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伊勢の城主への挨拶道中に練り物の新しい売り方考えついてしまったwww笹の容器に球の練り物3つ入れて串にさして売る

伊勢の城主へ挨拶に向かう道すがら、博之はいつものように、駕籠ではなく、

半分歩きながらぶつぶつ考えていた。

 横にはヨイチ。

 少し後ろにお花。

 荷の中には、挨拶用の品と、お好み焼きの話に使う簡単な鉄板の見本、ふくふく焼きの試作品の

 包み紙、そして内宮で売っている練り物の見本が入っている。

 博之は、ふと足を止めた。

「あかん」

 ヨイチがすぐに振り向く。

「何か忘れ物ですか」

「違う。思いついた」

 お花が、少し嫌な顔をした。

「またでございますか」

「またや」

 ヨイチは小さくため息をついた。

「旦那様が伊勢へ向かう道中に思いつくものは、だいたい帳簿に大きな穴を開けます」

「穴ちゃう。飯の種や」

「同じです」

 博之は、荷の中の練り物を指さした。

「内宮の端で練り物売ってるやろ」

「はい。魚のすり身を紙に包んで売っております」

「あれな、今は一つずつやん」

「そうですね」

「それを玉状にする」

 ヨイチが黙った。

 お花が少し目を細める。

「玉状、でございますか」

「そう。小さい丸や。すり身を練り直して、いろんな味を作る。大葉入り、生姜入り、

 味噌入り、辛め、甘辛、鳥羽ならタコ入り、津なら鯖ほぐし入り。そういう小さい玉を並べる」

「はい」

「で、客に三つ選ばせる」

「三つ」

「三つや。三つ選んで、笹みたいな形の入れ物に入れる。で、竹串を3本刺す。歩きながら食える」

 お花の表情が変わった。

「……それは」

「やろ?」

 博之は、もう自分でも当たりの匂いを感じていた。

「紙に包むのもええ。けど、串に刺したら、食べ歩きしやすい。

 しかも3つあるから、友達同士で一つずつ食べれる」

「旦那様」

 ヨイチが、少し悔しそうに言った。

「残念ながら、それは多分当たります」

「やっぱりか」

「当たりそうです」

 お花も頷いた。

「内宮の人の流れには合います。小さく、選べて、手を汚しにくく、歩きながら食べられる。

 しかも、三つ選ぶという楽しみがあります」

「そうやねん」

 博之は、道端で手振りを交えて話し始めた。

「今の練り物は、“これを食え”やろ。でも玉にしたら、“どれにします?”になる。選ぶ楽しみが出る。

 大葉、生姜、味噌、タコ、鯖。伊勢なら縁起よく三つ。三福玉でもええ」

「名前まで考え始めましたね」

「名前はまだや。けど、値段は百二十文」

「百二十文」

「高いか?」

「内宮なら、いけると思います」

 ヨイチは即答した。

「三つ入りで百二十文。今の練り物より少し高く見えますが、選べること、串で食べられること、

 見た目がよいことを考えると、成立しそうです」

「試験で百組や」

「百組」

「百組売ったら一万二千文や」

「旦那様、またすぐ売上計算を」

「飯屋やからな」

 お花が苦笑した。

「百組なら、最初の試験としてはちょうどよいですね。売り切れても格好がつきますし、

 余っても傷が浅いです」

「やろ。しかも、三つ選べるから、女衆が絶対迷う。迷う時間がまた楽しい」

「友人同士でも買いやすいです」

「そう。二人で一つ買ってもええ。三人で一つずつ食ってもええ。男が女の子に、

 “三つ選んでください”って言って買ってもええ」

「旦那様はすぐそこに持っていきますね」

「持っていくやろ。飯は会話の種や」

 ヨイチは荷から紙を取り出し、すでに何かを書き始めていた。

「試験案。練り物玉三種選択。笹型容器。竹串。百二十文。百組限定。内宮ではなく、

 まず伊勢城下または許可を得た場で試験」

「お前、歩きながら帳面つけるな」

「旦那様が歩きながら思いつくからです」

「それはそう」

 お花は少し考えてから言った。

「ただし、問題もございます」

「何や」

「玉状にするには、すり身の硬さを調整する必要があります。柔らかいと崩れます。

 硬すぎると食感が悪くなります」

「それは職人にやらせる」

「串で刺すなら、揚げた後に刺すのか、蒸してから焼くのか、揚げるのかも考える必要があります」

「揚げる方が香りはええな。でも串に刺しやすさは、揚げた後やな」

「笹型の入れ物も必要です」

「また容器か」

「はい。見た目が大事です。普通の皿ではなく、持ち歩き用の浅い入れ物がいると思います」

「それも含めて商品やな」

 博之はうんうんと頷いた。

「なんか、お伊勢さんで持って歩いてる姿が見えるねん。三つの丸い練り物が笹の上に並んで、

 竹串が刺さってる。食べながら、“どれがうまい?”って話す」

「それは絵になります」

 ヨイチが認めた。

「旦那様、悔しいですが、絵が浮かびます」

「やろ」

「よくそんなに思いつきますね」

 お花が感心半分、呆れ半分で言った。

 博之は、少し遠い目をした。

「あのな、暇すぎてさ」

「暇ではありません」

「気持ちの問題や。帳簿から現実逃避して、飯の形を考えてたら、出てくんねん」

「現実逃避で商品を増やさないでください」

「でも増えるんや」

「恐ろしいですね」

 博之は歩き出しながら、今度は少し不安そうに言った。

「今日は伊勢の城主に、お好み焼きとふくふく焼きの話もするやろ」

「はい」

「ふくふく焼きは、まだ餡子が足らん。砂糖と小豆の道も整ってへん。

 だから、すぐにはやれませんって逃げられる」

「逃げる前提なのですね」

「逃げる。けど、お好み焼きは怖い」

「怖い?」

「鉄板さえ持ってきたらできるやん」

「はい」

「具材も伊勢ならある。魚のすり身もある。大葉も生姜もある。味噌だれもできる」

「はい」

「だから伊勢の城主に言われそうやねん。“それ、半月に一回ぐらい内宮の近くで

 イベントとしてやってみたらどうや”って」

 お花が少し黙った。

 ヨイチも筆を止めた。

「……無理ではないですね」

「それが怖いねん」

「旦那様の怖いところは、思いつきが無理ではないところです」

「やめて」

 博之は本当に嫌そうな顔をした。

「ふくふく焼き、お好み焼き、練り物玉。全部やれって言われたら、俺死ぬで」

「旦那様は死にません。帳簿と現場が死にます」

「もっとあかんやん」

「ですから、今日の伊勢の城主への話し方は慎重にしましょう」

 お花が言った。

「お好み焼きは“寺社や縁会での試験品”。ふくふく焼きは“松阪で試験中”。

 練り物玉は“内宮向けではなく、伊勢城下か港で百組試験したい”という形がよろしいかと」

「内宮でいきなりやるな、やな」

「はい。内宮は最後です」

「分かってる。前に怒られそうになったからな」

「学習されましたね」

「怒られたくないだけや」

 ヨイチが歩きながらまとめた。

「本日の伊勢城主への話。ひとつ、お好み焼きはイベント飯として実演。ふたつ、ふくふく焼きは

 餡子の道が整ってから。みっつ、練り物玉三種串は百組限定の試験案。内宮ではなく、

 まず伊勢側に許可を取る」

「それでいこう」

 博之は、少しだけ気持ちを落ち着けた。

 しかし、頭の中ではすでに絵が回っていた。

 小さな丸い練り物。

 笹型の入れ物。

 竹串。

 三つの味。

 百二十文。

 百組限定。

 お伊勢参りの人が、歩きながら食べる姿。

「……これ、当たるな」

 博之が小さく言うと、ヨイチがため息をついた。

「当たりそうです」

 お花も苦笑した。

「また忙しくなりますね」

「嫌やなあ」

「でも、旦那様、少し楽しそうです」

「楽しいけど怖いねん」

「いつものことです」

 伊勢へ向かう道の先に、また新しい飯の種が見えていた。

 ふくふく焼き。

 お好み焼き。

 そして、三つ選ぶ練り物の串。

 帳簿から逃げた先で、博之はまた帳簿を増やしてしまった。

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