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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★256.6万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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京都で起こった騒動の件は伊勢松坂屋の物流の力で速攻松坂本店まで届く。今が一番ぶんどれると判断した博之。速攻で支度し草津まで歩を進める

京都郊外で起きた騒動の文は、驚くほどの速さで松坂本店へ届いた。

 京都郊外から草津。

 草津から関。

 関から白子。

 白子から松坂。

 伊勢松坂屋の荷の道は、こういう時にこそ力を発揮した。普段は米や味噌や器や布を運ぶ者たちが、

 今回は文を抱えて駆けた。馬を替え、人を替え、宿場と拠点をつなぎ、

 まるで荷を流すように情報を流したのである。

 松坂本店の奥座敷で、博之はその報告を受け取った。

「いやあ、こういう時に物流の力って強いよな」

 文を手にしながら、のんきにそんなことを言う。

 お花が即座に睨んだ。

「そんなことを言っている場合じゃありません。文をちゃんと見てください」

「見てる見てる」

「見てる顔じゃありません」

 ヨイチが、文の内容を読み上げた。

「京都郊外の飯場に、比叡山の僧兵数名と、領民数十人が押しかけました」

「ふん」

「伊勢松坂屋側は門を開け、大量の炊き出しを行い、まず領民たちに飯を食わせました」

「ええ判断や」

「その後、事情を聞いたところ、領民たちは僧兵にけしかけられたと証言。飯場を荒らし、

 米、味噌、布団などを奪って帰れ。住民が勝手にやったことにすればよい、と言われたそうです」

 博之の顔から、少し笑みが消えた。

「ほう」

「飯を食った領民たちは、その僧兵たちを縛り上げ、現在、寺で身柄を確保。

 水と飯は与え、怪我のないよう扱っているとのことです」

「ふんふん」

「さらに、三好と六角の治安維持の者たちへ文を出し、現場を確認してもらっております。

 そのうえで、比叡山にも文を出したところです」

 読み終えたヨイチは、静かに文を置いた。

 しばらく、奥座敷は沈黙した。

 やがて、博之がむくりと起き上がった。

「よし。ほな、行くか」

 お花が目を見開いた。

「旦那様、安静に」

「いやいや、これは行かなあかんやろ」

「行かなくていいです。文で指示してください」

「これは速さが命や。比叡山からぶんどる、いや、話をまとめる機会やぞ」

「今、ぶんどると言いましたね」

「言うてない。話をまとめると言うた」

「言いました」

 博之は、聞こえないふりをした。

「とりあえず、松坂のお殿様には連絡。わしは港へ行く。銭は十万文ぐらい持っていけ。

 途中で要るかもしれん」

「十万文ですか」

 ヨイチが慌てて筆を取る。

「必要最低限や。大金を持ちすぎると危ない。でも手ぶらで行くと、飯も人も動かせん」

「旦那様、ほんまに行くんですか」

「行く。お花さんも来い。ヨイチも来い」

「私は止める役で行きます」

「それでええ」

「よくありません」

 だが、博之はもう立ち上がっていた。

 古参たちが慌ただしく動く。

 小銭、文箱、護衛、着替え、薬、首に巻く布、麦茶の入れ物。

 お花は不満顔で支度を指示しながら、結局いちばん早く段取りを整えた。

「旦那様、首の傷が開いたら、そこで引き返します」

「分かった」

「絶対ですよ」

「分かったって」

「信用していません」

「ひどいなあ」

 博之は苦笑しながらも、本店を出た。

 松坂港へ向かう道では、店の者たちが驚いて頭を下げた。

「旦那様、またどちらへ」

「ちょっと京都郊外まで」

「安静では」

「安静に急ぐ」

「意味が分かりません」

 そんな声を背に、博之たちは港へ向かった。

 一方、松坂のお城にも文が届いていた。

 松坂の城主は、文を読み終えるなり、にやりと笑った。

「そんな面白いこと、わし抜きでやるなよ」

 側近が慌てた。

「殿、本当に行かれるので」

「行く」

「北畠様まで出られますと、話が大きくなります」

「もう十分大きいわ」

 城主は立ち上がった。

「それに、博之に官位の筋を作ったのは、うちでもある。大膳亮にした以上、

 比叡山との話に顔を出す筋はある」

「本音は」

「面白そうやから行く」

 側近は深くため息をついた。

 やがて松坂港で、博之たちと松坂の城主一行が合流した。

 博之は目を丸くした。

「いやいやいや、殿様まで来たら話がでかくなるじゃないですか」

「もうでかい。気にするな」

「気にしますよ」

「わしが官位の筋を作ったんやぞ。少しは顔を出す権利がある」

「本音は?」

「面白そうやから行くに決まっとるやろ」

 船上に笑いが起きた。

 お花は額を押さえた。

「旦那様だけでも止めるのが大変なのに」

 松阪の城主は、博之の首筋を見て少しだけ真面目な顔になった。

「お前、病人なんやから、無理はするなよ」

「殿様に言われると腹立ちますね」

「わしは元気やからな」

「こっちは安静中です」

「なら、ゆっくり行け」

「いや、ここで急いでも仕方ないですからね」

 お花がすかさず言った。

「そうです。本来、旦那様は安静なんです」

「分かってるって」

「分かっている人は、京都郊外へ向かいません」

 船は白子へ向かった。

 伊勢湾の風は少し冷たく、秋の気配が濃くなっていた。博之は船べりに座り、文を何度も読み返した。

「しかし、飯を出しただけで僧兵が縛られるとはな」

 松阪の城主が笑った。

「お前のところらしい話や」

「うちは刀抜いてませんからね」

「それが一番強い。飯を食わせて、証言を取って、三好と六角に見せる。比叡山はたまらんやろ」

「だから急ぐんです」

 博之は低く言った。

「比叡山が文を整える前に、こっちの筋を固めたい。三好と六角、寺、領民、僧兵の証言。

 全部そろってる時に行かんと、熱が冷める」

「なるほどな」

「向こうが謝るなら、謝る形を作る。銭を出すなら、炊き出しの米代、飯場の補填、

 逃げてきた人の一時保護費にする。単なる詫び銭やと受け取りにくい」

「もうそこまで考えとるんか」

「暇でしたから」

 お花が横から言った。

「暇で悪い顔になっていました」

「悪い顔ちゃう」

「今もです」

 白子に着くと、そこからまた道を急いだ。

 白子から関へ。

 関から草津へ。

 途中の伊勢松坂屋の拠点では、すでに話が伝わっていた。湯、飯、馬、人足、護衛。

 必要なものが先回りして用意されている。

「ほんま、物流の力は強いな」

 博之がまた呟くと、お花が言った。

「だから、今は体を休める力も使ってください」

「はい」

「返事だけはいいんですから」

 松阪の城主は、そんな二人を見てげらげら笑った。

「お前ら、夫婦漫才みたいやな」

「違います」

 お花が即答する。

「違うらしいです」

 博之も笑った。

 それでも一行は進んだ。

 草津へ近づく頃には、京都郊外からの続報も届き始めていた。

 三好方、六角方が現場を確認。

 僧兵は生かして拘束中。

 領民の証言は複数。

 比叡山へ文を送付済み。

 先方、動揺している様子あり。

 博之は、その文を読んで、静かに息を吐いた。

「間に合いそうやな」

「何にですか」

 ヨイチが聞く。

「向こうが拳を下ろす場所を探す前に、こちらが座布団を敷くんや」

「座布団、ですか」

「そうや。謝りやすい形を作ってやる。その代わり、米も銭も場所も条件も、ちゃんともらう」

 お花がじっと見た。

「やっぱり悪い顔です」

「交渉の顔や」

「同じです」

 草津の拠点に着いた時には、日が傾きかけていた。

 本来なら、博之は松坂本店で安静にしているはずだった。

 だが今、彼は松坂の城主とともに、草津まで来ていた。

 比叡山の失策。

 伊勢松坂屋の炊き出し。

 三好と六角の現場確認。

 逃げた領民の証言。

 縛られた僧兵。

 それらが一つに重なり、大きな交渉の場が開こうとしている。

 博之は、草津の宿で出された温かい飯を食べながら、ぽつりと言った。

「飯を出しただけやのにな」

 松阪の城主が笑った。

「お前の飯は、時々、刀より厄介や」

 お花はため息をついた。

「だからこそ、旦那様は本来、安静なんです」

「分かってる」

「絶対分かっていません」

 そう言われながらも、博之の目はもう京都郊外を見ていた。

 速さが命。

 その言葉通り、伊勢松坂屋の飯の道は、今度は情報と交渉の道になって、比叡山の足元へ

 伸びようとしていた。

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