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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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信長公が松坂に到着してしまう前に一連の比叡山騒動の金を含めてざっくり整理しよう。5億9,500万文→6億1,800万文

 信長来訪の文が届いた翌日、博之は松阪本店の奥座敷で、帳面を前にしていた。

 まだ首の傷は残っている。お花からは安静を命じられている。だが、

 これだけは先に片づけておきたかった。

「ヨイチ」

「はい」

「帳簿、切るぞ」

 ヨイチは、筆を持ったまま目を瞬かせた。

「今、ですか」

「今や」

「旦那様、まだ坂本騒動の細かい費用、全部は上がってきておりません」

「知ってる」

「京都郊外、堅田、坂本周辺、高島方面の荷も、まだ未整理です」

「それも知ってる」

「では、なぜ今」

 博之は、机の上に置かれた信長からの文を指で叩いた。

「信長公が来るからや」

 ヨイチは黙った。

 お花は横で茶を淹れながら、静かに言った。

「旦那様、帳簿を切るのはいいですが、無理はしないでください」

「無理やない。むしろ、今切らんと後で無理になる」

 博之は帳面を開いた。

「本当はな、日付け的にはもう十一月の三週目まで終わらせなあかん。けど、

 そこまできっちりやろうとしたら、今は追いつかん。まず十一月一週目で一回切る」

「十月末までの締め、という扱いですね」

「そうや。前と同じようにする。帳簿が全部合ってる前提で、とりあえず簡易で切る」

 夜市は、少し不安そうに帳面をめくった。

「簡易と言っても、旦那様の簡易は後で大変になることがあります」

「今回はしゃあない」

「また、しゃあないですか」

「しゃあないやろ。比叡山坂本騒動があって、信長公がこっち来て、九鬼水軍も絡んで、

 尾張の料理番まで来るかもしれんのやぞ。ここで一回数字を置いとかんと、

 あとで何が何やら分からんようになる」

 お花が頷いた。

「それは確かにそうですね」

 博之は、帳面の前期残を指した。

「まず、十月末までの大枠。五億九千五百万文」

「はい」

「そこに、前回の利益、三千八百十四万文を足す」

 ヨイチが筆を走らせる。

「五億九千五百万文に、三千八百十四万文。合計、六億三千三百十四万文です」

「そう」

 博之は頷いた。

「そこから、今回の比叡山坂本騒動の費用を引く」

「細かく出しますか」

「出さん」

「出さないんですか」

「出せへんやろ、今」

 博之は苦笑した。

「まだ文が全部揃ってない。現場判断の証文、荷の移動、船、米、味噌、古布団、袴、器、

 炊き出し、市の設営。細かく拾ったら一日で終わらん」

「では、ざっくりですか」

「ざっくりや」

 ヨイチは、どこか諦めたように筆を構えた。

「まず、坂本周辺の店々にまいた証文。手付と証文ですね」

「そこはざっくり五百万文で見る」

「五百万文」

「多めや。手付一千文、証文一万文を店ごとに出してる。百軒、二百軒まで広がっても、

 全部即払いではない。けど、実損調整や追加分も考えて五百万文で見とく」

「はい」

「次に、住民受け入れ」

 博之は別の帳面を開いた。

「逃げてきた者が五百。今後千人まで増える可能性がある。いったん千人雇う前提で見る」

「日払いですか」

「そう。仕事を振る。荷運び、薪割り、飯場手伝い、布団干し、器洗い、買い付け補助。

 日払いで考える」

 夜市が計算する。

「千人に対して、一人あたり六十文なら、一日六万文です」

「十日で六十万文。十五日で九十万文。まあ、百五十万文ぐらい見とけば当面は足りるやろ」

「では百五十万文で」

「いや、もう面倒や。そこはざっくり五百万文で見る」

 ヨイチの筆が止まった。

「旦那様」

「何や」

「百五十万文の見立てを、五百万文にするんですか」

「そうや」

「かなり多めです」

「多めでええ。人を受けるということは、飯も寝床も道具も要る。給金だけ見ても意味ない。

 衣類、袴、布団、薬、寺への礼、移動費、仕事を教える人手。そこまで込みで五百万文」

 ヨイチは少し考え、頷いた。

「確かに、給金だけでは済みませんね」

「そういうことや」

 博之は続けた。

「さらに荷の移動。伊勢から米、味噌、古布団、袴、器を一気に動かした。船も出した。

 草津、大津、片田、京都郊外、坂本周辺へ荷を回した。九鬼水軍への礼や手間賃もある」

「それを五百万文で見ますか」

「そう。荷動き分で五百万文」

 ヨイチが帳面にまとめる。

「坂本周辺の店々への証文・補填で五百万文。住民受け入れ・雇用・飯・寝床・雑費込みで五百万文。

 物流・船・荷動きで五百万文」

「合計は」

「諸経費まで含むとざっと二千万文くらいになるかと」

 ヨイチは顔を上げた。

 博之は、少し首を振った。

「いや、今回は帳簿上、千五百万文で切る」

「え?」

「証文五百万、住民受け入れ五百万。荷動きの五百万は、一部は通常物流にも乗ってるし、

 次期で調整する」

「旦那様」

「分かってる。どんぶりや」

「かなり、どんぶりです」

「でも辛目に見て、それよりかかってることは多分ないやろ」

 夜市は少し考え込んだ。

「ないですね」

「やろ」

「だいぶ多めに費用計上してくださっているので、実際は後で戻す形になる可能性が高いです」

「それでええ」

 博之は湯呑みを手に取った。

「今回は、後で修正する前提や。今期に、比叡山坂本騒動の費用を一回全部さらう。

 証文の実払い、追加補填、雇った者の給金、飯代、物流、寺への礼、全部な」

 ヨイチがじっと博之を見た。

「つまり、細かい整理は私に丸投げですか」

「今回はしゃあない」

「また、しゃあないですか」

「しゃあない」

 お花が小さく笑った。

「ヨイチさん、今回は本当に大変ですね」

「お花様まで」

 博之は両手を合わせるようにした。

「頼む。信長公が来る前に、とりあえず大枠だけ切らせてくれ。来客、料理、

 九鬼水軍、松坂のお殿様、尾張筋、全部重なる。数字まで未整理やと、ほんまに訳分からん」

「分かりました」

 ヨイチはため息をつきながらも、筆を置かなかった。

「では、計算します」

 彼は帳面に数字を書いた。

 五億九千五百万文。

 加えて、三千八百十四万文。

 合計、六億三千三百十四万文。

 そこから、比叡山坂本騒動の概算費用として、一千五百万文を引く。

「六億一千八百十四万文です」

 博之は、少しだけ目を細めた。

「六億一千八百十四万文」

「はい」

「帳面上は、六億千八百十四万文か」

「言い方を揃えるなら、六億一千八百十四万文です」

「細かいな」

「帳面ですので」

 お花が横から言う。

「端数はどうしますか」

「ここはざっくり六億一千八百万文でええやろ」

 博之は言った。

 ヨイチは、丁寧に線を引いた。

「十一月一週目、仮締め。十月末までの残高と前回利益を合算。比叡山坂本騒動の概算費用を控除。

 残、六億一千八百十四万文」

「よし」

 博之は、少し肩の力を抜いた。

「これで一回切っとこう」

「次期で修正します」

「頼む」

「細かいところは後で修正しろ、あとはわしは知らん、ということでよろしいですか」

「言い方」

「違いますか」

「……だいたい合ってる」

 ヨイチは呆れたように笑った。

 お花は、博之の前から帳面を少し遠ざけた。

「では、今日の帳簿仕事はここまでですね」

「いや、信長公の受け入れ費用も」

「ここまでですね」

「……はい」

 博之は湯呑みを持ち、苦笑した。

「六億一千八百万文か。ようここまで来たな」

 ヨイチが静かに言った。

「来たのはいいですが、使う時も大きくなっています」

「ほんまやな。五百万文、千五百万文が、だんだん普通みたいになってきて怖いわ」

「怖いと思っているなら、まだ大丈夫です」

 お花がそう言うと、博之は笑った。

「怖いけど、払う時は払わなあかん。今回の比叡山坂本騒動は、飯と銭で収めた。なら、

 その分は帳面にも残さなあかん」

 ヨイチは、乾かした墨を見ながら頷いた。

「では、この仮締めで進めます」

「ああ。信長公が来る前に、ひとまず数字は置いた」

 博之は、信長からの文に目をやった。

「次は、尾張の虎に飯を食わせる番やな」

 お花がすぐに釘を刺す。

「旦那様は、座って応対してください」

「分かってる」

「悪い顔をしない」

「それは努力する」

「努力ではなく、実行です」

 ヨイチは、帳面を閉じながら小さく笑った。

 比叡山坂本騒動は、ひとまず帳簿の上でも区切られた。

 六億一千八百十四万文。

 途方もない数字だった。

 だが、博之にとっては、それはただの蓄えではない。

 飯を炊き、人を雇い、寺と揉め、商人に銭を払い、戦国の大名や寺社と渡り合うための、

 命綱の数字だった。

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