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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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織田信長公が伊勢松坂屋本店に見舞いという名の情報収集にくる。比叡山の僧兵が京都郊外の飯場を襲ったあたりから話せよー

信長公の一行は、本当に早かった。

尾張から九鬼水軍の船筋に乗り、荷の流れに紛れるように伊勢へ入り、

そのまま松坂へ向かってきたのである。

 文が届いた時には、もう近くまで来ている。

 博之は頭を抱えた。

「早い。早すぎる」

 お花は、いつものように冷静な顔で言った。

「旦那様も人のことは言えません」

「いや、俺より早いやろ、これは」

「似た者同士です」

「嫌な似方やなあ」

 とはいえ、信長公が来る以上、筋は通さなければならない。

 博之はすぐに、松坂の城主へ文を書いた。

 信長公が、博之の療養見舞いという名目で伊勢松坂屋を訪れること。

 尾張の料理番を連れてくること。

 尾張へ派遣している伊勢松坂屋の師範と師範代も同行し、飯の近況報告を兼ねること。

 北畠の領分へ入るため、松坂のお殿様にもあらかじめ知らせておきたいこと。

 文を読んだ松坂のお殿様は、しばらく黙っていた。

 そして、にやりと笑った。

「なるほどな。信長公が、療養中の伊勢松坂屋の旦那を見舞いに来るわけやな」

 側近が頷く。

「そのようでございます」

「なら、わしも行かなあかんな」

「殿も、ですか」

「当然やろ。うちの領内で療養してる大旦那のところへ、尾張の信長公が見舞いに来るんや。

 領主筋のわしが顔を出さんのはおかしい」

「はあ」

「それに、織田が料理番を連れてくるんやろ」

「はい」

「なら、こっちも料理番を連れて行く」

 側近は、一瞬言葉に詰まった。

「なぜでございますか」

「面白そうやん」

「殿」

「尾張の料理番、伊勢松坂屋の師範と師範代、そこに松坂の料理番もおったら、

 何かできるやろ。飯の話は、見てるだけでも面白い」

 側近は深く息を吐いた。

「本当に野次馬根性ですね」

「失礼な。見舞いや」

「見舞いに料理番は普通連れて行きません」

「織田が連れてくるんやから、ええやろ」

 こうして、松坂のお殿様も料理番を伴い、伊勢松坂屋へ向かうことになった。

 伊勢松坂屋の本店では、準備が慌ただしく進んだ。

 見舞いの席を整える。

 料理番たちの控え部屋を用意する。

 尾張の者、松坂の者、伊勢松坂屋の者が混ざっても揉めないよう、道具と場所を分ける。

 茶、菓子、軽い膳、湯、寝所。

 博之はあれこれ口を出そうとして、お花に止められた。

「旦那様は座っていてください」

「いや、信長公が来るんやで」

「だから座っていてください」

「せめて料理の確認を」

「師範たちに任せてください」

「お花さん、厳しい」

「療養中です」

 やがて、織田の一行が到着した。

 先触れの声が上がり、門前がざわつく。尾張の武士たち、料理番、伊勢松坂屋から

 尾張へ派遣されていた師範と師範代たち。そして、その中心に信長公がいた。

 信長公は、伊勢松坂屋の門を見るなり、楽しそうに笑った。

「ここか」

 出迎えに出た博之は、首に布を巻き、少し控えめに頭を下げた。

「信長様、ようこそお越しくださいました」

 信長公は、開口一番に言った。

「何やら、比叡山の方で面白いことがあったらしいな」

 その場が一瞬固まった。

 秀吉が、慌てて横から口を挟む。

「殿。それを一番に言うたら駄目です」

「何でじゃ」

「本日は、伊勢松坂屋の旦那様の療養見舞いでございます。まずは、

 お加減は大丈夫ですか、から入りましょう」

 信長公は、ぽんと手を打った。

「ああ、そうやったそうやった」

 そして、博之を見た。

「で、大丈夫そうなんやろ」

 博之は苦笑した。

「一応、療養中です」

「療養中に京都まで走って、比叡山との騒ぎを収めた男が何を言う」

「私はほとんど籠に乗っていただけです」

「籠に乗って、三好と六角と北畠を絡ませて、比叡山から取り決めを取ったのか」

 信長公の目が、ぎらぎらと光った。

 博之は、ため息を飲み込んだ。

「あれでしょう。信長公は、それを聞きたかったんでしょう」

 信長公は、悪びれもせず笑った。

「そうじゃ」

 秀吉が頭を抱える。

「殿」

「よいではないか。隠すことでもあるまい」

 信長公は、席へ案内されながら続けた。

「うちも京都筋へ探りは放っておる。比叡山と伊勢松坂屋が揉めた。僧兵が住民をけしかけた。

 飯場へ押しかけた者が、飯を食わされ、逆に僧兵を縛った。三好と六角が立ち会い、

 なぜか北畠筋の松坂の殿もいた。そこまでは入ってくる」

 松坂のお殿様が、横から笑った。

「なぜか、ではありません。わしは領主筋として立ち会っただけです」

 博之がぼそりと言う。

「面白半分でしょう」

「それも少しある」

「少しではないでしょう」

 信長公は、松坂のお殿様を見て、さらに楽しそうに笑った。

「ほれ見よ。やはりおったではないか」

「そらおりますよ。うちの大膳亮殿が首に傷を負って、比叡山と揉めているんですから」

「そして面白かった」

「大変面白かったです」

 お花が、二人の間に茶を置きながら静かに言った。

「お二人とも、今日はお見舞いです」

 信長公と松坂のお殿様が、同時に少しだけ姿勢を正した。

 博之はその様子を見て、妙に感心した。

「お花さん、強いな」

「旦那様も座っていてください」

「はい」

 席が整うと、信長公は改めて言った。

「文では熱が足らんのだ」

「熱、ですか」

「そうじゃ。伝聞では、何が肝か分からん。どの時点で比叡山が焦り、どの時点でお前が押し、

 どこで銭を投げ、どこで矛を収めたのか。そこが知りたい」

 博之は、茶を一口飲んだ。

「それで、わざわざ松坂まで」

「お前は大名ではないからな」

「ひどい言い方ですね」

「褒めておる」

「褒めてますかね」

「大名なら、呼ぶにも行くにも面倒が多い。だが、飯屋なら見舞いで行ける」

 松坂のお殿様が笑う。

「飯屋といっても、六億文持ってる飯屋ですけどね」

 博之が顔をしかめた。

「殿、その話は今しないでください」

「おお、帳簿を切ったのか」

「切りました。仮です」

「さすがやな」

 信長公の目が、また光った。

「六億文か」

「今は比叡山の話でしょう」

 博之は慌てて話を戻した。

 信長公は笑いながら頷いた。

「それも聞く。だが、その前に料理の名目も立てねばならん」

 秀吉がすぐに頭を下げた。

「尾張の料理番を連れてまいりました。また、尾張へ派遣いただいている伊勢松坂屋の師範、

 師範代も同行しております。後ほど、尾張での料理の野良試合の現状報告をさせていただきたく」

「それはありがたいです」

 博之は頷いた。

「料理関係者は、一度別室へ。うちの師範も呼んであります。松阪のお殿様の料理番も

 いらっしゃるようですし、皆さんで交流してもらいましょう」

 松坂のお殿様が、にこにこと言った。

「何か一品ぐらい作ってくれてもええぞ」

「殿、今日は比叡山の話をするのでは」

「飯を食いながら聞けばええやろ」

 お花が静かに見た。

「殿様」

「……後でよい」

 料理番たちは、別室へ案内された。

 尾張の料理番は少し緊張し、伊勢松坂屋の師範代たちは久しぶりの本店に目を輝かせ、

 松阪の料理番は何か吸収して帰ろうと周囲を見回していた。

 広間に残ったのは、信長公、秀吉、松坂のお殿様、博之、お花、夜市、そして数名の側近たちである。

 空気が少し変わった。

 見舞いの場から、聞き取りの場へ。

 信長公は身を乗り出した。

「さて」

 博之は、茶を置いた。

「どこから話しましょうか」

「最初からじゃ」

 信長公は笑った。

「比叡山の僧兵が、京都郊外のお前の飯場を襲おうとしたところから、熱を込めて話せ」

 博之は、少しだけ嫌そうな顔をした。

「信長公、楽しんでませんか」

「楽しんでおる」

「隠さないんですね」

「隠す必要がない」

 松坂のお殿様も笑った。

「わしも聞きたい。あの時、お前がどう考えてたかまでは、実は聞いておらん」

 お花が横から言った。

「旦那様、無理のない範囲で」

「はい」

 博之は一つ息を吐いた。

 比叡山。

 坂本。

 京都郊外。

 三好と六角。

 北畠。

 飯場。

 逃げる民。

 帳面と証文。

 そして、矛の収めどころ。

 信長公のぎらぎらした目を前に、博之はようやく語り始めた。

「そもそもは、比叡山の末端の僧兵が、だいぶ浅い手を打ったところからです」

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