ。

 そこから船を使い、さらに馬を乗り継いで、できるだけ早く織田方へ届ける。

 そして数日後。

 信長の前に、一通の書状が置かれた。

「ほう」

 信長は最初から最後まで読み、口元を緩めた。

 北伊勢を無理に一つにまとめない。

 北側の国人衆は織田の庇護下へ。

 南側は北畠の庇護下へ。

 国人衆側は、収穫などから二割ほどを庇護の対価として納める。

 その代わり、当面は直接併合せず、緩衝地帯として残す。

 さらに街道を通る荷から一定の道代を取り、半分を国人衆、四分の一を庇護側、

 残る四分の一を街道整備や橋の修繕、炊き出しなどへ回す。

「伊勢松坂屋の博之は、ほんま妙な男じゃな」

 信長が笑った。

「何もせんでも、ちゃんと話だけは持ってくる」

 書状を隣の木下秀吉へ放る。

「読め」

「はっ」

 秀吉も目を通し、途中から苦笑し始めた。

「……これ、大膳之介様はいつから北伊勢の大将になったんです?」

「わしも今、それを考えておった」

 二人とも笑った。

 しかし、中身自体は悪くない。

 むしろ織田にとってはかなり都合がよかった。

「要するに」

 秀吉が書状を指で叩く。

「北伊勢の一部をすぐ攻め取らなくても、向こうから二割持ってくるということですよね」

「そういうことじゃ」

「しかも軍役を大きく求めず、当面は緩衝地帯として置く」

「うむ」

「信長様、何もせずに収入増えますやん」

「言い方」

「でも、そうでしょう」

 信長は否定しなかった。

 今、織田が最も力を注ぎたいのは美濃である。

 北伊勢へ新たに兵を割き、城を落とし、その後の統治まで背負う必要はない。

 向こうから庇護を求めて二割納めるというなら、受ける価値は十分にある。

「ただし」

 信長の指が地図の一点で止まった。

「蟹江は別じゃ」

 秀吉も頷いた。

「あそこですか」

「一度攻めて手を入れたところじゃ。ここまで一緒に、はいそうですか、と棚に戻すわけにはいかん」

「では蟹江周辺だけ、いったん扱いを別に?」

「そうじゃな」

 信長は考えながら言った。

「北伊勢全体の話としては土俵に乗せる。だが蟹江の扱いは棚上げじゃ。細かく詰める」

「それ以外は?」

「概ね飲める」

 秀吉が思わず笑った。

「早いですね」

「何が悪い」

「いや、もっと値切るのかと思いました」

「二割を五割にしたら壊れる話じゃろ」

 信長はあっさり言った。

「向こうも生き残るために出してくる二割じゃ。それを五割寄越せ、兵も出せ、

 城も渡せ、まで言えば、話そのものがなくなる」

「なるほど」

「なら二割で早う固めた方がええ」

 信長は少し笑った。

「来月から銭や米が入るなら、その分、美濃に回せる」

「結局そこですか」

「当たり前じゃ」

 しばらくして、秀吉がもう一度地図を見る。

「でも、蟹江の棚上げをどうするんです?」

「博之に考えさせろ」

「え?」

「そもそもあいつが持ってきた話じゃ」

「いやいや」

 秀吉が笑い出した。

「もう商人に全部任せてますやん」

「知らん」

「信長様」

「松阪の殿も言うておったんじゃろ。博之が北伊勢の大将になるより、この案の方がましじゃと」

「まあ、それは確かに」

 秀吉は想像した。

 もし博之が北伊勢をまとめ、領主として七億文を超える銭と伊勢松坂屋の物流網を

 そのまま持ったなら。

「……確かに、その方が怖いですね」

「じゃろ」

「飯場が全部砦になりますからね」

「だから飯屋のままでおらせろ」

「本人もそう言ってますけどね」

 二人はまた笑った。

 信長は書状を閉じた。

「話し合いには応じる、と返せ」

「はい」

「北畠側の条件がまとまったら、一度皆集める」

「北畠の松阪のお殿様と重臣」

「北伊勢の国人衆もじゃ」

「こちらからも重臣を?」

「当然じゃ」

 そして信長は、少し間を置いて付け加えた。

「あと料理人」

「はい?」

「飯じゃ」

「なんでです?」

「せっかく伊勢と尾張の者が集まるんじゃ。飯食いながら話した方がええ」

「外交会議ですよ?」

「だからじゃ」

 信長は楽しそうだった。

「伊勢松坂屋の料理人も連れてこさせろ。北畠の料理番も、来たければ来いと言え」

「尾張側は?」

「うちの料理人も出す」

 秀吉が額を押さえる。

「まさか料理勝負までやる気ですか」

「腕試しじゃ」

「信長様」

「何じゃ」

「どんどん話が大きくなってますよ」

「最初に大きくしたんは博之じゃろ」

「本人はたぶん、道を止めたくないだけですよ」

「それで国境の仕組みまで作るから悪い」

 信長は声を上げて笑った。

「なら最後まで付き合ってもらう」

 北伊勢の国人衆。

 北畠。

 織田。

 そして、その間に立つ伊勢松坂屋。

 本来なら槍と城の数で決まるはずの話が、いつの間にか年貢の二割と街道使用料と

 料理人の話になっていた。

 秀吉は書状を持ちながら、小さく呟いた。

「これ、ほんまに北伊勢の話し合いですよね」

「そうじゃ」

「料理大会ではなく?」

「両方じゃ」

「やっぱり話大きなってますやん」

 尾張の城内に、信長の笑い声が響いた。

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