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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山の僧兵たちが伊勢松坂屋の飯を食いに来る。警戒されながらも提供。食べたら美味い。安くない。ただ寄進の仕組みがしっかりしている。教えを乞う方がいいのではと思い始める

数日続いたにらみ合いの中で、比叡山の僧兵たちも、少しずつ疲れ始めていた。

 飯場を遠巻きに囲む。

 街道沿いに立つ。

 逃げる者がいないか見る。

 荷がどこへ向かうか探る。

 だが、立っているだけでも腹は減る。

 しかも、坂本周辺の店で飯を食おうとすると、以前のようにはいかなかった。

「銭をいただきます」

「伊勢松坂屋さんに米も味噌も買われましてな」

「うちも足りんのです」

「炊き出しに客が流れてる分、こっちも食わなあかんので」

 僧兵たちは腹を立てたが、店々の者たちは引かなかった。しかも、口々にこう言った。

「伊勢松坂屋の飯を食うたことありますか」

「食わな分からんこともありますで」

「敵やと思うなら、なおさら一度見た方がええ」

 その言葉が、年嵩の僧兵の耳に残った。

 やがて彼は、僧兵を十人ほど連れ、郊外の伊勢松坂屋の市へ向かった。

 ただし、武器は預けた。

 刀や薙刀を持って行けば、また揉める。今は飯場に手を出すなと、上からきつく言われている。

 伊勢松坂屋の者たちは、僧兵の姿を見ると一瞬身構えた。

「何用でございましょう」

 まとめ役が前へ出る。

 年嵩の僧兵は、両手を広げて見せた。

「今日は争いに来たのではない。銭も払う。まずは飯を食わせてほしい」

 周囲がざわついた。

「どういう風の吹き回しですか」

 まとめ役が慎重に尋ねる。

 僧兵は少し苦い顔をした。

「わしらは、あんたらを見張っておる。見張っておれば腹も減る。そこで自分らの領分の飯屋へ

 行ったら、伊勢松坂屋が米も味噌も買っているから足りん、銭を払えと言われた」

「それは……ご迷惑をおかけしております」

「その店の者に言われたのだ。伊勢松坂屋の飯を食うたことがあるのか、と。

 食わな分からんこともある、と」

 年嵩の僧兵は、少し恥ずかしそうに続けた。

「だから、食いに来た。銭は払う」

 まとめ役はしばらく相手を見ていたが、やがて頷いた。

「承知しました。では、まず座ってください。今日は市の日ですので、普通の飯もあります」

 僧兵たちは、境内の端に座らされた。

 最初に出されたのは、混ぜ飯と汁物だった。

 混ぜ飯には、刻んだ野菜と少しの肉そぼろが混ぜ込まれている。汁は味噌がしっかりしていて、

 豚汁に近い。根菜が入り、肉の脂が浮いている。

 僧兵たちは、最初は警戒していた。

 だが、一口食べると、顔が変わった。

「……塩気の塩梅がええな」

「味噌が薄くない」

「汁に脂がある。腹に残る」

「炊き出しの飯とは思えんな」

 若い僧兵の一人は、悔しそうに言った。

「うまい」

 次に出てきたのは、焼き飯だった。

「焼き飯とは何や」

 僧兵の一人が尋ねる。

 伊勢松坂屋の料理人が説明した。

「混ぜ飯を細かくほぐして、卵を溶き、油を引いた鍋で炒めます。具も少し入れます」

「飯を炒めるのか」

「はい」

 熱い鉄鍋の上で、飯と卵が混ざり、油の匂いが立つ。焦げた醤油の香りが僧兵たちの鼻をくすぐった。

 一口食べた年嵩の僧兵が、目を細めた。

「これは……油と米が合うな」

「食うたことのない食い方や」

「腹にずしっと来る」

「満足度が高い」

 そこへ、鉄板の上で焼かれた小さな包み物が運ばれてきた。

 薄い皮の中に、肉と味噌と刻み野菜を練ったあんが詰められている。片面はこんがり焼け、

 端は少し透けて、肉の脂がじゅわりとにじんでいた。

 料理人が言った。

「こちらは肉あんです」

「肉あん?」

「肉と味噌、刻んだ野菜を練って、薄い皮で包んで焼いたものです。

 中のあんが熱いので、気をつけてください」

 僧兵の一人が、箸でつまんだ。

「包んであるのか」

「はい。飯にも合いますし、酒にも合います」

 若い僧兵がかじると、皮が軽く破れ、中から熱い肉汁と味噌の香りが広がった。

「熱っ……!」

「だから言いました」

 料理人が笑う。

 僧兵は口を押さえながら、それでも飲み込んだ。

「……うまい」

 年嵩の僧兵も、一つ食べた。

 皮は薄いが、焼き目が香ばしい。中の肉あんは、味噌の旨味と脂、刻み野菜の甘みが混ざり、

 思ったよりも腹にたまる。

「これは、小さいのに満足するな」

「中に味が閉じ込められておる」

「飯が欲しくなる」

「いや、酒も欲しくなる」

 僧兵たちは、思わず顔を見合わせた。

 料理人は少し申し訳なさそうに言った。

「この肉あんは、伊勢神宮でも売っております。最初はそこまで高くなかったのですが、

 伊勢で評判になりまして。信楽焼きの小皿で出したり、焼き方を揃えたりしているうちに、

 少し値が上がりました」

「安くないな」

 年嵩の僧兵が言った。

「はい。安くはありません」

「安くすれば、もっと売れるのではないか」

「売れるでしょう」

「量をさばけば、儲かるのでは」

「それをやると、周りの店に迷惑がかかります」

 僧兵たちは顔を上げた。

「迷惑?」

「はい。安売りをしすぎると、地元の飯屋、茶屋、米屋、味噌屋の商売を壊します。

 うちは広く商いしておりますが、土地ごとの店を全部潰すために来ているわけではありません」

 まとめ役は続けた。

「儲かった銭は、給金にも使います。うちは働く者に、安すぎる給金は出したくありません。

 それと、一部は寄進に回します。寺の境内を借りた時の礼、炊き出しの米代、市を開いた時の

 売上の一部。そういう形で、寺や地元とも仲良くするようにしております」

「寺でもやるのか」

「はい。友好的にしていただけるなら、市の場所を借り、炊き出しをし、必要なら寄進もします」

 若い僧兵が、思わず身を乗り出した。

「うちの寺でもやれるのか」

「もちろん、話し合い次第です。無理に押しかけるつもりはありません」

「催しもやると聞いた」

 年嵩の僧兵が言う。

 まとめ役は少し笑った。

「はい。ご縁会というものがあります」

「ごえんかい?」

「男女の縁、親子の縁、土地との縁を作る催しです。たとえば、

 お好み焼きというものを鉄板で焼きます」

「お好み焼き」

「小麦を溶いた種に、具を入れて丸く焼くんです。具を選ぶ時に、

 ごぼうなら根が張る縁、海沿いなら海老を入れて腰が曲がるまで長く、とか、

 そういう合いの手を入れます。女衆がひっくり返して焼くので、会話が生まれます」

 僧兵たちは、呆れたような、感心したような顔をした。

「飯で男女をくっつけるのか」

「旦那様の趣味も入っています」

 周囲の伊勢松坂屋の者が小さく笑う。

「ほかにも、山菜取りをして、子どもたちに食べられる草を教え、取ったものを天ぷらにして

 食わせたりします。もちろん、有料の時もありますし、ただでやる時もあります。

 催しを通じて、土地の人と触れ合うんです」

 年嵩の僧兵は、腕を組んだ。

「わしらは、炊き出しの仕方もよう分からん」

「まず一度、一緒に炊き出しをしてみるのも手です」

「火や釜はある。人もいる。だが、どう並ばせ、どう配り、どう話を聞くかが分からん」

「そこをお手伝いすることはできます」

 若い僧兵が顔をしかめた。

「でも、今は住民を引っこ抜かれている」

 まとめ役は、静かに首を振った。

「引っこ抜いている、という見方は少し違います。うちは飯を出しているだけです。

 そちらが飯を出していない、信用を失っている。まずそこを見た方がよいかと」

「厳しいことを言うな」

「すみません。ただ、年貢を減らす、役務を軽くする、と言っても聞いてもらえないのは、

 これまでの積み重ねがあるからでしょう。末端の高利や横暴を黙認していたことも、

 皆さん分かっているはずです」

 場が静かになった。

 年嵩の僧兵は、怒らなかった。

「信用を取り戻さねば、人は戻らん、か」

「はい」

「全部抜かれたら、空っぽの田畑だけが残る」

「そうなります」

 まとめ役は、少し声を柔らげた。

「だから、まずはそちらも飯を出してみる。戻ってもいいかもしれない、と思える空気を作る。

 伊勢松坂屋を追い払うより、その方が早いかもしれません」

 年嵩の僧兵は、肉あんの皿を見た。

 皮で包まれた小さな料理。

 だが、中には熱い肉汁と味噌の旨味が詰まっている。

 伊勢松坂屋も同じだった。

 外から見れば、ただの飯屋。

 だが、中には、人を動かす仕組みと、土地に根を張る考え方が詰まっている。

「……一度、うちの偉いさんにも食わせた方がええな」

 若い僧兵が驚く。

「頭領、本気ですか」

「本気や」

 年嵩の僧兵は立ち上がり、まとめ役に頭を下げた。

「今日は飯を食わせてもろた。銭は払う」

「ありがとうございます」

「それと、炊き出しのやり方を、また聞きに来るかもしれん」

「いつでも。喧嘩でなければ、歓迎します」

 そうして僧兵たちは、預けていた武器を受け取り、市を後にした。

 背中には、まだ迷いがある。

 だが、彼らは初めて、伊勢松坂屋をただの敵ではなく、学ぶべき相手として見始めていた。

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