表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/217

六月のある朝、博之は屋敷に全員を呼び、今後の方向性を話す。田楽と鶏の串焼きを追加し横丁を完成させ拡大させる

六月に入って、ある朝のことだった。

朝飯を終えたあと、博之は皆に声をかけた。

「今日はちょっと、全員集まってくれ」

屋敷の広間に、孤児出身の子ら、お花をはじめとした未亡人たち、給仕の女、

そして残っている侍たちが集まる。

博之は皆の顔を見渡してから、ゆっくり話し始めた。

「今うちは、豚汁、味噌団子、魚の塩焼き。これを二つずつ回しとる」

 ヨイチが頷く。

「で、次はここに、田楽を足す」

「田楽?」

「味噌田楽や。豆腐、茄子、あとは焼けるもんを串に刺して売る」

 さらに続ける。

「それと鶏や。鶏の塩焼き、味噌焼き。これも二つずつ作る」

 子どもたちが少しざわついた。

「つまりや」

 博之は手で輪を作るように示す。

「豚汁、団子、田楽、魚、鶏。これで一組の横丁にする。それを松坂の中で二つ回す」

「横丁……」

「そうや。飯が食えて、軽いもんも食えて、魚も鶏も食える場所や」

 お花が静かに言う。

「今より、かなり大きくなりますね」

「なる」

 博之は頷いた。

「その次は、城の近くに三つ目を作る」

 侍の一人が目を細めた。

「城近くか。客は増えるが、揉め事も増えるぞ」

「せやから、お侍さんらの力もいる」

 博之は素直に言った。

「でも、そこまでできたら、次は伊勢や」

 場が一瞬静まる。

「伊勢神宮の方ですか」

「そうや。人が集まる。飯の需要はある」

 そして少し間を置いた。

「ゆくゆくは、伊勢国の中で少しずつ広げる。さらに行けるなら、尾張の方にも向けていく」

 ヨイチが目を丸くする。

「尾張まで?」

「今すぐやない」

 博之は笑った。

「けど、目はそこに置く」

 それから、声を少し柔らげた。

「ただ、全員がそこまで行かなあかんわけやない」

 皆を見る。

「ここで普通に働いて、飯食えるならそれでええ。無理はさせへん」

 ほっとした顔をする者もいた。

「けどな」

 博之は続ける。

「大きい仕事がしたい。伊勢に行ってみたい。津で店を回してみたい。そういうやつが

おったら言うてくれ」

ヨイチが真っ先に顔を上げる。

「その時は給金も上げる」

「ほんまか」

「当たり前や。知らん土地でやるのは大変や」

博之ははっきり言った。

「その分の手当も出す。広げてくれたら、ちゃんと評価もする」

次に、人集めの話をした。

「これから人がもっといる」

 皆が真剣な顔になる。

「ただし、誰でもええわけやない。裏切らん。盗まん。すぐ逃げん」

 指を一本ずつ立てる。

「最初の扱いは高くない。まず一ヶ月やってみる。その間に逃げへんか、嘘つかんか見る」

 お花が頷く。

「残る人を大事にするんですね」

「そうや」

 博之は答えた。

「こいつは大丈夫や、と思うやつがおったら、皆も教えてくれ」

 そして侍たちに向き直る。

「お侍さんらには、読み書きの面倒も見てもらいたい。正直、面倒やと思う」

「面倒やな」

 一人が苦笑する。

「でも必要や。正の字で数をつける。何がいくつ売れたか書く。それだけでも店は変わる」

 博之は続けた。

「それに、酒代は出すから、情報も拾ってほしい。用心棒の意味もある。そういう侍も増やしたい」

 侍たちは顔を見合わせ、静かに頷いた。

「ただな」

 博之は少し笑った。

「わしは大名になりたいわけやない」

 皆が聞き入る。

「お侍さんは領地を取り合う。でも、うちは飯で抑える」

 その言葉に、空気が少し変わった。

「腹減った人間は、飯があるところに来る。飯があれば、人が集まる。人が集まれば、物も集まる」

 博之はゆっくり言う。

「まずは松坂を、飯で抑える」

 ヨイチが笑った。

「旦那、それもう大名みたいやで」

「違う。飯屋や」

 博之も笑う。

「横丁を回せるようになったら、その組をそのまま伊勢や津に出す。これが一番ええ」

 皆の顔に、少しずつ熱が入っていく。

「新しいことをやりたい奴は、手ぇ挙げてくれ」

 誰かが小さく手を上げた。

 続いて、もう一人。

 ヨイチも、当然のように手を上げる。

 博之はそれを見て、満足そうに頷いた。

「よし。ほな、まずは松坂の横丁二つを固める」

 朝の光が差し込む。

 まだ小さな屋敷の中で、皆の目だけは、少し遠くを見始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ