表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/227

豚汁屋もどきの一日目と二日目。飯事情の悪い時代に豚汁屋があたる。何とかさばくので精一杯。戦争孤児の子供に施しをする

最初の一日は、思っていた以上にうまくいった。

豚汁は一杯十五文。握り飯は一つ五文。それを組み合わせて、握り飯付きなら二十文という形にした。

値段としては安くも高くもない。だが、この時代の薄い飯に比べれば、腹にたまる。

そこに勝算があった。

結果は、想像以上だった。

昼と夜を合わせて、豚汁は四十杯。握り飯は八十個。ほぼ仕込んだ分が、そのまま売り切れた。

銭を数える。

――ざっくり千文。

頭の中で計算する。

原価は五百文ほど。つまり、半日で倍になった計算だ。

「……いけるな」

思わず呟く。だが同時に、問題も見えていた。

――目分量は、きつい。

鍋の大きさ、水の量、味噌の濃さ。全部が感覚頼りだ。現代みたいに計量なんてない。

このまま続ければ、味もブレるし、無駄も出る。

それでも、今はやるしかない。

俺はその場に腰を下ろし、今日の流れを頭の中で整理する。

仕入れ、仕込み、販売、後片付け。全部一人で回しているが、ギリギリだ。余裕はない。

――しばらくはここで構えるしかないな。

銭はできた。少なくとも、明日の仕入れと、下ごしらえの分は確保できる。

だが、次に考えるべきはそこじゃない。

仕入れの面倒くささ。毎回市場を回って、値段を見て、交渉して。これを一人でやるのは、

いずれ限界が来る。

それと、清潔さ。

鍋も手も、どうしても汚れる。水はあるが、十分とは言えない。簡単でもいい、

湯を沸かして体を流せる場所が欲しい。

――簡易の風呂か。

それに、着るもの。今のままじゃ、いかにも日雇いだ。店をやるなら、それなりに整えないといけない。

考えることは多い。

だが、不思議と気持ちは軽かった。

――なんとかなる。

そう思えた。

その日は、残った材料で軽く仕込みをし、翌日の準備を整えた。体は疲れているが、

昨日までの疲れとは違う。動いた分だけ、前に進んでいる感覚がある。

そして、二日目。

状況は、もう変わり始めていた。

昨日と同じ量を仕入れ、同じように仕込む。火を起こし、鍋をかける。

すると、まだ昼前だというのに、人が集まり始めた。

「昨日のやつ、まだあるか?」

「ああ、あるぞ」

顔見知りが増えている。

昨日食った連中が、また来ている。しかも一人じゃない。知り合いを連れてきている。

結果は同じだった。

昼も夜も、ほぼ売り切れ。

――回り始めたな。

俺は鍋をかき混ぜながら、そう確信する。

同じ量を仕入れれば、同じだけ売れる。つまり、読みが立つ。これは商売として、

一つの形ができたということだ。

その時だった。

ふと、視線を感じた。

店の端、少し離れたところに、小さな影がある。子供だ。

年の頃は、十二、三か。痩せている。服もぼろぼろで、目だけがこちらをじっと見ている。

――腹、減ってるな。

それはすぐに分かった。

だが同時に、もう一つ分かる。

――こいつ、戦争孤児だな。

この時代では珍しくない。親を失い、流れてきた子供。仕事もなく、飯もなく、

ただ生き延びるだけの存在。

問題は、ここからだ。

――助けるか、無視するか。

正直、余裕はない。今はまだ、俺自身がやっと回り始めたところだ。ここでぞろぞろと集まられても

面倒を見る力はない。

だが、目の前の一人くらいなら。

俺は少しだけ考えて、声をかけた。

「おい」

子供がびくっとする。

「腹減ってるか?」

小さくうなずく。

「……食うか」

子供の目が、少しだけ揺れた。

「ただし、タダじゃねえ」

そう言うと、子供の顔が一瞬固まる。

「手伝え。働くなら、食わせてやる」

少しの間、沈黙があった。

やがて、子供はゆっくりとうなずいた。

「……やる」

「よし」

俺は椀を一つよそって、差し出した。

「まず食え。そのあと働け」

 子供はそれを受け取り、夢中で食い始めた。

 ――決まりだな。

 俺はその様子を見ながら、そう思う。

 人手は欲しかった。仕込みも販売も、もう一人いれば回しやすくなる。

 それに、こういうやつは裏切りにくい。

 ――少なくとも、今の俺よりは必死だ。

 鍋の湯気が立ち上る。

 人の流れは止まらない。

 その中で、俺は一人、仲間を増やした。

 たった一人。

 だが、それがこの先、大きく広がっていくことを、まだこの時の俺は知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
豚は何処から持ってきた? 話飛ばしすぎてよくわからない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ