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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★241万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山坂本周辺の店から不満が出るも前金と借用書の証文を渡して不満を中和するwww比叡山はもっと怒れよと促すも効果薄いwww

坂本周辺の店々にも、不満は溜まっていた。

 伊勢松坂屋が、米を買う。

 味噌を買う。

 薪を買う。

 古布団を集める。

 器も、塩も、干物も、買えるものは次々に買う。

 銭は払う。

 値切り倒すわけでもない。

 むしろ支払いはよい。

 だが、買われすぎると、周りの店は困る。

 いつもの客に出す米が足りない。味噌の値が上がる。薪が減る。旅人相手の粥屋や茶屋は、

 客が炊き出しへ流れる。

 比叡山との揉め事があることは分かっている。困って逃げてくる者がいるのも分かる。

 だが、自分たちも商売で飯を食っている。

 ついに、坂本絡みの店々の者たちが、伊勢松坂屋の炊き出し場へやって来た。

「伊勢松坂屋さん」

 先頭に立った米屋の男が、不満を隠さず言った。

「比叡山とのやり取りも分かります。困ってる人に飯を出すのも、そら結構です。けどな、

 うちらの商売もだいぶ邪魔されとるんですわ」

 味噌屋も続けた。

「味噌樽を先に押さえられたら、うちの得意先に出せへん」

 薪売りも言う。

「薪も同じや。銭を払ってくれるのはありがたいけど、買われすぎると周りが困る」

 茶屋の女将も、腕を組んでいた。

「炊き出しに客が流れて、うちの粥が出ん。こっちも食わなあかんのです」

 伊勢松坂屋のまとめ役は、深く頭を下げた。

「ごもっともでございます」

 店の者たちは、少し拍子抜けした。

 言い訳されると思っていた。

 比叡山が悪いと言われると思っていた。

 困っている者を助けて何が悪いと開き直られると思っていた。

 だが、まとめ役は素直に頭を下げた。

「こちらが急に大きく買い付けたことで、皆様の商いに差し障りが出ていること、承知しております」

「承知してるなら、どうするんや」

 米屋が言う。

 まとめ役は、帳面を開いた。

「当月分として、まず手付一千文をお渡しします。その上で、証文として一万文をお約束します」

「一万文?」

「はい。値上がり分の補填、迷惑料、急な買い付けでご迷惑をおかけした分、込みでございます」

 店の者たちが顔を見合わせた。

「全員にか」

「申し出ていただいた店ごとに、内容を見て書きます。もちろん、実際の損が大きいところは、

 後で調整します。ただ、今は急ぎですので、まず当月はこの形で見ていただけませんでしょうか」

 味噌屋が唸った。

「そう言われると、こっちも商売人やからな……」

 茶屋の女将も、少し表情を緩めた。

「他の客には、今はこういう事態やからと説明するしかないか」

 薪売りが言う。

「値上がり分は、その銭で穴埋めできるかもしれん」

 彼らも、比叡山の領分で何が起きているか、何となくは知っていた。

 逃げてくる者がいる。

 僧兵に睨まれながら飯場へ来る者がいる。

 末端の僧兵が横暴だったことも、坂本の店々は知っている。

 高利の取り立てや役務で苦しむ家があることも、知らぬふりをしていただけだ。

 だから、困っている者に飯を出すなとは言いにくい。

 だが、自分たちも食わなければならない。

「まあ、伊勢松坂屋さんがそこを分かって、銭も出すというなら」

 米屋が言った。

「うちらもちょっとは飲んだろう」

「ありがとうございます」

「ただし、次からは先に言うてくれ。いきなり買われたら困る」

「必ず帳面に残します」

 ヨイチ役の書き手が、すぐに名前、店、品、手付、証文の額を書いていった。

 手付一千文。

 証文一万文。

 当月分の補填。

 後日、実損を見て調整。

 店の者たちは、証文を受け取り、手付の銭を懐に入れた。

 来た時は、不満顔でぞろぞろ歩いていた。

 だが、帰る時には、妙に足取りが軽かった。

「おい、何がどうなったんや」

 道端に立っていた僧兵が、眉をひそめた。

「文句言いに行ったんやろ」

 米屋は、証文を懐にしまいながら答えた。

「文句は言うたで」

「それで?」

「今迷惑かけてる分の手付をもろた。あと証文も書いてもろた」

「証文?」

「手付一千文。証文一万文。当月分の補填や」

 僧兵は顔をしかめた。

「そんなもん、乱発して払えるんか、あいつらは」

 薪売りが笑った。

「わしらも阿呆ちゃうで」

「何?」

「商売してたら、銭の匂いぐらい分かる。坂本の港から、大津、草津の状況も入ってくる」

 味噌屋も続けた。

「あそこは大津だけで港で拠点が三つ、城下で三つ、郊外で三つあると聞いとる。大津、草津、観音寺、

 それに京都の端もや」

 茶屋の女将が言う。

「一つ一つが、各地域でざっくり数十万文の利益を出しとるという話もある。

 全部が全部ほんまかは知らんけど、金回りがええのは間違いない」

 僧兵は黙った。

「観音寺にも話があるんやろ。佐和山にも出してるとか聞く。奈良でも揉め事を交流に変えた。

 堺にも入り始めてる」

 米屋は、少し得意げに言った。

「それに、伊勢が本体やろ。松阪、伊勢神宮、鳥羽、白子、津、関、亀山。

 いくつ拠点があると思ってるんや」

「だから何や」

「たかだか一万文ぐらい、すぐ出すいうことや」

 薪売りが肩をすくめた。

「うちらが百軒、二百軒押しかけたとして、仮に二百万文になっても、出す腹は見えた。

 すぐ全部払うかは知らん。けど、逃げへん。証文も書く。手付も出す」

「そんな証文で満足するんか」

 僧兵が、少し苛立って言った。

「満足というか、商売や」

 味噌屋は冷静だった。

「銭を払う相手とは話ができる。払わずに威張る相手より、よっぽどましや」

 その言葉に、周囲が少し静かになった。

 それが誰を指すのか、皆が分かっていた。

 僧兵の顔が強張る。

 茶屋の女将が、とどめのように言った。

「それに、あんたらやろ。三好と六角に五百万文ずつ投げられたんは」

 僧兵が、ぐっと詰まった。

「それは……」

「比叡山が飯屋相手に揉めて、向こうは三好と六角へ治安維持の銭を投げた。

 そんなことができるところが、一万文の証文を踏み倒すと思うか?」

 米屋が笑った。

「うちらも商売人や。銭のあるなし、払う気のあるなしは見てる」

「伊勢松坂屋は、少なくとも払う気は見せた」

「比叡山は、どうや」

 その一言に、僧兵は何も言い返せなかった。

 店の者たちは、懐に手付の銭と証文を入れ、少し晴れた顔で戻っていった。

 もちろん、不満が消えたわけではない。

 米も味噌も薪も、まだ足りない。

 客も炊き出しへ流れる。

 商いへの影響は続く。

 だが、伊勢松坂屋は頭を下げ、銭を出し、証文を書いた。

 それだけで、店々の怒りの向きは少し変わった。

 比叡山の僧兵は、その背中を苦々しく見送るしかなかった。

 伊勢松坂屋は、飯を出すだけではない。

 人を受け入れるだけでもない。

 不満を言う商人にまで銭を出し、帳面で押さえる。

 刀で脅せば人は逃げる。

 銭を払えば、人は少し待つ。

 坂本の店々は、それを肌で知っていた。

 そして比叡山はまた一つ、伊勢松坂屋のやり方に後れを取ったのである。

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