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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★241万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山にも一方が入る。が、入れ違いに伊勢松坂屋から僧兵数人が住民をけしかけ略奪を企てたこと。企てた僧兵を捕らえたことを手紙で伝えられ、三好六角も認識済だと連絡が来て震えあがる。至急対策しないと

比叡山にも、その話はすぐに入った。

 最初に届いたのは、妙な知らせだった。

 末端の僧兵数名が、領民を連れて伊勢松坂屋の京都郊外の飯場へ向かったらしい。ところが、

 その者たちが戻ってこない。

 ただ飯を求めに行ったのか。

 逃げた領民を戻しに行ったのか。

 それとも、また余計なことをしたのか。

 上座の僧たちは、顔をしかめた。

「どうなっておる」

「分かりませぬ。戻ってきておりませぬ」

「すぐ探れ。誰が、何人で、どこへ行ったのか。領民を連れていたという話もある。事実なら、

 まずいぞ」

 すぐに使いが走った。

 だが、それとほぼ入れ違いに、京都郊外の寺から文が届いた。

 伊勢松坂屋のまとめ役の名である。

 文を開いた僧は、読み進めるうちに顔色を失った。

「……どうした」

 上座の僧が問う。

 読み手は、喉を鳴らしてから答えた。

「伊勢松坂屋より、知らせが来ております」

「何と」

「昨夜から本日にかけて、京都郊外の飯場へ、多数の領民が押し寄せたとのことです。

 伊勢松坂屋は門を開き、炊き出しを行い、飯を食わせたと」

「それだけなら、いつものことではないか」

「いえ。その後、領民たちから話を聞いたところ、延暦寺筋の僧兵にけしかけられた、と」

 座敷の空気が凍った。

「……何を、けしかけられた」

「飯場を荒らし、米、味噌、布団などを持ち帰ってよい。住民が勝手にやったことにすればよい。

 僧兵は数人、付き添うだけ。そう言われた、との証言があるそうです」

 上座の僧は、思わず机を叩いた。

「なんてことを!」

 文はまだ続いていた。

 伊勢松坂屋は、領民に飯を食わせた。

 話を聞いた。

 証言を記録した。

 現場にいた僧兵数名は、領民たちによって縛られ、現在、寺にて身柄を確保している。

 水と飯は与え、怪我がないよう扱っている。

 すでに三好方、六角方へも文を出し、治安維持の者たちが来る手はずである。

 そこまで読み上げられた時、座敷に呻き声が広がった。

「三好と六角にまで知らせたのか」

「治安維持協力金を受けている以上、呼ぶ名目は立ちます」

「しかも、こちらの僧兵が縛られているところを見られる」

「まずい。これはまずいぞ」

 上座の僧は、しばらく何も言えなかった。

 せっかく、方々に仲介の糸を探っていたところだった。

 朝廷筋。

 公家筋。

 浅井。

 朝倉。

 寺社筋。

 どこも反応は鈍かったが、それでも時間をかければ、落としどころは作れるかもしれなかった。

 その最中に、下っ端の僧兵が領民をけしかけ、伊勢松坂屋の飯場を荒らさせようとした。

 それも失敗し、飯を食わされた領民が証言し、僧兵が縛られた。

 そして、その場に三好と六角が来る。

「全部、台無しではないか」

 老僧が、低く吐き捨てた。

「住民が勝手にやった、と言い張ることはできませぬか」

 若い僧が恐る恐る言った。

 だが、すぐに別の者が首を振る。

「無理だ。領民の証言を取られている。しかも、僧兵の身柄も向こうにある」

「下っ端の僧兵たちは、口を割るでしょう」

「三好と六角の者に囲まれて、伊勢松坂屋から飯を出されて、寺の者にも睨まれているのだ。

 強情を張れる者ではない」

「では、知らぬと言い切るか」

「知らぬと言えば、末端を抑えられぬ寺と見られる」

「知っていたと言えば、飯場襲撃を企てたことになる」

「どちらにせよ苦しい」

 上座の僧は、目を閉じた。

 大津での件だけでも、十分にまずかった。

 朝廷へ礼に行った官位持ちの帰り道で、飯場を荒らし、首に刃を当てた。

 その謝罪すら、まだまともにできていない。

 それなのに、今度は領民を使って飯場を襲わせようとした。

 たとえ上の命令でなくても、延暦寺の僧兵がやったことに変わりはない。

「処分は避けられぬ」

 老僧が言った。

「下っ端の僧兵が勝手にやったこととし、厳しく処分する。そのうえで、伊勢松坂屋に対して

 謝罪するしかありません」

「謝罪……」

 若い僧が苦い顔をした。

「ここで頭を下げるのか」

「下げねば、もっと悪くなる」

 老僧の声は冷たかった。

「もともと、首に刃を当てた時点で謝らねばならなかった。それを面子だ、時期だ、

 仲介だと先延ばしにした結果がこれだ。もう、こちらが何も飲まずに済む段階ではない」

 座敷は重く沈んだ。

 上座の僧は、ゆっくり口を開いた。

「ただ謝るだけでは、足りぬな」

「はい」

「銭か」

「銭だけでは、伊勢松坂屋は素直に受け取らぬかもしれませぬ。あの飯屋は、

 銭をただ懐に入れるより、名目を求めます」

「物か」

「米、味噌、布、材木、薬、あるいは坂本や大津筋での市の許可。そうしたものも考えられます」

「それは、こちらの領分に伊勢松坂屋を入れることになる」

「しかし、すでに入られ始めています。黙って入られるより、条件を決めた方がよいかと」

 誰も、すぐには反論できなかった。

 伊勢松坂屋は、すでに京都郊外、片田、大津、草津の周辺で飯を出し、物を売り、

 逃げた者を受け入れている。

 止められていない。

 ならば、話し合いの場を作り、条件を決め、面子を少しでも残すしかない。

「先方の寺へ文を出せ」

 上座の僧が言った。

「まず、今回の件について、延暦寺として確認中であること。身柄を確保している僧兵については、

 乱暴な扱いをせず、飯と水を与えていることに礼を述べる」

「礼を、ですか」

「言葉は選べ。だが、そこを認めぬわけにはいかぬ。痛めつけられたと言われればまだしも、

 飯を与えられている。こちらが礼を言わぬ方がおかしい」

「はい」

「次に、今回の件は末端の者の行き過ぎであり、延暦寺として厳しく調べると伝える。

 ただし、それだけでは弱い」

「謝罪を入れますか」

 上座の僧は、苦しそうに頷いた。

「入れる。大津での件についても、行き過ぎた振る舞いがあったことを認め、遺憾である旨を伝える」

「遺憾、で済みますか」

「済まぬかもしれぬ。だが、最初の文でいきなり全面的に膝をつくわけにもいかぬ。

 会って話す機会を求める」

「場所は」

「先方の寺、あるいは中立の寺。三好、六角の者が同席するなら、それもやむを得ぬ」

 その言葉に、数人が顔をしかめた。

 三好と六角の同席。

 それは、比叡山にとって面白いはずがない。だが、すでに彼らは現場を見ている。

 むしろ外す方が難しい。

「銭はどうしますか」

「詫びとしての銭は必要だろう。ただし、ただの詫び銭ではなく、炊き出しの米代、

 損壊した飯場の補填、逃散者の一時保護費、そうした名目をつける」

「伊勢松坂屋が受け取りやすい形にするわけですな」

「そうだ」

「今後の関係は」

「そこが一番難しい」

 上座の僧は、苦々しく言った。

「伊勢松坂屋との関係性について話し合う機会を求める。飯場をどこまで認めるか。

 領分から逃げた者をどう扱うか。戻る者はどう戻すか。働く者の身分はどうするか。

 市や炊き出しの場所をどうするか。すべて、話さねばならぬ」

「かなり飲まされますな」

「飲まねば、もっと失う」

 老僧が低く言った。

「今ならまだ、交渉で済む。だが、こちらが突っぱねれば、伊勢松坂屋は三好と六角を立て、

 朝廷筋にも文を回すでしょう。そうなれば、こちらが頭を下げる場所すら選べなくなる」

 上座の僧は、じっと文を見つめた。

 下っ端の暴走。

 そう切り捨てることはできるかもしれない。

 だが、外から見れば、延暦寺の僧兵がまた伊勢松坂屋に手を出した、という話になる。

 しかも、今度は領民を盾にした。

 それは、大津の一件以上に悪い。

「……まことに、余計なことをしてくれた」

 上座の僧は、疲れた声で呟いた。

 誰も笑わなかった。

「すぐに文を整えよ。先方の寺へ送る。三好と六角にも、こちらが事実確認と処分に動く旨を伝える」

「朝廷筋には」

「まだ待て。こちらから先に火を広げるな。ただし、聞かれた時に答えられるよう、文案は作っておけ」

「浅井、朝倉は」

「探りは続ける。だが、この件が知られれば、こちらの足元を見られる。戦の協力だの、

 敦賀筋だの、余計な条件が重くなるだろう」

 また、苦い沈黙が落ちた。

 延暦寺は、強い。

 だが、強いからこそ、面子を捨てるのが遅れた。

 その遅れが、さらに大きな失点を呼んだ。

 首に刃を当てた時に謝っておけば。

 飯場を荒らしたことを、すぐに詫びておけば。

 逃げた領民の話を、早く調べておけば。

 今さら悔やんでも遅い。

「ある程度は飲まねばならぬ」

 老僧が、もう一度言った。

「伊勢松坂屋に、詫びと話し合いの文を出す。これが最初です」

 上座の僧は、重々しく頷いた。

 こうして、比叡山はようやく、伊勢松坂屋へ正式に頭を下げる準備を始めた。

 だが、それは勝者への礼ではない。

 自分たちが積み上げた失策の山を、これ以上崩さないための、苦い一手だった。

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