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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之44才12月3週目。五十文膳と五文のお駄賃

 十二月三週目。

 焼印の昇格試験を一通り終えた料理人たちは、息をつく暇もなく、今度は年末の炊き出しへ

 回されていた。

「試験終わったのに、また炊くんですか」

「当たり前やろ」

 博之は平然と言った。

「腕磨きたいんやったら、百人二百人に飯出す方がよっぽど野良試合になる。

 師範代やろうが任せやろうが、米と味噌が勝手にうまくなるわけちゃうからな」

 しかも、師範代だからといって予算を増やすこともしない。

 普段の炊き出しと同じ材料。

 同じ米。

 同じ味噌。

 同じ野菜。

 その中で、どれだけうまくできるか。

「高い材料使ってうまいのは当たり前や。五十文、百文の材料をどう化かすか見せてみい」

 そんな流れの中、松阪郊外の和尚の寺では、少し変わった試みをすることになった。

 普通の炊き出しは、もちろん無料。

 その横で師範代たちが、少し手をかけた膳を一食五十文で出す。

「五十文?」

「はい。師範代が作ります」

「ほな食ってみよか」

 これが思った以上に売れた。

 最近では、師範代という焼印そのものに値打ちが出ている。

「あの二百文の審査会には入れへんかったしな」

「五十文なら安いもんや」

「師範代の飯やったら一回食ってみたい」

 ところが、この五十文膳には一つ仕掛けがあった。

 売上は、伊勢松坂屋へ持ち帰らない。

 五十文はそのまま、寺へ寄進することにしたのである。

「全部ですか?」

 和尚も最初は驚いた。

「全部でええですよ」

「材料代もあるでしょうに」

「年末の施しみたいなもんですから。それに、料理人にはええ練習になります」

「しかし、これだけいただいても……」

「ほな和尚さん、子どもに返したったらどうです?」

「子どもに?」

 そこで博之が考えたのが、一人五文のお駄賃だった。

「年末やろ。寺の掃除とか、薪運びとか、ちょっと手伝ってくれた子に五文ずつ

 渡したったらええんちゃいます?」

「五文ですか」

「五文。ご縁がありますように、の五文や」

「また旦那様は、そういうことを」

「ええやん。年末のお駄賃兼、正月のお年玉代わりや」

 伊勢松坂屋が直接渡すのではない。

 五十文膳を売る。

 その売上を寺へ寄進する。

 寺が必要な分を寺の維持や年末の支度へ回し、その中から子どもたちへ五文ずつ渡す。

「寺からもろた、いう形にした方がええやろ」

「なぜです?」

「何でも伊勢松坂屋が配ってたら、町中うちの子みたいになるやん」

「旦那様がそれを言いますか」

「言うわ」

 博之は笑った。

「寺は寺で、子どもらから『和尚さんありがとう』って言われたらええねん。

 うちは裏で銭出してるぐらいでちょうどええ」

 実際にやってみると、これがかなり好評だった。

「お前ら、境内掃いたか?」

「掃いた!」

「薪運んだ!」

「ほな、年末のお駄賃じゃ」

 和尚が小さな銭を五文ずつ手渡していく。

「五文もええの?」

「ええぞ。無駄遣いせんようにな」

「飴買う!」

「俺、正月まで置いとく!」

「母ちゃんに見せる!」

 子どもたちは大喜びだった。

 数日後。

 和尚が礼も兼ねて、博之のところへ顔を出した。

「旦那様、あれは面白かったですわ」

「五十文膳?」

「ええ。よう売れました」

「師範代も腕振るえたでしょう」

「それもありますが、子どもらがもう大騒ぎで」

 和尚は笑った。

「五文もろた、五文もろた、言うて。寺の掃除まで、いつもより真面目にやりますねん」

「現金やなあ」

「旦那様が始めたんでしょう」

「まあね」

「しかも最近は『大きなったら伊勢松坂屋で働く』いう子までおりますよ」

「いやいや、そこまではええって」

 博之は慌てて手を振った。

「農家の子は農家継いでくれたらええ。野菜作ってくれたら、うちが買う。漁師になったら魚買う。

 職人になったら道具頼む」

「全員雇いたいわけではないんですな」

「当たり前ですやん。全員うちで飯作り始めたら、誰が米作るんですか」

「それもそうですな」

 和尚は笑い、それから少し頭を下げた。

「しかし、寺としても助かりました」

「結構残りました?」

「屋根も直したい。薪も買いたい。傷んだ床もあります。それを考えれば、

 いくらあっても余るほどではありませんが……昔よりは、だいぶ楽になりましたな」

「それでええんちゃいます?」

 博之は葛湯を飲みながら言った。

「和尚さんとは付き合い長いし、困ってる時にはやりますよ。ただ、やりすぎたらあかん」

「分かっております」

「寺は寺で回ってもらわんと。うちがずっと面倒見るのも違うしな」

「今ぐらいが、ちょうどありがたいです」

 和尚は満足そうに頷いた。

「伊勢松坂屋は評判が上がる。師範代は腕を試せる。客は五十文でええ飯が食える。

 寺には寄進が入る。子どもは五文もろて喜ぶ」

「みんなちょっとずつ得してるな」

「ええ。それで年末に寺へ人が集まる」

 和尚は笑った。

「今年は、ええ年越しになりましたわ」

「そう言われると、悪い気せんなあ」

 博之も笑った。

 五十文の飯が売れ、その五十文が寺へ入り。

 その中の五文が、小さな手へ渡っていく。

 大きな商売ではない。

 何百万文が動く話でもない。

 それでも博之には、六億何千万文という帳面の数字より、五文を握って喜ぶ子どもの話の方が、

 妙に実感があった。

「こういう銭の回り方、ええな」

「旦那様にしては小さい話ですな」

「小さいからええんですよ」

 今年も残りわずか。

 伊勢松坂屋の年末は、大鍋から上がる湯気と、五十文の膳と、子どもたちが握りしめた

 五文の銭に包まれながら、少しずつ暮れていった。

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