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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山の僧兵に焦りあり。領分から逃げていく住民。打開策として領民を先導して伊勢松坂屋を襲わせて収奪を計画する。が、腹いっぱい領民に食わせて計画は失敗。僧兵を捕縛するに至る

比叡山の末端では、焦りが募っていた。

 領分の者が、伊勢松坂屋の飯場へ逃げていく。

 それを取り締まらねばならない。だが、強く取り締まれば、さらに不満が溜まる。

 荷を改めれば物流が鈍り、道を塞げば商人が嫌がり、逃げる者を捕まえれば悪評になる。

 下っ端の僧兵たちは、どうにも身動きが取れずにいた。

「このままでは、また人が抜けるぞ」

「けど、強く止めたら上に怒られるやろ。今は評判が悪い」

「伊勢松坂屋の飯場へ行く者を見逃せというのか」

「見逃したら見逃したで、また怒られる」

 苛立ちだけが積もっていく。

 そんな中、一人の僧兵が、ふと思いついたように言った。

「なら、伊勢松坂屋のところへ押しかけて、飯を奪えばええんちゃうか」

 周りが顔を上げる。

「それはまずいやろ。大津の件であれだけ揉めたんやぞ」

「いや、我らがやったことにせなんだらええ」

「どういうことや」

「腹を空かせた領民たちが、勝手に飯場へ押しかけたことにするんや。こっちは数人ついていくだけ。

 表向きは、腹を空かせた者に飯を食わせに行く。けど実際には、飯場を荒らして、

 米や味噌や布団やら、持てるだけ持って帰る」

「それを、こちらで食わせるのか」

「そうや。伊勢松坂屋の物資で、こっちの領分の者を食わせる。しかも、

 我らは悪くない。住民が勝手にやったことや」

 何人かが、なるほどという顔をした。

 浅い策だった。

 だが、追い詰められた者には、それが名案に見えた。

「領民をけしかけるか」

「腹が減ってる者なら乗るやろ」

「伊勢松坂屋の飯場には米も味噌も布団もある。持って帰れば、しばらくはこっちで食わせられる」

「うまくいけば、伊勢松坂屋も怖がって逃げるかもしれん」

 そうして、数人の僧兵が、領民たちを集めた。

 腹を空かせた者。

 借金に追われた者。

 役務に疲れた者。

 伊勢松坂屋へ行けば飯があると聞いていた者。

 彼らに、僧兵は言った。

「伊勢松坂屋の飯場へ行くぞ。あそこには米も味噌もある。飯場を荒らせば、持てるだけ持って

 帰ってええ。こちらで食えるようにしてやる」

 領民たちは、顔を見合わせた。

 怖い。

 だが、腹は減っている。

 家族に飯を食わせたい。

 迷いながらも、何十人かが動いた。

 僧兵数人が先頭に立ち、棒や鍬を持った領民たちが後に続く。

 向かった先は、京都郊外の伊勢松坂屋が境内を借りている寺だった。

 寺では、先に気づいた者が走った。

「来ます! 比叡山の方から、人が来ます!」

 まとめ役は、境内の外を見た。

 僧兵がいる。

 その後ろに、腹を空かせた領民たちがいる。

 棒を持っている者もいるが、足取りは重い。目もぎらついているというより、迷っている。

 寺の者たちもざわついた。

「門を閉めますか」

「いや」

 まとめ役は、少しだけ考えてから言った。

「開けましょう」

「開けるんですか」

「はい。飯を炊きます。大量に」

 周りが一瞬、黙った。

「襲ってくるかもしれませんよ」

「腹が減ってるんです。まず食わせましょう。話はその後です」

 寺の和尚も、静かに頷いた。

「それがよいでしょう。飯場を守るためにも、まず釜を据えなされ」

 伊勢松坂屋の者たちは、すぐに動いた。

 門を大きく開ける。

 釜を増やす。

 米を研ぐ。

 味噌を溶く。

 混ぜ飯の具を刻む。

 肉餡を薄く伸ばす。

 漬物を切る。

 大きな桶に水を張る。

 見張りの者たちは、手を出さない。ただ、境内の端に立ち、逃げ道と釜の周りを守る。

 やがて、僧兵たちと領民たちが門の前に来た。

 先頭の僧兵が声を荒げようとした、その時だった。

 まとめ役が一歩前に出て、深く頭を下げた。

「よう来られました。腹が減っているのでしたら、まず食べてください」

 僧兵は、言葉に詰まった。

「何を……」

「炊き出しを用意しております。飯場を荒らす前に、まず飯を食べてください。

 熱いので、順に並んでください」

 門は開いている。

 釜から湯気が上がっている。

 混ぜ飯の匂いが漂い、味噌汁の香りが腹を刺激する。

 領民たちは、棒を握ったまま動けなくなった。

「……食えるんか」

「はい。食えます」

「銭は」

「今日は炊き出しです」

 その一言で、列が崩れた。

 僧兵たちが止める間もなく、領民たちは釜の方へ吸い寄せられていった。

 伊勢松坂屋の者たちは、粥ではなく、しっかりした混ぜ飯を椀によそった。

 具の多い味噌汁をつけ、肉餡を少し乗せ、漬物を添えた。

「熱いので、ゆっくり」

「子どもはこちらへ」

「水もあります」

 領民たちは、最初は警戒しながら、やがて夢中で食べ始めた。

「……うまい」

「なんや、これ」

「炊き出しで、こんなん食えるんか」

 腹が少し膨れると、人の顔つきは変わる。

 さっきまで棒を握っていた男が、椀を抱えたままうつむいた。

「ほんまは、飯場を荒らせって言われたんや」

 まとめ役は静かに聞いた。

「誰にですか」

 男は、境内の端に立つ僧兵をちらりと見た。

「あの人らに。伊勢松坂屋には米も味噌もある。飯場を荒らして、持って帰ってええって。

 そしたら、向こうで食わせるって」

 周囲の者たちも、ぽつぽつ話し始めた。

「住民が勝手にやったことにするって」

「僧兵さんは数人だけついていくから、我らがやったことにすればええと」

「米も布団も持って帰れって」

 寺の和尚さんの顔が険しくなった。

 まとめ役は、ヨイチ役の書き手に目配せした。

「全部、書いてください。誰が、どこで、何を言ったか。覚えている範囲で結構です」

 それから、領民たちに向き直った。

「とりあえず、腹いっぱい食べてください。おかわりもあります」

 領民たちは、さらに飯を食べた。

 しばらくして、腹が落ち着いた頃、まとめ役は静かに言った。

「それで、また戻らはって、どうしますか」

 男たちは黙った。

「戻ったら、また同じ暮らしですか。飯場を荒らせと言った人たちのところへ戻って、

 また言うことを聞きますか」

「けど、家族が……」

「家族と相談してください。うちは、来てくれ来てくれと言っているわけではありません。こちらから

 領分を奪うつもりもありません」

 まとめ役は、はっきり言った。

「ただ、困って来る方を、追い返すことはしません。飯と寝床はあります。働ける方には、

 掃除、薪運び、器洗い、下ごしらえをしてもらいます。おるだけはなしです。それでよければ、

 受け入れます」

 領民たちは、顔を見合わせた。

「家族も、連れてきてええんですか」

「相談して、来ると決めたなら。ですが、判断はそちらでお願いします。うちは誘い込んでいる

 わけではありません。線引きはそこです」

 まとめ役の声は穏やかだったが、はっきりしていた。

「それと、今お話しくださった内容は、こちらで記録します。飯場を荒らせと命じた方々についても、 

 証拠として押さえる必要があります」

 領民たちの視線が、僧兵たちへ向いた。

 僧兵たちは後ずさった。

「おい、何をしている」

「我らは、お前らを食わせるために……」

 だが、腹を満たした領民たちの目は、もう先ほどとは違っていた。

 一人の男が立ち上がった。

「食わせる言うて、伊勢松坂屋の飯を奪え言うただけやろ」

 別の者も立った。

「住民が勝手にやったことにするって言うたな」

「俺らに罪を着せるつもりやったんやろ」

 僧兵は声を荒げた。

「黙れ!」

 だが、その声に怯える者は少なかった。

 伊勢松坂屋の護衛は、まだ手を出していない。寺の者たちも、じっと見ている。ここで僧兵が

 暴れれば、すべてが明らかになる。

 領民たちは、持っていた縄を手にした。

「縛ろう」

「証拠にするんや」

「こっちが勝手にやったんやないって、言わなあかん」

 僧兵たちは抵抗しようとしたが、人数が違った。

 連れて来られたはずの領民たちが、逆に僧兵たちを囲む。棒を持った男が腕を押さえ、

 別の者が縄を回す。若い僧兵が暴れようとしたところを、二人がかりで地面に押さえた。

「やめろ! お前ら、誰のおかげで……!」

「誰のおかげで腹減らしてたと思ってるんや!」

 怒鳴り返した男の声に、境内が静まった。

 僧兵たちは、ついに縛り上げられた。

 まとめ役は、深く息を吐いた。

「乱暴はしないでください。縛ったまま、寺の一室へ。水は出します。怪我も見ます」

「逃がさんのですか」

「逃がしません。ですが、痛めつけもしません」

 寺の和尚さんが頷いた。

「証言も、こちらで聞きましょう」

 まとめ役は帳面を見る。

 これは、大きな火種になる。

 だが、もう起きてしまった。

「旦那様へ急ぎ文を」

 彼は静かに言った。

「比叡山の末端、領民をけしかけ飯場襲撃を企てる。領民、炊き出し後に証言。僧兵数名を拘束。

 そう書いてください」

 書き手が震える手で筆を取った。

 境内では、まだ飯の湯気が上がっていた。

 襲撃に来たはずの者たちは、椀を抱え、黙って座っている。

 縛られた僧兵たちは、寺の奥へ連れて行かれる。

 飯を奪うはずだった一団は、飯を食い、話をし、ついには自分たちをけしかけた者を縛った。

 伊勢松坂屋は、刀を抜かなかった。

 ただ、門を開けて、飯を出した。

 それだけで、僧兵たちの浅い策は、見事にひっくり返ってしまったのである。

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