お好み焼き婚活1部は好調。2部は盛り上がっていない組もある。和尚さんに促され声掛けしてオッサンの一人はつらいぞと自虐ネタを言いながら会話を促すwww
第1部は、思ったより穏やかに進んだ。
麦茶と蜂蜜饅頭で場がゆるみ、二人一組で具材を選び、鉄板の前で少し笑いが起きる。
大葉を選ぶ者、たくあんに驚く者、辛味噌を避ける女衆、見栄を張って辛味噌を選んでむせる男衆。
和尚は満足そうに頷き、ヨイチは売上と段取りを帳面につけ、お花は参加者の様子を見ながら
次の改善点を拾っていた。
「これは、まあ成功やな」
博之が少し得意げに言うと、ヨイチが即座に言った。
「旦那様が前に出なかったので」
「それ、毎回言うな」
「大事です」
そして第2部。昼を少し過ぎ、夕方に向かう時間帯になった。
最初は同じように穏やかに進んでいた。麦茶を飲み、蜂蜜饅頭を食べ、具材を選び、お好み焼きを
焼く。ところが、鉄板の前で向かい合っている男女の中に、どうにも話が弾んでいない組があった。
男は目線を落とし、女も小さく頷くだけ。焼き上がったお好み焼きを半分に分けても、
二人とも「いただきます」と言ったきり、黙々と食べている。
博之は、少し首をかしげた。
「……あれ、盛り上がってへんな」
和尚が横で静かに言った。
「こういう場が得意な者ばかりではありませんからな」
「そらそうか」
「親御さんや友人に勧められて来た者もおります。七十五文という会費も、本人ではなく親が
出していることもあるでしょう」
「ああ、なるほどな」
博之は、急に自分の中の思い込みに気づいた。
縁談の場。
お好み焼き。
具材を選ぶ。
笑いが起きる。
そういう流れを作れば、皆が自然に盛り上がると思っていた。だが、実際にはそうではない。
人には温度がある。勢いよく話せる者もいれば、場に飲まれて小さくなる者もいる。
和尚が、博之に目配せした。
「少し、声をかけてみますか」
「俺が?」
「旦那様、こういう時は案外よいことを言われます」
「案外ってなんや」
「普段は余計なことも多いので」
「否定できん」
二人は、そのぎこちない男女の近くへ向かった。
「どうでっか」
和尚が柔らかく声をかけると、男はびくりとした。
「あ、いえ、その……こういうのが初めてで」
「初めてですか」
「はい。親に、縁ができるから行ってこいと言われまして。でも、私はあまりおしゃべりが
得意ではなくて」
男は困ったように笑った。
「周りが楽しそうなので、余計に何を話せばいいのか分からなくなってしまって」
和尚は、うんうんと頷いた。
「素直でよろしい。周りがあれだけ賑やかなら、気後れもしますわな」
女も小さく頷いた。
「私も、あまり殿方とお話ししたことがなくて」
「それでよろしいのです」
和尚は静かに言った。
「ここでいきなり結婚を決めるわけではありません。ご縁というのは、急に結ばれるものばかりでは
ありません。まず、“こういう場に慣れていません”と正直に言うだけでも、十分会話の
始まりになります」
博之は、その横で少し黙っていたが、やがてぽつりと話し始めた。
「俺な、実は一年前まで寝なし草みたいなもんやってん」
男女が、少し驚いた顔をした。
「食うのも大変やった。冷や飯と薄い味噌汁で、どうにか生きてた。そんな状態やから、
こういう結婚に関わる場に来るなんて、考えられへんかった」
博之は苦笑した。
「必死で飯屋やって、気づいたら今はこんなイベントにちょっかいかけるぐらいにはなった。
けど、今度は店がでかくなりすぎてな。俺が変な女に引っかかったら店が傾くって、
うちの女衆が鉄壁の守りを敷いてくる」
女が少し笑った。
「鉄壁、ですか」
「鉄壁や。俺が婚活に近づこうとしたら、ヨイチとお花さんがすぐ止める」
少し離れたところで、お花が聞こえたのか、にこりと笑った。
博之は肩をすくめた。
「でもな、一人ぼっちって、ほんま怖いぞ。特におっさんになってからの一人は、急に
泣きたくなる時間がある。忙しい時はええねん。やることがあるから。でも、ふと晩飯を
一人で食う時に、“俺、何のために働いてるんやろ”ってなる」
男は、黙って聞いていた。
「だから、今日ここで何かしろって話やない。無理に盛り上がらんでもええ。ただ、
定期的にこういう場に来て、“すいません、慣れてないんです”って言いながら、
ちょっとずつやっていくのは悪くないぞ」
博之は、少し笑った。
「こんなおっさんの小話を小馬鹿にしながらでもええ。話の種にはなるやろ」
和尚も笑った。
「ええ。おっさんの小話を肴にするのも、また一つの縁です」
博之は手を振った。
「ほな、俺らははけるから。お好み焼き、冷めんうちに食べてください」
二人から少し離れると、男が小さく口を開いた。
「すみません。私、本当にこういう場に慣れていなくて。周りみたいに、
すぐ楽しそうにはできないんです」
女も、少し安心したように答えた。
「私もです。私も、あまり殿方とお話しできていなくて。でも、結婚したいなという気持ちはあります」
「私も、あります」
「では……今日は、慣れていない者同士ということで」
「はい」
二人は、ぎこちなく笑った。
お好み焼きは少し冷めていたが、それでも二人はまた箸を取った。今度は少しだけ、話が続いていた。
それを遠くから見ていたヨイチが、珍しく感心した顔をした。
「旦那様、今の入りはよかったですね」
お花も頷いた。
「はい。余計なことも少なく、相手に逃げ道を作っていました」
「そうだろう、そうだろう」
博之は急に得意げになった。
「俺はな、モテてないやつの気持ちはめっちゃ分かんねん」
「そこは強みですね」
「もっと褒めてええぞ」
「ただし、調子に乗ると余計なことを言います」
「すぐ刺すな」
和尚はそのやり取りを見て、楽しそうに笑った。
「今日の会は、なかなかよい学びが多いですな」
「そうですね」
お花が、境内を見渡した。
盛り上がる組もいる。
ぎこちない組もいる。
親に押されて来た者もいる。
本気で相手を探している者もいる。
ただ饅頭につられて来た者もいる。
それでも、場はできている。
博之は、静かに頷いた。
「縁って、キャーキャー盛り上がるだけちゃうんやな」
ヨイチが言った。
「帳簿にも、そう書いておきますか」
「書かんでええ」
「では、“気後れする参加者への声かけ必要”と書きます」
「それは書いといて」
鉄板の上では、次のお好み焼きが焼けていた。
味噌の香りが、夕方の境内に広がる。
派手ではない。
けれど、小さな会話がひとつ、生まれていた。




