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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★241万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山と伊勢松坂屋のやりとり。首の件でこれまで。襲撃の件でも落とし前付けてよ。浅井朝倉への商売の口添えね。ここで全部終わると思えば安いでしょwww

博之は、帳面に書かれた条件を一通り見た。

 謝罪。

 弁償。

 今後、伊勢松坂屋を襲わない覚え書き。

 比叡山領分の通行許可。

 京都郊外や寺社境内での炊き出しと小さな市の黙認。

 困窮して自ら来た者の一時保護。

 そして、比叡山への大きな貸し二つ。

 延暦寺側は、すでに顔色が悪かった。

 だが、博之はそこで筆を置かせなかった。

「とりあえず、首の件はこれでいいと思います」

 延暦寺の僧たちは、一瞬だけ息を吐いた。

 ようやく、一つ片がついた。

 そう思ったのだろう。

 だが、博之はすぐに続けた。

「では、今回押しかけてきた件について、ちょっと話しましょうか」

 延暦寺の上座の僧が、目を見開いた。

「これだけではないのですか」

「一つや言うたでしょう」

 博之は、にこりともせずに言った。

「首の件で一つ。今回の騒動で、もう一つです」

 場が、また重くなった。

 三好方の者は、口元を押さえて笑いをこらえている。六角方の者も、これはまたやるな、

 という顔をしていた。松坂の城主だけは、遠慮なく面白そうにしている。

 延暦寺側は、完全に身構えた。

「もう一つとは、何を求められるのですか」

「浅井、朝倉の商いに関して、口添えをしてもらうのはどうでしょう」

 延暦寺側が、ぎょっとした。

「さすがに、それは」

「さすがに?」

「事が大きくなりすぎております」

 博之は、そこでようやく少し笑った。

「事を大きくしたのは、そちらでしょう」

 延暦寺の僧は、言葉に詰まった。

 大津での襲撃。

 首筋に当てられた刃。

 逃げた領民を返せという使者。

 末端の僧兵による飯場襲撃の企て。

 どれも、比叡山側が積み上げた失点だった。

「浅井の方へは、そちらも探りを入れていると聞いています」

 博之は淡々と言った。

「顔を立ててほしいとか、仲介の余地を探っているとか。そういう話は、こちらにも入っています」

 延暦寺の僧たちが、わずかに目を動かした。

 それだけで十分だった。

 博之は続ける。

「浅井については、そういう話をするつもりだったのでしょう。比叡山と近い。近江筋ですし、

 筋もあります」

「それは……」

「責めているわけではありません。むしろ、そちらが落としどころを探していたのは分かります」

 博之は、そこで少し身を乗り出した。

「ですが、朝倉の方は、さすがに伊勢松坂屋とは関係が薄い。遠い。越前、敦賀、日本海筋。

 こちらからいきなり入ろうとしても、筋がありません」

 延暦寺の上座の僧は、苦々しい顔をした。

「つまり、朝倉筋へ商いの口添えをせよ、と」

「はい」

「敦賀を使えるようにしたい、ということですか」

「そこまで一気にとは言いません。ただ、敦賀や日本海側へ荷を流すための最初の口添えが欲しい。

 伊勢松坂屋が変な商人ではない。飯と荷の道を作る者である。その程度でかまいません」

「かまわぬ、とは言いますが」

「大きい話なのは分かっています」

 博之は頷いた。

「ただ、今回の二つの件がこれで片付くと思えば、安いものではありませんか」

 延暦寺側は黙った。

「首を切られかけた件。飯場を襲わせようとした件。しかも、三好と六角に現場を見られ、

 領民の証言も取られている。これを長引かせる方が、高くつくと思いますけどね」

 住職が静かに目を伏せた。

 三好方の者が言う。

「まあ、長引けば長引くほど、話は広がるわな」

 六角方の者も頷いた。

「京都郊外、堅田、大津、草津。逃げる者の話が増えれば、比叡山の方が苦しくなる」

 博之は、延暦寺側をまっすぐ見た。

「今、京都郊外で困った人がうちへ来ています。堅田でも炊き出しと市が回り始めています。

 これをずるずる続ければ、坂本や領分の人がいなくなるかもしれませんよ」

「脅しですか」

「現実です」

 声は静かだった。

「この件を終わりにしなければ、どこかで大きな衝突が起こることは間違いありません。

 領民を止めるために見張りを立てる。荷物改めをする。逃げる者を捕まえる。

 そうすれば、不満が溜まる。溜まった不満は、また飯場へ向く。飯場へ来れば、

 うちは飯を出す。そうしたら、またそちらが怒る」

 博之は、指で軽く机を叩いた。

「終わりません」

 延暦寺の僧たちは、何も言えなかった。

「この場で話を丸めれば、少なくとも一度は終わる。謝罪もした。弁償もした。覚え書きも作った。

 通行と炊き出しの筋も決めた。浅井、朝倉への口添えも、

 比叡山が顔を立てる形で行った。そうなれば、こちらもこれ以上、今回の件を大きくしない」

「しかし、郊外での炊き出しを続けられれば、人は集まります」

「そこは、そちらの問題でしょう」

 博之は即答した。

「きちんと交流し、取り立てを正し、末端を締め、暮らしを良くすれば、人は戻るはずです」

「戻らなければ?」

「それは、そちらの統治が悪いだけの話です」

 松坂の城主が、思わず吹き出した。

「言い切ったな」

 博之は肩をすくめた。

「普通にしてたら、そんなこと起こりませんって。少なくとも、伊勢ではそんなことは起こってません」

 その瞬間、松坂の城主が博之を睨んだ。

「お前、それをまともに言うたらあかんぞ」

「え?」

 殿様は、少し笑いながら言った。

「伊勢でそんなことが起こってへんのは、わしとの関係が良好やからやないか。

 お前が飯を出し、銭を回し、北畠や松坂の面子も立ててるから、人が逃げる話になってへんだけや」

 博之は、少し考えた。

「まあ、それは否めないですね」

「否めんやろ」

「でも、飯食わせて、仕事作って、無茶な取り立てせんかったら、だいぶ違うと思いますよ」

「それはそうや」

 二人はそこで、げらげら笑った。

 松坂の城主は、完全に野次馬の顔である。博之も、首の傷を抱えているとは

 思えないほど楽しそうだった。

 だが、延暦寺側は笑えなかった。

 顔は青ざめている。

 浅井への口添え。

 朝倉への口添え。

 敦賀、日本海筋への商いの糸口。

 郊外の炊き出し。

 逃げてくる民の一時保護。

 通行許可。

 どれも単独なら、まだ言い訳が立つ。

 だが、全部合わせると、伊勢松坂屋の飯と荷の道が、比叡山の横を抜け、

 近江から越前、日本海へ伸びる可能性が出てくる。

 それを、自分たちが口添えする。

 屈辱だった。

 しかし、断ればどうなるかも分かっていた。

 僧兵はまだ証人として生きている。

 領民の証言もある。

 三好と六角も見ている。

 北畠に連なる松坂のお殿様もいる。

 そして、首を切られかけた博之本人が、ここにいる。

「この場で一存では……」

 延暦寺の上座の僧が、かすれた声で言った。

 博之は首を横に振った。

「大筋だけで結構です。文言は後で整えればいい。けれど、ここで逃げられると、こちらも困ります」

「逃げるつもりは」

「持ち帰るというのは、時間を稼ぐということです」

 博之の声は柔らかかった。

 だが、逃がす気はなかった。

「比叡山として、浅井、朝倉へ伊勢松坂屋の商いについて悪しからず扱うよう口添えする。

 これを、今回の二つ目の落とし前にしてください」

 延暦寺側は、長い沈黙の末に、ようやく頷いた。

「……大筋としては、受けます」

 場の空気が、少しだけ動いた。

 三好方の者が笑う。

「これで、だいぶ道が開くな」

 六角方の者も言った。

「比叡山が口添えしたとなれば、浅井も朝倉も無視はしにくい」

 松坂の城主は、博之を横目で見た。

「お前、首の傷一つで、ずいぶん道を広げたな」

「痛かったですからね」

「ほんまか?」

「ほんまです」

「顔が笑っとるぞ」

「交渉がまとまりそうなので」

「悪い顔や」

 博之は笑った。

 延暦寺側は、笑えないまま俯いている。

 こうして、首の件と飯場襲撃の件は、謝罪と弁償だけではなく、比叡山への貸し、通行、炊き出し、

 逃散民の一時保護、そして浅井・朝倉への商いの口添えという形で、ようやく一つの形に

 収まり始めた。

 それは、比叡山にとって苦い妥協だった。

 だが、ここで飲まなければ、もっと苦いものを飲まされる。

 誰もが、それを分かっていた。

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