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城下で採用を取る。できそうなやつも来るが、なかなかうまくいかない。規模もでかくなってきたし屋号と家紋を考えるか

郊外の横丁では、相変わらずゆるやかに「働きたい」という話は入ってくる。

だが、博之はここで一つ、やり方を変えることにした。

「採る時期、決めるわ」

 ヨイチが首をかしげる。

「なんでや」

「前のやつら、まだ面倒見切れてへんうちに入れたら、ぐちゃぐちゃになる」

 新入りの教育と、既存の仕事。そのバランスが崩れると、全体が回らなくなる。

「せやから、一定の周期でまとめて採る」

 今回、その周期がと関係なく城下の者が半分離脱した。

 前回の採用で合計で十人ほどが抜けた。だから、取り直しとして、同じく十人を目安に募集をかける。

 集まってくる顔ぶれは、以前よりも少しだけ“できそう”な者が増えていた。

「前は棚で五千文、一万文ぐらい回してました」

 そう胸を張る男もいる。

 だが、博之は淡々と返す。

「うち、半月で十万文動くで」

 一瞬、言葉に詰まる男。

 規模が違う。

「……まあ、やれることからや」

 結局、その男は少ししょぼくれながら去っていった。

 また、侍を名乗る男も来た。

「侍やけど、雇うてくれへんか」

「ええで」

 博之は即答する。

「ただし、条件ある」

 相手をまっすぐ見る。

「免許皆伝か、それに準ずる働きできるか」

「……いや、それは」

「ほな最初は四十文からやな」

 侍の男が顔をしかめる。

「もうちょい出せんか」

「最初はみんな一緒や」

 博之は首を振る。

「お侍さんは寺で読み書き、情報収集、用心棒。それ全部やってもろて、そこからや」

 侍の男は少し考えた末、渋々頷いた。

 城下の採用は、郊外とは少し違う。

 読み書きが多少できる者もいる。だが、だからといって特別扱いはしない。

「うちは飯屋や」

 博之ははっきり言う。

「下働きもやる。それが嫌なら合わん」

 さらに続ける。

「順番は守ってもらう。郊外のやつやからってバカにするやつは取らん」

 その線を超えない者だけを選ぶ。

 条件を提示する。

「飯は出す。寝るとこもある。着物も湯あみも用意する」

 最低限の生活は保証する。

「それでもやるか」

 そう聞いたときに、残る者だけを入れる。

 それでも、博之とヨイチはわかっていた。

「……半分は辞めるやろな」

「せやな」

 楽そうに見えるが、実際はしんどい。売り切れるまで動き続ける。仕込みもある。薪もある。

 町人やお侍さんとしての妙なプライドが邪魔することもある。

 それを乗り越えられる者は、そう多くない。

 だが、残る者は強い。

 その一方で、数字は確実に伸びていた。

「二週間で利益が十万やで」

 ヨイチが呟く。

「すごいな」

「月で二十万や」

「ほんま、大名みたいやな」

 笑いながらも、博之は首を振る。

「でもな、四十人雇っとる」

「せやな」


「四十人で、半月の人件費の出費だけで二万八千文や」

 さらに、入れ替わりの初期費用や諸経費を含めれば、四万文近くが飛んでいく。

「……わけわからんな」

 ヨイチが苦笑する。

「でかい数字扱えるやつ、欲しいな」

「欲しい」

 博之も同意する。

「でもおらんやろ」

「おらんな」

 結局は、一つ一つ積み上げるしかない。

 その中で、次の手も見えてきていた。

「漬物、城下で出す」

「おお」

「大根のやつ、いけるやろ」

 郊外で作っていた漬物。それを城下に持ち込む。

「梅もやりたいな」

「梅干しか」

「できるやつおったらやけどな」

 まずは確実にできるものから。

 少しずつ広げていく。

 そして、もう一つ。

「名前、決めなあかんな」

 ヨイチが顔を上げる。

「店のか」

「そうや」

 これだけ広がれば、印がいる。

「家紋みたいなもんやな」

「暖簾やな」

 二人は顔を見合わせる。

「……考えるか」

 火が静かに揺れる。

 人は増え、店は増え、数字は大きくなる。

 だが、その中で守るべきものは変わらない。

 飯を食わせること。

 残る者を大事にすること。

 そして、少しずつ形を整えていくこと。

 博之はそう思いながら、静かに次の一手を考えていた。

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