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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之45才1月1週目。福袋の売れ行き順調。評価も上々。発案者の博之をもっと褒めてくれというと女衆がめんどくさそうwww

 一月一日。

 伊勢松坂屋では、朝まだ早いうちから人が並んでいた。

 目当ては、今年初めて大々的に売り出す福袋。

 食事券中心のもの。

 女衆が選んだ小物中心のもの。

 湯浴みや甘味の券が入ったもの。

 信楽焼や伊勢の小物、奈良で仕入れた筆などを混ぜたもの。

 いくつか種類は分けてあるが、共通しているのは一つだった。

「買った値段より、必ず中身の方が上です!」

 店先で女衆が声を張る。

「外れはありません!」

 この一言が強かった。

「ほんまに損せえへんの?」

「はい。少なくとも買った値段以上のものは入ってます」

「ほな買うわ」

「わし二つ!」

「一人で買い占めたらあかんで!」

 朝から、えらい騒ぎになっていた。

 そして博之は。

「ちょっと見に行きたいな」

 と言い出した。

 年内安静は、ようやく明けた。

 お花も、完全に止める理由はなくなっている。

「近場だけですよ」

「分かってるって」

「走らない」

「走らへん」

「首が痛んだらすぐ帰る」

「はいはい」

「返事が軽いです」

 そんなやり取りを経て、博之はのんびり町へ出た。

 久しぶりに自分の足で見る正月の松阪は、やはり気分がよかった。

 伊勢松坂屋の店先へ近づくと、すぐに人だかりが見えた。

「うわ、並んでるやん」

 博之は思わず笑った。

 女衆は必死だった。

「食事券の方はこちら!」

「小物はこっちです!」

「押さないでください!」

「一人二つまでです!」

 その横では、買ったばかりの福袋を開ける客たちが盛り上がっている。

「おお!」

 一人の女が声を上げた。

「これ、伊勢の櫛やん!」

「ええやつ?」

「これだけでも結構するで」

 別の男は信楽焼の小さな器を手に取っていた。

「これ当たりちゃう?」

「いや、それ普通に入ってる方らしいで」

「普通でこれ?」

 さらに、奈良から仕入れた筆を引いた者もいた。

「筆や!」

「お前、字書くん?」

「書かへん」

「ほな嫁さんにやれ」

「そうする」

 食事券の袋を引いた者は、

「師範代御膳入っとる!」

 と叫び、その隣では、

「わし湯浴み券や!」

 と盛り上がる。

 大当たりだけが嬉しいのではない。

 何が入っているか分からない。

 開ける瞬間そのものが楽しい。

 それが博之には、妙に嬉しかった。

「ええやん」

 博之は満足そうに頷いた。

「やっぱり、わしが企画しただけあるな」

 近くにいた女衆が、即座に振り返った。

「いやいや」

「何?」

「中身を選んだのは私たちです」

「でも福袋やろう言い出したん俺やん」

「予算無視して、うなぎ券いっぱい入れようとしたのも旦那様です」

「それは夢があるやん」

「止めたの私たちです」

「でもほら、結果的に大成功やん」

「私たちが丁寧に詰めたからです」

「なんか手柄全部取られてへん?」

「旦那様が取ろうとしてるんです」

 博之は少ししょげた。

「いやでも、これ丁寧にやったら他所でも受けるんちゃう?」

「また始まった」

「京都でも、尾張でも、その土地の小物入れてやったらええやん。堺なら堺のもん。

 奈良なら筆とか。土地ごとに違ったら面白いやろ」

 女衆は少し考えて、

「それは、まあ、ありですね」

 と言った。

「やろ?」

「でも、旦那様」

「何?」

「そうやって、すぐ私たちの成功を自分の次の企画に持っていくところが、ちょっとダサいんです」

「ダサい?」

「はい」

「ひどない?」

「そういうところですよ」

 博之は完全にしょげた。

「俺も頑張ったやん」

「はい」

「予算も作ったし」

「はい」

「福袋やろう言うたんも俺やし」

「はい」

「ちょっとぐらい褒めてもええやん」

 女衆たちは顔を見合わせた。

 そして一人が、妙に優しい声で言った。

「分かりました」

「うん」

「旦那様はすごいです」

「ほんま?」

「偉いです」

 別の女衆も続ける。

「福袋を思いついた旦那様のおかげです」

「そうやろ?」

「私たちは、ちゃんと分かってますよ」

 博之の顔が一気に緩んだ。

「そうそう。俺も偉いんやで」

「はいはい」

「はいはい言うな」

 それでも機嫌は直った。

 博之は福袋を抱えて喜んでいる客たちを眺めた。

「またなんかやろうな」

「もう次ですか」

「楽しいやん」

「旦那様は楽しいでしょうね」

「みんなも楽しそうやろ」

 それは否定できなかった。

 博之は満足して、店の奥へ引っ込んでいった。

 そして少しして。

 女衆たちが、福袋の補充をしながら小声で話していた。

「旦那様、時々おだてとかんと拗ねはるからな」

「そうそう」

「嘘でもええから、ちょっと大げさに褒めた方がええで」

「『旦那様すごいです』『偉いです』って」

「子どもみたいやな」

「でも機嫌直るから楽やで」

 その時。

 襖の向こうから声がした。

「全部聞こえてるぞ」

 女衆の手が止まった。

「……旦那様、まだおったんですか」

「おったわ!」

「首、大丈夫ですか?」

「話そらすな!」

「旦那様はすごいです」

「今のは絶対嘘やろ!」

 店の奥から笑い声が起こった。

 正月一日。

 福袋は飛ぶように売れ。

 客は喜び。

 女衆は忙しく走り回り。

 そして大旦那は、今年も相変わらず、少し褒めてもらうだけで機嫌よく次の企画を考え始めていた。

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