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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山と伊勢松坂屋の試み。比叡山管轄の寺で伊勢松坂屋が炊き出し。関係性の雪解けなるか?

比叡山の息のかかった寺で、伊勢松坂屋が炊き出しと市をする。

その噂は、坂本から大津、堅田、京都郊外へ、あっという間に広がった。

「喧嘩してたんちゃうんか」

「この前まで僧兵が飯場を囲んでたやろ」

「伊勢松坂屋も、やり合ったら住民をもっと抜けるんちゃうんか」

 そんな声もあった。

 実際、伊勢松坂屋の中にも、そう考える者はいた。今のまま押せば、比叡山領分から

 人はさらに流れてくる。飯を出し、袴を渡し、荷運びとして道を通せば、逃げたい者はもっと来る。

 だが、京都郊外のまとめ役は首を振った。

「抱えきれへん」

 その一言で、多くの者が黙った。

 人を受けるには、飯が要る。寝床が要る。仕事が要る。帳面も、見守る人手も要る。

 逃げてきた者を見捨てる気はない。

 だが、ただ流れ込ませ続ければ、伊勢松坂屋の飯場も潰れる。

「どこかで、妥協というか、仲直りの形を作らなあかん。比叡山の方も、それを分かってきたんやろ」

 まとめ役はそう言った。

 比叡山にとっても、これはひやひやする挑戦だった。

 伊勢松坂屋を寺の境内へ入れる。

 炊き出しを任せる。

 市まで開かせる。

 住民にその様子を見られる。

 失敗すれば面子が潰れる。成功しても、伊勢松坂屋の力を認めることになる。

 それでも、やらないよりはましだった。

 当日、寺の境内には大きな釜が据えられた。

 伊勢松坂屋の者たちは、手際よく動いた。

 米を研ぐ者。

 味噌を溶く者。

 薪を割る者。

 器を並べる者。

 列の場所を決める者。

 子どもと年寄りを先に通す者。

 帳面をつける者。

 寺の住職と僧たちは、その動きを見ていた。

「偉そうに施したる、という感じでは難しいです」

 伊勢松坂屋のまとめ役は、住職へ静かに言った。

「住民の方は、ほんまによく見てはります。上から与える、ではなく、

 一緒に暮らしを良くしていきましょう、という形でないと、人は戻りません」

 住職は苦い顔をした。

「寺としては、頭を下げるというのはなかなか難しい」

「今日一日だけ、そこは忘れてみてください」

 まとめ役は頭を下げた。

「今、住民の方が伊勢松坂屋へ流れているということは、今の暮らしがあまり良くない、

 ということだけは認識ください。今日の炊き出し一回で、すべてが解決するわけではありません。

 ただ、これから寺の皆様が常に見られている。そのことは、覚えておいた方がよいと思います」

 住職は、しばらく黙った。

「厳しいことを言う」

「すみません。でも、ここを曖昧にすると、また同じことになります」

 まとめ役は、釜の方を見た。

「我々は炊き出しをさせていただき、市を動かします。市で売れたものの一部は、

 こちらの炊き出しの米代、味噌代、あるいはお寺の運営資金として回していただいて結構です」

「毎日やるわけにはいかんやろう」

「はい。毎日は無理です。比叡山様の寺は多いでしょうし、どこか一つだけでやれば不公平感も出ます。

 順々に回る形がよいと思います。私らができるのは、手助けまでです」

「そのうち、年貢を減らすとか、役を軽くするとか、そういう触れも効いてくるか」

「効かせるには、形が要ります」

 まとめ役は答えた。

「逃げようとしている人が、少し腰を落ち着けられる。逃げ一択ではなくなる。

 そこまで持っていければ、だいぶ違うと思います」

 住職は深く息を吐いた。

「それだけでもありがたい。こちらの見立てでは、もう四百、五百は流れておる。

 僧兵を並べ続ければ、それでも千人ほどは逃げるかもしれん。しかも、こちらの食料も減っていく」

「はい」

「それを考えたら、米や味噌を炊き出しに回す方が、まだましかもしれん。

 僧兵と、わしら寺の者とでは、少し立場も違うからな」

 炊き出しが始まると、住民たちは最初、遠巻きに見ていた。

 比叡山方の寺で、伊勢松坂屋が飯を炊いている。

 僧兵もいる。

 寺の僧もいる。

 だが、怒鳴り声はない。

 やがて、一人の老婆が列に並んだ。

 次に、子を抱えた母親。

 それから、若い男。

 さらに、近くの店の者たち。

 椀に盛られたのは、粥だけではなかった。

 混ぜ飯。

 味噌のしっかりした汁。

 少しの肉そぼろ。

 漬物。

 子どもには薄めた汁と柔らかい飯。

 食べた者たちの顔が、少しずつ変わっていく。

「寺の炊き出しいうたら、粥だけやと思ってた」

「伊勢松坂屋さんのやつは、やっぱりうまいな」

「腹に残る」

「これなら、子どもも食える」

 港筋の男が、隣の商人に言った。

「港伝いで、大津や草津の店の評判は聞いてたけど、ほんまやな」

「ここを起点に仲ようやってくれたらな。人が減ったら、うちらの商売も難しなるし」

 そこへ、少し離れたところにいた男が皮肉を言った。

「逃げられるのは、今までの人徳のおかげちゃうか」

 僧兵の一人が、ぎろりと睨んだ。

「何やと」

 空気が張り詰める。

 すぐに、伊勢松坂屋のまとめ役が間に入った。

「まあまあ。今日は飯の日です。喧嘩の日ではありません」

 男は肩をすくめた。

 まとめ役は、僧兵にも住民にも聞こえるように言った。

「今、こうして私たちと一緒にやろうと言ってくださっている。お寺の方々も、

 炊き出しに関しては伊勢松坂屋の方が少し慣れていると見て、お試しをしてくださっている。

 なら、まずは今日一日、飯を食べて様子を見ませんか」

 住職も頷いた。

「今日は、そのための日や」

 まとめ役は続けた。

「これが良ければ、またお寺さんと話し合って、少しずつやっていきます。

 伊勢松坂屋の者にも、元は根なし草だった者、生活に困って拾われた者が多いんです。

 だから、根づく場所がある幸せも分かります」

 その言葉に、列の中の何人かが顔を上げた。

「無理にうちへ逃げてこずとも、まずは迷っているなら、こういう炊き出しに並ぶところからでも

 いいと思います。ここで暮らせるなら、それが一番です」

 まとめ役は、少し声を落とした。

「もちろん、それでも苦しいというなら、うちは受けます。飯も出します。寝床も探します。

 働ける人には仕事も出します。でも、比叡山さんとずっと敵対することを、

 現場として良しとは思っていません」

 僧兵たちは黙って聞いていた。

 住民たちも、椀を持ったまま耳を傾けている。

 寺の住職が、ぽつりと言った。

「あんた、立派やな」

 まとめ役は苦笑した。

「旦那様に聞かれたら、調子に乗るなと言われます」

「その旦那様は、こういうことを考えておるのか」

「はい。飯で全部解決するとは思っていません。でも、飯がないと話もできない、とよく言っています」

 住職は、釜から上がる湯気を見た。

 比叡山の寺で、伊勢松坂屋の飯が炊かれている。

 奇妙な光景だった。

 だが、並ぶ者たちの顔は、昨日より少しだけ柔らかかった。

 敵か味方か。

 勝ちか負けか。

 面子か実利か。

 そのすべての間で、湯気が上がっている。

 この一杯で何もかも変わるわけではない。

 それでも、逃げるしかなかった者たちに、もう一つの選択肢を見せるには、十分な一杯だった。

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