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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★241万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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伊勢松坂屋の領分の寺で縛られた延暦寺の僧兵の扱いについて三好と六角の指示を仰ぐ。関係者が増えて事態が大きくなる

伊勢松坂屋の京都郊外のまとめ役は、すぐに使いを出した。

 片方は三好方へ。

 もう片方は六角方へ。

 京都郊外で起きたことだから、三好の顔も立てねばならない。

 大津や近江筋にも関わる話だから、六角の顔も立てねばならない。

 伊勢松坂屋は、すでに三好と六角へそれぞれ五千貫を投げている。名目は治安維持協力金である。

 ならば、こういう時に筋を通しておくのが大事だった。

 翌日には、三好方の者が十人ほど、六角方の者も十人ほど、寺へやって来た。

 境内の奥では、延暦寺の末端の僧兵たちが縄で縛られて座らされていた。水は与えられ、

 飯も出されている。殴られてはいない。だが、逃げられないよう見張りは立っていた。

 三好方の者は、それを見た瞬間に吹き出した。

「おいおい、ほんまに縛られとるやないか」

 六角方の者も腹を抱えて笑う。

「飯場を荒らしに来て、飯食わされて、連れてきた領民に縛られたんか」

「いやあ、これは見事やな」

 縛られた僧兵の一人が顔を真っ赤にした。

「何がおかしい!」

「おかしいに決まってるやろ」

 三好方の男が笑いながら言った。

「騒ぎを大きくして、こっちに仕事までくれて。伊勢松坂屋さんには、ほんま頭上がりませんわ」

 六角方の者も頷く。

「こちらも全くや。治安維持の名目で銭をもろて、こうして呼ばれて、

 現場まで用意されてる。ありがたい話やで」

 伊勢松坂屋の若い者が、思わず言った。

「お二方、喧嘩してたんちゃいますの」

 三好方の男は肩をすくめた。

「偉いさん方は、まあ、あれこれあるわな」

 六角方の男も笑った。

「せやけど今回は別や。どちらにも伊勢松坂屋から銭が入って、治安維持を頼まれてるだけやからな」

「しかも、こっちは全く手もかけてへん」

 三好方の男が縛られた僧兵を指さした。

「住民をけしかけて飯場を荒らさせようとして、逆に住民に縛られた。こんなん、

 こっちが刀抜く必要もない」

 六角方の者が顎に手を当てる。

「さて、こいつらどうするかやな」

「京都へ連れていったら、また延暦寺と三好が揉める」

 三好方の男が言う。

「かといって、近江筋の六角の方で預かっても、延暦寺の領分の者やから揉める」

「殺すわけにもいかんしな」

「殺したら、こっちが悪者になる」

「なら、飯を食わせて、怪我がないようにして、記録を取って、伊勢松坂屋と延暦寺の

 交渉の時に返すのが一番やろ」

 六角方の男がそうまとめた。

「それがええ。生きた証拠や。誰が、誰をけしかけ、何を奪わせようとしたか。全部書いておく」

「ついでに、領民の証言もな」

「飯を奪え、米を持って帰れ、住民が勝手にやったことにしろ。そこまで言うたなら、

 なかなかええ証拠や」

 僧兵たちは、青ざめた。

「仏罰が下るぞ」

 一人が震える声で言った。

 三好方の男が、けらけら笑った。

「仏罰が下るぞ言うて、食らわしきれへんかったから、領民が逃げたんちゃうんか」

 六角方の男も続けた。

「そのうえ、お前らが阿呆なことするから、話がどんどんでかくなっていく」

「延暦寺の上の方は、たぶんしばらく動かんつもりやったぞ」

 三好方の男が、わざとらしく声をひそめた。

「振り上げた拳の落としどころを探ってたはずや。朝廷筋、公家筋、浅井、朝倉、方々に

 探りを入れてな」

 僧兵の一人が、びくりと肩を震わせた。

「なぜ、それを」

「知っとるわ」

 六角方の男は鼻で笑った。

「比叡山関係の者が、あちこちに話を持っていってることくらい。浅井の方にも行ったんやろ」

「浅井は、戦の協力を条件にするなら動いてもいい、みたいな話も出てるとか聞くな」

 三好方の者が言った。

「けど、それも高くつく。朝倉を絡めたら、今度は敦賀や日本海筋の話まで広がる。延暦寺としては、

 簡単に飲めんやろうな」

「朝廷筋は?」

「具合悪いに決まっとるやろ」

 三好方の男が、縛られた僧兵を見下ろした。

「朝廷へ寄進した官位持ちを、大津で襲う。飯場を荒らす。首に刃を当てる。 

 そんなことをやっておいて、すぐ庇ってくれると思う方がおかしい」

 六角方の者も頷いた。

「身から出た錆や。しかも、今度は領民をけしかけて飯場を荒らさせようとした。これはまずいで」

「お前ら、上に報告されたらどうなるやろな」

 僧兵たちの顔色が、さらに悪くなった。

 今さらになって、自分たちが何をしでかしたのかが分かってきた。

 伊勢松坂屋の飯場を荒らすつもりだった。

 領民が勝手にやったことにするつもりだった。

 米や味噌や布団を奪って帰るつもりだった。

 だが、門は開かれ、飯を食わされ、領民は腹を満たした。

 腹を満たした領民は、自分たちを縛った。

 そこへ三好と六角の者が来た。

 もう、これは小さな揉め事ではない。

「わしら……帰ったら、どうなるんやろうな」

 一人の僧兵が、かすれた声で言った。

 三好方の男は、少し考えるふりをした。

「まあ、臭い飯を食うことになるんちゃうか」

「臭い飯?」

「牢や牢。少なくとも、いい扱いはされへんやろ」

 六角方の男も遠慮なく言った。

「上からしたら、お前らは最悪や。動かんでええ時に勝手に動いて、領民を使って、

 伊勢松坂屋に新しい証拠を渡した。しかも三好と六角の前で縛られとる」

「面子丸つぶれやな」

「ほんまに」

 僧兵の一人が、がたがた震え始めた。

「わしらは、領民を食わせようと……」

「伊勢松坂屋の飯を奪わせようとしただけやろ」

「違う、わしらは……」

「なら、なんで飯場を荒らせと言うた」

 領民の一人が、遠くから低く言った。

 その声に、僧兵は黙った。

 寺の和尚さんが、静かに口を開いた。

「ここでは、誰も飢えさせませぬ。縛られている者にも飯は出します。怪我も見ます。ただし、

 したことは記録します」

 伊勢松坂屋のまとめ役も頷いた。

「三好方、六角方、寺方、領民の証言、すべて帳面に残します。誰が何を言ったか。

 誰がどう動いたか。こちらが何をしたか」

「こちらがしたのは、飯を出したことやな」

 三好方の男が笑う。

「門を開けて、飯を食わせた。それで僧兵が縛られた。いやあ、ようできた話や」

「笑い事ではない!」

 縛られた僧兵が叫んだ。

「笑い事や」

 六角方の男が即答した。

「ただし、お前らにとっては笑い事ではないだけや」

 その言葉で、僧兵たちの何かが折れた。

 一人がうつむき、肩を震わせた。

 次の一人も、鼻をすすり始めた。

 やがて、最初に策を出した僧兵が、ぼろぼろと泣き出した。

「わしら……どうしたらええんや……」

「知らんがな」

 三好方の男は、冷たくもなく、温かくもなく言った。

「ただ、飯は食わせてもらえる。水もある。痛めつけられてもおらん。そこは伊勢松坂屋に感謝せえ」

 六角方の男も続けた。

「生きて返されるだけ、まだましや。あとは、延暦寺の偉いさんがどう落とし前つけるかやな」

 境内では、また笑いが起きた。

 だが、その笑いの奥には、事態の重さがあった。

 三好と六角が同じ場に来て、同じ帳面に名を残す。

 延暦寺の僧兵が縛られ、領民が証言する。

 伊勢松坂屋は手を出さず、飯を出しただけ。

 これで、比叡山はさらに拳の下ろしどころを失う。

 まとめ役は、帳面を閉じる前に、最後の一文を書いた。

 ――三好方十名、六角方十名、現場確認。

 ――僧兵数名、領民をけしかけ飯場襲撃を企てたる旨、証言あり。

 ――僧兵、生かして拘束。飯と水を与える。

 ――今後、延暦寺との交渉材料とすべし。

 筆を置くと、まとめ役は深く息を吐いた。

 また、話が大きくなった。

 だが、今回は伊勢松坂屋が大きくしたわけではない。

 門を開けた。

 飯を出した。

 記録を取った。

 それだけで、比叡山の浅い策は、三好と六角の笑い声の中で、動かぬ証拠になってしまったのである。

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― 新着の感想 ―
将軍様がアピールのためにくちを挟んで来そうですね。
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