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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之44才12月3週目。帳面合わせと年末に師範候補のお披露目を松坂城で北畠家料理人に見せつけたい

 十二月三週目。

 朝からヨイチが分厚い帳面を抱えて奥座敷へやってきた。

「旦那様。帳面合わせです」

「うわ、嫌やなあ」

 博之は露骨に顔をしかめた。

「この前やったばっかりちゃうん?」

「定期的にやらないと、旦那様が何にいくら使ったか分からなくなりますので」

「もう俺、だいたいでええと思ってんねんけど」

「駄目です」

 即答だった。

 博之は蜂蜜入りの葛湯をすすりながら、渋々座り直した。

「まあ、今年最後ぐらいは気持ちよく終わりたいからな。やろか。でも、そんな変わってへんやろ?」

「大きくは変わっておりません」

 ヨイチが帳面を開く。

「旦那様が年末まで安静ですから、無茶な新規出店もございません。収益は今回も、

 おおよそ三千八百万文です」

「安定してんなあ」

「その一方で、比叡山坂本関係の炊き出し、帰還支援、京都郊外、大津、堅田などへの

 年末支援を合わせて、おおよそ五百万文ほど出ています」

「まだ五百万使うてるん?」

「旦那様が使えとおっしゃったんです」

「ああ、そうやったな」

 ヨイチは算木を動かした。

「前回がおおよそ六億七千三百万文。三千八百万文を足しまして、そこから五百万文を引きます」

「ということは?」

「七億六百万文です」

 博之が黙った。

「……七億?」

「はい」

「六百万?」

「はい」

「もう桁がよう分からんな」

「私も慣れました」

「ほな、とりあえずばら撒くか」

「やめてください」

 お花が間髪入れずに止めた。

「旦那様のお持ち分ではありますが、皆で働いて積み上げた銭でもございます」

「分かってるって」

「ばら撒くのではなく、きちんと還元してください」

「還元かあ」

 博之は地図へ目を落とした。

「まあ、来年は鯖海道、それから三河の方やろな」

「尾張から東へ?」

「うん。常滑の先もあるし、松平殿のところもある。いきなり大きい店を建てるんやなくて、

 市なり炊き出しなり催し物なりをやって、じわじわ土地に混ざっていく」

「旦那様らしいやり方ですね」

「飯食わせて、働く場所作って、地元の店とも組んで、気付いたら伊勢松坂屋がおる。それでええ」

 もちろん、それだけではない。

 京都、大和、堺。

 堅田から高島。

 尾張。

 既存の拠点もまだ育てなければならない。

「昇格試験も、来年はもっと広いところでやりたいな」

「松阪だけではなく?」

「京都でも尾張でもやればええ。各地で任せや師範代が育ったら、いちいち松阪まで

 来んでもええようにしたい」

「それこそ、師範に審査を任せる仕組みが必要になりますね」

「せやねん。今年の年末に師範へ上げる奴を決めるやろ。そいつらのお披露目もしたい」

 博之は楽しそうに指を折った。

「やることいっぱいあるな」

「旦那様は安静中なのに、やることだけ増やしますね」

「でも銭は減らんな」

「増やす時に使っておりますからね。稼いで、使って、また稼ぐ。結局その繰り返しです」

「まあ、それでええか」

 少し黙った後、博之がにやりとした。

「それでな」

「嫌な顔ですね」

「師範候補、もうちょっといじめてもええかなと思って」

「また意地の悪いことを」

「いやいや、ちゃんと理由あるって」

 今の師範代候補の審査会は二百文。

 そこでかなり評価を集めた者だけが、年末の最終候補として残っている。

「それを三百文にして、今度は松阪城へ連れていく」

「お城で?」

「うん。北畠様の料理番と一緒に飯出させる」

 ヨイチが少し考える。

「以前、お殿様が自分の料理人にも伊勢松坂屋の焼印を取らせたいとおっしゃっていましたね」

「そうそう。師範代まで取った料理番もおるやろ」

「おります」

「ほな、今度は逆や。うちで師範を狙ってる奴は、このぐらいできますよって見せる」

「城の料理人と直接並べるわけですか」

「そう。客から三百文取って、また串入れてもらう」

 お花が呆れたように言う。

「候補の方々、胃が痛くなりそうですね」

「師範やぞ?」

 博之は笑った。

「松坂でだけうまい飯作れます、では困る。これから先、大名家へ呼ばれることもある。

 尾張へ行くかもしれん。京都の寺で百人相手にするかもしれん」

「確かに」

「それに、城の料理と市の料理はちゃうからな」

 大量に出す飯なら、早く、腹いっぱい食わせることが求められる。

 一方、北畠の城では、一品一品の味や盛りつけ、季節感まで細かく見る。

「大人数相手なら、多少荒くても『ようけ食えた、うまかった』で喜ばれる」

「はい」

「でも北畠様のところは、味を楽しむ余裕がある。器も見るし、香りも見る。

 そういうところに混ぜた時、うちの師範候補がどこまでやれるか見たい」

「また本人たちには直前まで言わないつもりでしょう」

「その方がおもろいやん」

「旦那様」

「冗談やって。少し前には言う」

「少し、ですか」

 ヨイチは苦笑しながら帳面を閉じた。

「七億六百万文も持っておられる大旦那が、年末に一番楽しみにしているのが、料理人を

 緊張させることとは」

「違う。育ててんねん」

「楽しんでもいますよね」

「それはまあ、多少は」

 博之は笑った。

 七億六百万文。

 それだけ銭が積み上がっても、やることは尽きない。

 来年は三河へ。

 既存の拠点をさらに深く。

 そして、人を育てる。

 店を増やすより先に、博之がいなくても伊勢松坂屋の味と考え方を持って歩ける者を増やす。

「まあ、最後は気持ちよく年越したいな」

「でしたら、まず安静にしてください」

「そこに戻るん?」

「戻ります」

 博之は葛湯をすすりながら、年末最後の三百文勝負をどう面白くするか、

 もう次のことを考え始めていた。

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