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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★241万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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博之一行は草津で一泊したのち現場の京都郊外の寺に入る。延暦寺側へ文を出し関係者を集めて話し合いを提案。延暦寺の逃げ場が無くなる

その夜、博之たちは草津に着いた。

 本来なら、松坂本店で安静にしているはずの男である。だが、比叡山の僧兵が領民をけしかけ、

 伊勢松坂屋の飯場を襲わせようとしたという報せを受けて、博之はじっとしていられなかった。

 松坂の城主まで同行している。

 お花はずっと不機嫌だった。

「旦那様、本来なら松坂で寝ている時間です」

「今も草津で寝るやろ」

「屁理屈です」

「でも、草津まで来れたしな」

「来てはいけなかったんです」

 横で松坂のお殿様がげらげら笑った。

「お花は厳しいな」

「殿様もです。面白がって付いてこないでください」

「それは無理や。こんな面白い話、わし抜きで進められてたまるか」

「本音が出すぎです」

 草津の拠点では、すぐに文がしたためられた。

 京都郊外の寺へ。

 三好方へ。

 六角方へ。

 そして、延暦寺へ。

 内容は短いが、重かった。

 松坂より、伊勢松坂屋の大膳亮・博之が向かっている。

 北畠家に連なる松坂のお殿様も同行している。

 現場確認と、今後の話し合いのため、京都郊外の寺へ入る。

 延暦寺側も、話し合いの者を出されたい。

 文を出し終えた博之は、ようやく布団に入った。

「明日、昼には着きたいな」

「寝てください」

「はい」

「本当に寝てください」

「はい」

 お花に睨まれながら、博之は目を閉じた。

 翌朝、一行は草津を発った。

 体を揺らさぬよう、博之の移動はできるだけゆっくりにした。それでも道は整えられていた。

 伊勢松坂屋の拠点ごとに、湯、茶、軽い飯、人足、護衛が用意されている。

 松坂の城主は、それを見て感心した。

「ほんま、お前のところは道ができとるな」

「飯と荷を運ぶ道ですからね」

「今は文と人も運んどる」

「便利でしょう」

「便利すぎて怖いわ」

 昼前、一行は京都郊外の寺に着いた。

 門の前には、伊勢松坂屋の者たちが並んでいた。まとめ役は、博之の姿を見た瞬間、目を丸くした。

「旦那様……ほんまに来はったんですか」

「来たで」

「いや、来たで、やないです。安静では」

「みんなそればっかり言うな」

「当たり前です!」

 まとめ役は半分呆れ、半分泣きそうな顔になった。

「でも……来てくださって、正直、助かります」

 その声は震えていた。

 ここ数日、京都郊外の飯場は張り詰めていた。

 比叡山から逃げてくる者が増え、延暦寺の使者が来て、さらに末端の僧兵が領民をけしかけて

 襲撃を企てた。門を開け、飯を出し、話を聞き、証言を取り、僧兵を拘束した。

 やれることはやった。

 だが、自分たちだけで抱えるには、事が大きくなりすぎていた。

 まとめ役は深く頭を下げた。

「申し訳ありません。こちらで判断して、門を開け、飯を出しました」

「ようやった」

 博之は即座に言った。

「刀を抜かず、飯を出して、証言を取った。最高や」

 まとめ役は、そこでこらえきれずに目を潤ませた。

「……ありがとうございます」

「泣くな泣くな。まだこれからや」

 その横で、松坂の城主が僧兵のいる部屋の方を見た。

「で、例の阿呆どもはどこや」

「奥の部屋に。飯と水は出しております。怪我はさせておりません」

「よい。生きた証拠や。殺すよりよほど効く」

 その言い方に、お花が少し顔をしかめた。

「殿様、言い方」

「事実や」

 境内には、逃げてきた住民たちもいた。

 彼らは、博之と松坂のお殿様が来たと聞き、遠巻きに集まっていた。痩せた父親。

 子を抱いた母親。泥の落ちたばかりの子ども。庭掃除の箒を持った少年。

 博之が近づくと、一人の母親が膝をついた。

「ありがとうございます……」

「いや、立ってください」

「子どもが、飯を食べられました。布団で寝られました。湯も……湯も使わせてもらって……」

 言葉の途中で、母親は泣き出した。

 父親も、震える声で言った。

「もう、比叡山の領分には戻りたくありません。家はあります。けど、戻ればまた取り立てが来ます。

 役務に呼ばれます。子どもに飯を食わせられません」

 別の男も声を上げた。

「店を取られました。返しても返しても借金が減らんのです」

「わしらが悪いと言われたら、それまでです。でも、もう戻りたくない」

「ここで掃除でも何でもします。飯場の下働きでも、薪運びでもします。だから、

 戻せとは言わんでください」

 何人もが泣きながら頭を下げた。

 博之は、少し困ったように彼らを見た。

「うちは、来い来いと言うてるわけやない。けど、困って来た人を追い返す気もない。

 働ける人には働いてもらう。おるだけはなしや。でも、飯と寝床は何とかする」

 住民たちは、何度も頷いた。

 その様子を、松阪の城主は黙って見ていた。

 やがて、露骨に嫌そうな顔をした。

「比叡山延暦寺は、何しとるんや」

 声は低かった。

 近くにいた者たちが、思わず振り向く。

「仏の道や何や言うて、領分の民に満足に飯も食わせられんのか。食わせられんだけならまだしも、

 逃げた民を飯場荒らしに使おうとする。治める資格ないやろ、そんなもん」

 お花が少し目を伏せた。

 博之も、珍しくすぐには茶化さなかった。

 松阪の城主は、さらに言った。

「武士でも同じや。民が逃げる領主は恥や。民が飢える土地は恥や。まして、逃げた民が飯屋へ

 行って泣いて飯食うとる。これを見て、何とも思わんのなら終わりや」

 その言葉に、逃げてきた住民の何人かがまた泣いた。

 まとめ役は、深く頭を下げた。

「この件、どう進めましょう」

 博之は、ようやく顔を上げた。

「まず、延暦寺へ文を出す。いや、もう出してるな。追加で出そう」

「何と」

「松坂より、大膳亮・博之が着いた。北畠家に連なる松坂のお殿様も同席している。

 三好、六角、寺方、領民の証言もそろっている。今後の話し合いをしたい。

 早急に、責任ある者を出されたい」

 ヨイチがすぐに筆を取った。

「強い言い方にしますか」

「いや、丁寧に。丁寧やけど、逃げ道を塞ぐ」

 松坂の城主が笑った。

「お前、悪い顔しとるぞ」

「交渉の顔です」

「同じや」

 お花が小さく頷いた。

「同じです」

 文はすぐに整えられ、延暦寺へ走った。

 その頃、比叡山ではすでに混乱が広がっていた。

 末端の僧兵が戻らない。

 伊勢松坂屋から、身柄を確保しているとの文が来た。

 三好と六角が現場を見た。

 領民の証言が取られている。

 それだけでも十分にまずかった。

 そこへ、追加の文が届いた。

 松坂より、博之本人が京都郊外の寺に入った。

 さらに、北畠家に連なる松坂のお殿様も同行している。

 三好方、六角方の者も現場を確認している。

 今後の話し合いのため、延暦寺から責任ある者を出されたい。

 文を読んだ僧たちは、言葉を失った。

「北畠の者まで来たのか」

「松坂の殿様が、なぜ」

「博之本人も来ている。首に刃を受けた本人が」

「三好と六角も現場を見ている」

「これは、ただの末端の不始末では済まぬぞ」

 座敷に動揺が走った。

 誰もが分かっていた。

 比叡山は、今まで謝罪を先延ばしにしてきた。

 大津で飯場を荒らしたこと。

 博之の首に刃を当てたこと。

 逃げた領民を追い返そうとしたこと。

 そして今度は、末端の僧兵が領民をけしかけて飯場を襲わせようとしたこと。

 そのすべてが、一つの場に集まりつつある。

「どうする」

「責任ある者を出すしかない」

「誰を出す」

「軽い者を出せば、向こうに舐められる。重すぎる者を出せば、こちらが頭を下げた形になる」

「もう、頭を下げるしかないのでは」

 その一言に、誰もすぐ反論できなかった。

 京都郊外の寺では、釜から湯気が上がっていた。

 逃げてきた住民たちは、飯を食い、掃除をし、布団を干している。

 縛られた僧兵は、奥の部屋で震えている。

 三好と六角の者たちは、帳面を見ながら笑っている。

 松坂のお殿様は、比叡山への嫌悪を隠そうともしない。

 博之は、首の傷を抱えたまま、静かに次の文を見ている。

 比叡山は、ついに逃げられなくなった。

 飯場を荒らした話ではない。

 領民が逃げた話でもない。

 末端の僧兵の暴走だけでもない。

 これは、治めるとは何か、飯を食わせるとは何かを問われる場になり始めていた。

 そして、その問いを突きつけているのは、刀を抜いた武士ではない。

 釜を開け、飯を出した飯屋だった。

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― 新着の感想 ―
この時代の徴税って問題がありまくりなんですよね。農作物に頼るから、気候による作物の出来で収入が増減して、足りなければ隣の領地を攻め取るか、戦争で口減らしする事に慣れてしまっている。逆に言えば一定の徴税…
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