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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★299.1万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之44才11月3週目。帳面締め。61800万文→比叡山諸経費等1500万文費用計上も合計64000万文。

十一月三週目。

 紅葉弁当や信長公との料理勝負、それに年末の福袋の話まで出したところで、ヨイチがついに

 分厚い帳面を博之の前へ置いた。

「旦那様。もう逃げられません」

「何がや」

「十一月三週目までの帳面です」

「嫌やなあ」

「前にも言いました」

「福袋の話を先に詰めへん?」

「帳面が先です」

 お花まで静かに頷く。

「旦那様、諦めてください」

「二人とも冷たいな」

 博之は渋々、帳面を引き寄せた。

「ほな、前回と同じでええやろ。利益は三千八百十四万文を仮計上」

 ヨイチが筆を取る。

「十一月一週目と同額でございますね」

「細かく締めるのは後や。今は仮やからな。それで、比叡山・坂本関係の経費として、

 また一千五百万文引いとこう」

 ヨイチの筆が止まった。

「また、ですか」

「またや」

「前回も一千五百万文を引いております」

「分かってる。けど、まだ終わってへんやろ」

 博之は指を折りながら説明した。

「坂本周辺で小市や飯場を立ち上げた時、周りの店に迷惑かけた分がある。

 米、味噌、薪、布団を一気に買うたから、相場が上がった」

「手付として一軒千文。その後の補償として一万文の証文」

「そう。それが一か月ぐらいは続く。いきなり『もう終わりです』言うたら、地元の店が困る」

 ヨイチが帳面をめくった。

「加えて、避難してきた者たちの雇い入れ」

「千人として、一人一日六十文や。千人なら一日六万文。半月も働かせたら九十万文。

 二十日なら百二十万文」

「給金だけで、でございます」

「そうや。本人だけやない。家族もおる。炊き出し、寝床、袴、布団、薬、薪、移動の荷車。

 なんやかんやで銭が飛ぶ」

 ヨイチがため息をつく。

「それなら一千五百万文をまとめて引くのも、荒すぎるとはいえ、分からなくはありません」

「やろ」

「しかし、毎回同じ一千五百万文を引き続けるわけにはまいりません」

「そこやな」

 博之は腕を組んだ。

「このまま千人をずっと抱えるのは無理や。伊勢松坂屋が坂本から働き手を千人も取ったら、

 今度はこっちが火種になる」

「一時的な保護と雇用だったはずです」

「そう。土地がある者、家がある者、戻りたい者については、延暦寺方の寺とよく話を詰める」

 お花が顔を上げる。

「役務や年貢を軽くしていただく、ということですか」

「そうや。戻ってもまた同じだけ取られたら、誰も戻らへん。しばらく役務を減らす。

 年貢も少し軽くする。高利の取り立ても止める。その形を寺方と作ってから帰してやる」

「ただ戻れと言うのではない」

「戻って暮らせる形を作るんや」

 ヨイチが、その言葉を帳面の余白へ記した。

「では、戻る者は坂本へ。戻らない者はどうしますか」

「土地を捨ててでも伊勢松坂屋で働きたい者は、追い出せへん」

 博之は地図を広げた。

「堅田、高島、今津。その先は塩津、敦賀や。これから作る道に、順番に入れていく。

 荷運び、飯場、船着き場、炊き出し、小市。仕事はいくらでも作れる」

「ただし、今すぐ店を増やすわけではない」

「そこは大事や」

 博之は地図を畳んだ。

「年末までは、大きく店を広げへん。今ある拠点を固める。京都郊外、坂本、堅田、高島。

 そこを中和させる」

「中和、でございますか」

「伊勢松坂屋だけが膨らんだらあかん。寺も、地元の店も、戻った住民も食える形にする。

 うちが全部抱え込むんやなく、回すんや」

 ヨイチが頷いた。

「では、三千八百十四万文の利益を守る方向で」

「そう。大きく攻めへん。年末は足元固めや」

「料理勝負の経費は、どうしますか」

「それも一千五百万文に入れといて」

「便利な見積もりですね」

「いやいや、でも料理勝負は、そんなに赤字出てへんやろ」

 ヨイチが別の紙を見る。

「前夜の竹串市も、翌日の品評会も、参加費を取っております。材料代、人足代、

 寺への礼を引いても、大きな赤字ではありません」

「ほら。むしろ宣伝としては安いぐらいや」

「尾張、松阪、伊勢松坂屋の料理番が集まった催しですからな。次の客も呼べます」

「福袋の経費も、ひとまずここへ入れよう」

「まだ作ってもいませんが」

「見積もりや」

 ヨイチが嫌そうな顔をした。

「松阪で三百袋、伊勢でも三百袋ぐらい。全部同じにせず、用途ごとに分ける」

「用途ごと?」

「飯の袋。酒の袋。女衆の小物。かんざしとか櫛とかやな。それと湯浴みの袋。

 手拭い、香り物、髪を整える油とか」

 近くで聞いていた女衆が口を挟んだ。

「余り物を詰めるのは嫌ですよ」

「分かってる」

 博之は即答した。

「売れ残りを押し込んで福袋です、は違う。それは楽しくない」

「では、誰が選ぶんですか」

「女衆に選んでもらう」

 女衆たちが顔を見合わせる。

「私らが欲しいと思う物を、ですか」

「そう。自分らが欲しくない物を、客が喜ぶと思うな。『これが四十五文なら私も買いたい』という

 中身にする」

「十袋ずつぐらい作って、反応を見るのはどうでしょう」

「それや」

 博之は嬉しそうに指を差した。

「飯だけでも、家族向け、一人向け、甘味多め、肉多め。酒も、家で飲む者向けと、

 店で飲む券入り。細かくしすぎたら管理できへんけど、少しだけ面倒を足す」

 ヨイチが睨む。

「少しだけ、でお願いします」

「分かってる。十種類も二十種類も作らへん。大きく四つか五つや」

「それでも十分面倒です」

「でも、その方が綺麗に売れる。来年も買いたいと思ってもらえる」

「一度だけ銭を配るのではなく、次へつなげる」

「そういうことや」

 ヨイチは、ようやく計算へ戻った。

「では、前回残高六億一千八百十四万文」

「うん」

「十一月二週分の仮利益、三千八百十四万文を加えます」

「六億五千六百二十八万文」

「そこから、比叡山・坂本関連、難民雇用、料理催事、年末企画準備費として一千五百万文を引く」

「六億四千百二十八万文やな」

 博之は帳面を覗き込み、少し考えた。

「ほな、正式な仮残高は六億四千百二十八万文。口頭では六億四千万文にしとこう」

「百二十八万文を消さないでください」

「消してへん。数字をなめて言うてるだけや」

「正式な帳面には残します」

「それでええ」

 ヨイチは、力強く数字を書き込んだ。

 六億四千百二十八万文。

 比叡山と揉め、千人を抱え、飯を配り、料理勝負をし、福袋まで作ろうとして、

 それでも残る大きな銭。

 だが、博之の目は、残高ではなく次の道を見ていた。

「この銭を全部抱えてても意味ない。でも、全部吐き出すのも違う」

「守る銭と、使う銭を分ける」

「そうや。敦賀まで伸ばすには、また銭がいる。船もいる。飯場もいる。だから年末は、

 六億四千万文を守りながら、少し町へ返す」

 お花が静かに言った。

「それなら、安静にしながらでもできますね」

「指示だけやったらな」

「現場には行かないでください」

「分かってる」

「福袋を見に行くと言って、勝手に店へ出ないでください」

「……分かってる」

 少し間があった。

 お花はじっと博之を見た。

「本当に?」

「たぶん」

「旦那様」

 ヨイチは、そのやり取りを無視して帳面を閉じた。

「十一月三週目、仮締め完了です」

「やっと終わった」

「次は福袋の予算表です」

「もう帳面嫌や」

「旦那様が思いついた仕事です」

 女衆たちが笑い、博之は卓に突っ伏した。

 六億四千万文。

 伊勢松坂屋は、銭を守るだけの商いから、貯めた銭をどう町へ戻すか考える商いへ変わり始めていた。

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