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24/222

6月。店は順調。お侍さんは情報収集を淡々とこなしながら伊勢、津、伊賀を見る。

それからさらに二週間が過ぎ、暦は六月に入った。

屋敷も、店も、人も、ようやく一つの形になり始めていた。

今では、豚汁屋が二軒、団子屋が二軒、魚の塩焼きが二軒。合わせて六つの店を回している。

最初の頃と比べれば、信じられないほどの広がりだった。

「……ようここまで来たな」

 朝、店の様子を見ながら、博之はぼそりと呟く。

 ヨイチが横で笑う。

「まだ途中やろ」

「せやな」

 博之も苦笑した。

 人も増えていた。

 噂を聞きつけて、「働きたい」という者は絶えない。だが、誰でも入れるわけではない。

「数だけ増やしても、回らん」

 そう言って、博之は選ぶ目を厳しくしていた。

 それでも、この二週間で新たに五人を雇い入れた。

 漬物が得意な者、掃除をきっちりやれる者、少しだが計算ができる者――派手さはないが、

店を回すには欠かせない面子だった。

「地味やけど、こういうのが効くんや」

 博之はそう言って、満足げに頷いた。

 そしてもう一つ、大きな動きがあった。

 店を貸してくれている主人に、千文を包んだのだ。

「これからもよろしく頼みます」

 そう言って差し出すと、主人は目を丸くしたあと、すぐに顔をほころばせた。

「いやあ、あんたんとこはようやっとるからなあ」

 袋を手に取りながら、嬉しそうに言う。

「こんなんもらわんでも貸すけどな、まあ気持ちやな」

「気持ちです」

 博之は軽く頭を下げる。

 主人はそのまま、少し身を乗り出した。

「で、なんか次やるんか?」

「ええ、まあ……鶏をちょっと考えてまして」

「ニワトリか」

 主人は顎に手を当てる。

「育てるんは大変やぞ」

「せやから、まずは肉だけでええかなと。焼き鳥みたいなんできへんかと」

「ほう」

 主人の目が光る。

「それなら、空いてるとこ二つあるで」

「え?」

「今貸しとる裏手、ちょっと空き出るんや。使うか?」

 博之は一瞬、言葉を失った。

「……ありがたいです」

「ええやろ。あんたんとこなら回すやろしな」

 そう言って、主人は満足げに笑った。

 その話を屋敷で伝えると、ヨイチが目を輝かせた。

「また増えるんか!」

「増える」

 博之は頷く。

「でも、いきなり大きくはせん。様子見ながらや」

 そんなふうに、少しずつ、確実に広がっていった。

 一方で、武士の二人は変わらず動いていた。

 寺に通い、和尚に顔をつなぎながら、子どもたちに教える準備を進める。そして数日に一度、

町へ出ては酒場に顔を出し、情報を拾ってくる。

 その夜も、二人は屋敷に戻ってきた。

「どうやった」

 博之が声をかける。

「いろいろ聞けたで」

 一人が腰を下ろしながら言う。

「まず松阪は、今んとこ大きな動きはない。北畠の下で、まあ安定はしとる」

「ふむ」

「ただ、ちょこちょこ小競り合いはあるな。大きな戦にはなっとらん」

「それならええ」

 博之はうなずく。

「津の方はどうや」

「港は動いとる。魚は安い日と高い日で差があるな」

「海の具合やな」

「せやな」

 もう一人が続ける。

「伊勢はやっぱり人が多い。神宮の方は賑わっとる。飯の需要はかなりある」

 ヨイチが口を挟む。

「やっぱり伊勢か」

「せやろな」

 博之は少し考える顔をした。

「伊賀は?」

「山やけど、動きはある。人の出入りもあるし、情報は取りやすい」

「水軍は?」

「この辺やと、九鬼の水軍が話に出とった。海の通り道はあいつらが見とる」

 博之はゆっくりと息をつく。

「なるほどな」

 火の前に座り直す。

「津、伊勢、伊賀。それぞれ意味がある」

 指で地面に線を引くように動かす。

「津は仕入れ、伊勢は売り、伊賀は人と情報」

 武士が小さく笑う。

「旦那、だいぶ見えてきとるな」

「まだまだや」

 博之は首を振る。

「でもな、ここを押さえたら、次が見える」

 少し間を置く。

「無理に攻めん。じわじわや」

 その言葉に、皆がうなずく。

 屋敷の火は、静かに燃えている。

 松阪を拠点に、少しずつ、確実に広がっていく。

 まだ戦ではない。

 だが、確実に「地」を固める動きが、始まっていた。

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