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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★241万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山延暦寺と伊勢松坂屋の交渉終了。飲ませるだけ飲ませ延暦寺側は憔悴。僧侶を送り出した後、関係者一同爆笑。よくここまで取ったなwww

話し合いは、いったんそこで区切られることになった。

 謝罪。

 弁償。

 伊勢松坂屋を襲わない覚え書き。

 比叡山領分の通行許可。

 京都郊外での炊き出しと小さな市の黙認。

 困窮して自ら来た者の一時保護。

 比叡山への貸し二つ。

 そして、浅井、朝倉への商いの口添え。

 延暦寺側にとっては、どれも苦い条件だった。

 だが、この場で拒めば、もっと苦い話になる。首に刃を当てた件も、今回の僧兵の暴走も、

 三好と六角、北畠に連なる松坂のお殿様、寺の住職、領民の証言、そのすべてがそろっている。

 寺の住職が静かに手を合わせた。

「本日のところは、ここまでといたしましょう。細かい文言は後ほど整えるとして、

 大筋はこの場で確認したということで」

 博之も頷いた。

「ええ。こちらも、これ以上この場で詰めすぎる気はありません」

 その横で、お花が小さく咳払いをした。

「旦那様。十分、詰めました」

「そうか?」

「詰めました」

 松阪の城主がげらげら笑う。

「お花の言う通りや。比叡山相手に、ここまで取ったら十分やろ」

「いや、まだ細かい文言が……」

「旦那様」

 お花が、にこりともせずに言った。

「首の傷が開く前に終わらせてください」

「はい」

 博之は素直に引いた。

 延暦寺の僧たちは、最後まで渋い顔だったが、席を蹴ることはできなかった。

 寺の住職に礼を述べ、松阪の城主、三好方、六角方にも頭を下げる。

 そして、最後に博之の方へ向き直った。

「本日は、これにて失礼いたします」

「道中、お気をつけて」

 博之は穏やかに返した。

 寺の門前まで見送ることになった。

 延暦寺の僧たちは、帰り際、最後に少しだけ意地を見せたかったのだろう。

 一人の僧が、振り返って言った。

「あまり欲を張りすぎますと、仏罰が下りますぞ」

 その場の空気が一瞬止まった。

 お花の眉が、ぴくりと動いた。

 博之は、自分の首筋に触れた。

 そして、にこりと笑った。

「仏罰は、わし、もう食らってますから」

 次の瞬間、門前で爆笑が起きた。

 三好方の者が腹を抱えた。

「うまい!」

 六角方の者も膝を叩く。

「首に刃を当てられて仏罰済みか。そら、もう次はないな」

 松阪の城主など、遠慮なく声を上げて笑った。

「お前、ほんま口が悪いなあ」

「向こうが仏罰とか言うからですよ」

「返しが早すぎるわ」

 お花だけは、笑う前に博之を睨んだ。

「旦那様。そういう挑発をしない」

「向こうが先に言うたやん」

「それでもです」

「でも、ちょっとおもろかったやろ」

 お花は一瞬だけ口元を押さえた。

「……少しだけです」

「ほら」

「調子に乗らない」

 延暦寺の僧たちは、顔を赤くしたり青くしたりしながら、何も言い返せずに去っていった。

 その背中を見送ってから、寺の中へ戻る。

 襖が閉まった瞬間、伊勢松坂屋側、三好方、六角方、松阪の城主、寺の者たちは、こらえていた

 笑いを一気に吐き出した。

「いやあ、取るもん取ったな!」

 松阪の城主が言った。

「ここまで比叡山が条件を飲むなんて、なかなかないぞ」

 三好方の者も、まだ笑いながら頷いた。

「ほんまですわ。謝罪と弁償だけやなく、通行、炊き出し、困窮者の一時保護、

 浅井、朝倉への口添えまで取るとは」

 六角方の者も感心したように言う。

「旦那様の素早い動きが功を奏しましたな」

「そうでしょう、そうでしょう」

 博之は得意げに胸を張った。

 お花が即座に言う。

「本来なら、安静を破って動いたことは褒められません」

「そこは今ええやん」

「よくありません」

「でも、結果は出たやろ」

「結果が出たことと、無茶をしたことは別です」

 松阪の城主が笑う。

「お花はほんまに手厳しいな」

「殿様もです。面白がって付いてこられましたよね」

「それは否めん」

「否めないことを堂々と言わないでください」

 部屋にまた笑いが広がった。

 寺の住職は、苦笑しながら茶をすすった。

「向こうはおそらく、もっと時間をかけるつもりだったのでしょう。浅井や朝倉、あるいは朝廷筋、

 公家筋を巻き込み、調停の形にして、謝罪と弁償、覚え書きあたりで落とし前とする。

 そういう筋を探っていたはずです」

 三好方の者が言った。

「山科の方などは、たぶん簡単には乗らんかったでしょうな」

「ええ。ですが、他の家を動かして、比叡山の面子を立てる形にはしたかったはずです」

 六角方の者が笑う。

「それを、旦那様が松坂から飛んできて、先に現場を固めた」

「しかも、比叡山の下っ端僧兵が阿呆なことをした」

 松阪の城主が言う。

「領民をけしかけて飯場を襲わせようとするなど、最悪の一手や。あれで話が一気に加速した」

「ほんまに」

 博之は頷いた。

「これは取れるだけ取れる、最高の機会やと思いました。だから飛んできました」

 部屋の中がまた笑いに包まれた。

「素直すぎるわ!」

 松阪の城主が机を叩く。

「もう少し、表向きの言い方をせえ」

「表向きは事態収拾のためです」

「本音は」

「取れるだけ取るためです」

「言うな!」

 お花が深いため息をついた。

「旦那様。せめて私の前では、もう少し取り繕ってください」

「お花さんには隠しても無駄やろ」

「それはそうですが、開き直らないでください」

 まとめ役は、笑いながらも少し涙ぐんでいた。

「しかし、本当に助かりました。こちらだけでは、ここまで押し切れませんでした」

「そちらが先にきちんと動いたからここまでできたんやで」

 博之は真面目な声で言った。

「門を開けて、飯を出して、証言を取って、僧兵を殺さずに押さえた。三好と六角にすぐ文を出した。

 そこまでしてくれたから、こちらは飛び込めたんや」

 お花も頷いた。

「それは本当に見事でした。旦那様が無茶をして来るだけの土台を、皆さんが作ってくださったんです」

「無茶をして、は余計やけどな」

「余計ではありません」

 まとめ役は深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「礼はええよ。まだ終わってないから」

 博之は帳面を指した。

「これから、文言を詰める。通行許可、炊き出し、市、困窮者の一時保護、浅井、朝倉への口添え。

 曖昧にされたら、後で揉める」

 ヨイチがすぐに帳面を広げた。

「貸し二つも、文に残しますね」

「残して。無茶な要求はしない、と書いておく。ただし、正当な理由なく拒まない、とも書く」

「はい」

 お花が横から口を挟む。

「あと、旦那様の体調についても記録します」

「それ要る?」

「要ります。帰ったら本店で安静です」

「いや、京都郊外まで来たし、ついでに少し見て回って……」

「安静です」

「はい」

 その頃、比叡山へ戻った僧たちは、想像通り、大目玉を食らっていた。

「何を飲んできた!」

 上座の僧が怒鳴る。

 戻った僧たちは、畳に頭を擦りつけていた。

「申し訳ございませぬ。しかし、あの場では……」

「謝罪と弁償は仕方ない。覚え書きも、まだ分かる。だが、通行許可に、郊外の商い、

 困窮者の一時保護、浅井、朝倉への口添えとは何事か!」

「三好、六角、北畠の松坂の殿、寺の住職、領民の証言、そして僧兵の身柄がそろっておりました」

「だからといって、飲みすぎや!」

「持ち帰ると言えば、時を稼ぐなと詰められました」

「当たり前や! 向こうはそのために早く来たのだ!」

 怒号が飛ぶ。

 だが、怒鳴る側も分かっていた。

 では、あの場で何ができたのか。

 首に刃を当てた件。

 謝罪を先延ばしにした件。

 領民を返せと迫った件。

 末端の僧兵が、領民をけしかけて飯場を襲わせようとした件。

 どれも比叡山に分が悪い。

 しかも伊勢松坂屋は、刀を抜いていない。飯を出し、記録を取り、証人をそろえただけだ。

「まことに、厄介な飯屋だ」

 上座の僧は、怒りを通り越して疲れた声で呟いた。

 一方、京都郊外の寺では、まだ笑い声が残っていた。

 博之は温かい茶を飲みながら、ぽつりと言った。

「しかし、仏罰はもう食らってますから、は我ながらよかったな」

 松阪の城主がまた吹き出した。

「自分で言うな」

 お花は、茶碗を置いて静かに言った。

「旦那様」

「はい」

「調子に乗らないでください」

「……はい」

 その一言で、また部屋中に笑いが起きた。

 今回ばかりは、博之の素早さと悪い顔が、伊勢松坂屋を大きく救った。

 ただし、その悪い顔を一番近くで見張っていたのは、やはりお花だった。

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