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当面の戦略が決まるが人が足らない。採用を郊外と城下でかけるが応募は多いが半月で結構やめる。城下の方が問題ありやな

松坂の横丁をさらに埋めていくか、それとも外へ広げるか――。

博之はしばらく考えた末に、一つの方針を決めた。

「道も押さえる」

町の中だけではない。松坂の外へ続く道、その流れを押さえる。そうなると、どうしても人が足りない。

「……人、いくらおっても足らんな」

 帳面を見ながら、博之は苦笑する。

 横丁二つで二十人。城下で十人。とりあえずそこを目標にする。

 だが、ありがたいことに、最近は「働かせてくれ」という者が増えていた。

 横丁が回り、城下にも店が出たことで、噂が広がったのだ。

「ここなら飯が食える」

「寝るとこもある」

 そう思って集まってくる。

 それ自体は悪いことではない。むしろ必要なことだ。

 だが、博之は少し考えを改めていた。

「……選ばなあかんな」

 ただ人数を増やすだけでは、崩れる。

 そこで採用のやり方を変えた。

「飯と宿は出す」

 まずそれを伝える。

「その代わり、ちゃんと働けるか」

 さらに続ける。

「今、四期目や。先に入ったやつもおる」

 集まった者たちの顔を一人ずつ見る。

「全部言うこと聞けとは言わん。でもな、先におるやつに対して、多少の敬いは持てるか」

 孤児もいる。未亡人もいる。侍もいる。

 立場はバラバラだ。

 だからこそ――

「バカにせんか。それだけは守れるか」

 この一点を、丁寧に、何度も話した。

 それでも、全員が残るわけではない。

 二週間回してみて、結果ははっきりしていた。

 郊外の横丁二つでは、六人が抜けた。

 城下では、さらに五人。

 理由はだいたい同じだった。

「なんで薪なんか運ばなあかんねん」

「もっと楽やと思ってた」

 飯屋であることを忘れ、楽に稼げる場所だと勘違いしていた。

 博之はそれを聞いて、ため息をついた。

「……これはあかんな」

 横丁が大きくなり、見た目が整ったことで、逆に「楽そう」に見えてしまった。

 その結果、根性のない者が紛れ込む。

 さらに、別の問題もあった。

「城下のやつ、ちょっとな」

 ヨイチが言う。

「郊外でやっとるやつ、あんまよく思ってへんで」

「……やっぱりか」

 博之も感じていた。

 最初の苦労を知らない者と、ボロ小屋から始めた者とでは、どうしても温度差がある。

 夜、火を囲んで話をする。

「城下のやつら、甘いな」

 ヨイチがはっきり言った。

「飯食えへん時を知らん」

「せやな」

 博之も頷く。

「俺らの最初、ひどかったもんな」

「俺なんか一日十文やで」

「せやで。ぼろ小屋やからよゆうなかったしなー」

 二人は顔を見合わせて笑った。

「それ考えたら、旦那のおかげで今は十倍や」

 ヨイチは少し肩をすくめる。

「城下なんか、普通にいろいろ買えるしな」

「ありがたいことや」

 博之はそう言ったが、少し考え込む。

「……でもな」

「なんや」

「でかくなりすぎたんかもしれんな」

 最初は、生きるためだった。

 飯が食えるだけで十分だった。

 だが今は、そこに「余裕」が生まれている。

 それが、逆に甘さを生んでいる。

「まあ、しゃあない」

 ヨイチが言う。

「人増えたら、そうなる」

「せやな」

 博之は頷いた。

「だから、選ぶしかない」

 次は、もう少し厳しく見る。

 働き方も、城下は少し負荷を上げる。

 簡単には居つけないようにする。

「取り直しやな」

「せや」

 話はそこで一旦終わった。

 その日の晩飯は、いつも通りだった。

 豚汁の湯気が立ち、魚が焼け、団子の甘い匂いが漂う。

 子どもたちは笑い、未亡人たちは静かに食卓を整える。

 変わらない風景。

 だが、その裏では少しずつ、形が変わり始めていた。

 博之はその光景を見ながら、静かに箸を取った。

 ――まだやれる。そう思いながら。

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