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屋敷の様子に活気がある。孤児勢や未亡人勢はまとまりが取れている。武士たちも機能し始める。寺への寄進と情報収集

屋敷に移ってからの暮らしは、思っていたよりも早く馴染んでいった。

子どもたちは、最初こそ戸惑いもあったが、今ではすっかり自分の持ち場を覚えている。

団子を焼く手つきも板につき、魚の串打ちや塩の振り方も、それなりに様になってきた。

「見てくださいよ、旦那。今日はええ感じで焼けてますわ」

 最初に入った女の子が、嬉しそうに言う。

「焦がすなよ」

「もう言われんでもわかってますって」

 そう言いながら、笑っている。

薪を運ぶ新参の子は、まだ慣れない様子で汗だくになっているが、それでも顔には

どこか充実感があった。

「しんどいか?」

 ヨイチが声をかける。

「……しんどいけど、飯食えるからええ」

 その答えに、ヨイチは小さく笑った。

「最初はみんなそうや」

 子どもたちにとっては、食い口があること、着るものがあること、それだけで十分だった。

そこにヨイチが面倒を見ているという安心感もある。

 未亡人たちの方も、お花が中心となってうまく回していた。給仕や仕込みの段取りも整い、

無理なく続けられる形になっている。

「お花さん、こっち終わりました」

「じゃあ次はあっち見てあげて」

 落ち着いた声で指示を出す。

 広之はその様子を見て、安心していた。

 一方で、自分は新しい店と、隣に構えた団子と魚の場所を行き来しながら動いていた。

忙しさは増したが、流れは確実にできてきている。

 そして、残った二人の武士。

 彼らは今、寺に通っていた。

「和尚さんのところはどうや」

 ある日の夕方、博之が声をかける。

「まあ、ぼちぼちやな」

 一人が答える。

「子どもらに字と数を教える準備しとる」

「ええな」

博之はうなずく。

「こっちは千文、寺に寄進として渡しといてくれ。教えてもらってる分と、顔つなぎや」

「千文も出すんか」

「安いもんや」

 さらに懐からもう一つ袋を出す。

「それとは別に、これもや」

「なんやこれ」

「同じく千文。こっちはお前らに使ってほしい」

 武士が首を傾げる。

「使う?」

「情報や」

 広之ははっきり言う。

「十日に一回くらいでええ。酒屋でも、飯屋でもええから顔出して、噂拾ってこい」

 武士が少し笑う。

「酒飲めってことか」

「わしはあんま飲まんけどな」

 博之も苦笑する。

「でも、そういうとこに話は集まるやろ」

「確かに」

「伊勢の国の様子、街道の流れ、どこが荒れてるか、どこが潰れそうか」

 少し間を置く。

「できれば、地図みたいなもんも手に入ればありがたい」

「旦那、そこまで見るんか」

「まだ先の話や」

 広之は肩をすくめる。

「今は三つの店回して、もう三つ増やしただけや」

 それでも、視線は遠くを見ていた。

「けどな、このまま数ヶ月やれば、松阪の飯はある程度押さえられる」

「押さえる、か」

「言い方悪いけどな」

 苦笑する。

「味噌、米、海産物、それに鶏もやろうとしてる。沢庵もある」

 指を折る。

「飯に関わるもんは、だいたい揃う」

 武士が黙って聞いている。

「そしたら次は街道や。伊勢の方へな」

「潰れそうな店を拾うんか」

「そうや」

博之はうなずく。

「全部自分でやるんやなくて、拾って繋ぐ」

 少し笑う。

「わしは大名になる気はない」

「……ほんまか?」

「ほんまや」

 即答だった。

「ただ、今おる連中の飯は食わさなあかん」

 静かな声だった。

「そのためには、広げるしかない」

 武士が頷く。

「わかった。そっちもやる」

「頼むわ」

 広之は少しだけ頭を下げた。

「お前ら残ってくれとるからな。給金も少しは上げたけど、それとは別に、こういう形で返したい」

「ただで飲める思たら、こっちもやりがいあるわ」

 武士が笑う。

 その言葉に、場が少し和む。

「あともう一つ」

博之は付け加えた。

「子どもらにな、字と数だけやなくて、最低限自分守れるくらいのことも教えてやってほしい」

「武芸か」

「大げさなんはいらん。棒でもええ。逃げ方でもええ」

 武士は少し考えてから言う。

「それくらいならできる」

「頼む」

博之はうなずいた。

火が揺れる。

それぞれの役割が、少しずつ形になっていく。

誰もが、同じ方向を向き始めていた。

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