寺社仏閣でイベントする際に売り上げを全部寄進するやりかたは?施しっぱなしやと続かんし寄進する方ももらう方も疲れる
「俺、ちょっと思いついたぞ」
博之が、また焼き台の前で言い出した。
ヨイチは、もう慣れたように帳面を閉じた。
「また帳簿が増える話ですね」
「違う。今回は帳簿を減らす話や」
「旦那様がそう言う時は、だいたい増えます」
「いや、ほんまに。横丁で商売として出すのは、まだ早いと思ってんねん。
お好み焼きは、まだ焼き方も、具材も、流れも固まってへん」
「それは正しいです」
「だから、まず寺社仏閣でやる」
お花が少し興味を持った顔をした。
「お寺や神社で、ですか」
「そう。縁談の場や。婚活の場。お料理教室みたいにする」
博之は、焼き台の上に手で四角を描いた。
「うちが鉄板を五つ用意する。一つの鉄板で、お好み焼きが二枚焼けるようにする。
つまり一回で十枚や」
「十組分ですね」
「そう。二人一組で十組。で、それを二部制にする」
ヨイチがすぐに計算を始める顔になった。
「一部十組、二十人。二部で四十人」
「そうや。会費は一人五十文……いや、七十文でもええ。八十文でもええ。百文でもええかもしれん」
「まだ揺れていますね」
「揺れてる。けど、考え方としては、一人五十文なら、一部で千文。二部で二千文」
「はい」
「一人七十五文なら、一部で千五百文。二部で三千文」
「はい」
「一人百文なら、一部で二千文。二部で四千文」
「かなり変わりますね」
「そうや。値段は寺社や場の雰囲気で変えてもええ。でも、要は一日で二千文から
四千文ぐらいの売上が立つ」
お花が頷いた。
「お好み焼きだけですか」
「いや、焼くのに時間がかかるやろ。だから最初に麦茶を出す。蜂蜜饅頭も出す。
待ってる間に食べてもらう」
「それなら、会としての満足感は出ますね」
「そうや。いきなり鉄板の前で黙って待たせるんやなくて、まず麦茶と饅頭で場をゆるめる。
そこから二人一組で具を選ぶ。大葉、たくあん、生姜、ごぼう、山菜、タコ。好きなものを選んで、
うちの者が焼く。最後に味噌だれを選んで、半分に分けて食べる」
女衆の一人が、ぽつりと言った。
「それ、普通に楽しそうですね」
「やろ」
「ただ座って話すより、気まずくなりにくいです」
「そうやねん。会話のきっかけになる。『何入れますか』『甘い味噌にしますか』
『辛いのいけますか』って話せる」
ヨイチが帳面を開いた。
「それで、売上はどうされるのですか」
「そこや」
博之は、少し真面目な顔になった。
「その日の売上、丸ごと寺に渡す」
場が少し静かになった。
「丸ごと、ですか」
「そう。うちは儲けへん。材料も人も鉄板もこっちで出す。売上は寺社に置いていく」
ヨイチが眉を寄せた。
「それでは、原価分は持ち出しです」
「分かってる」
「麦茶、蜂蜜饅頭、具材、小麦粉、卵、油、味噌、人件費、鉄板の運搬。全部こちら持ちです」
「分かってる。でも、普段うちは寄進しとるやろ」
「はい」
「十万文とか、謎の十万文とか、わけ分からん形で渡してるやろ」
「必要な謎です」
「その謎を少し変えたいねん」
博之は、ゆっくり言った。
「ただ銭を渡すだけやと、寺社も“もらってる”って感じになる。こっちも“渡してる”って感じになる。
それはそれで必要やけど、なんか恩着せがましいやん」
お花が静かに頷いた。
「施しのように見える、ということですね」
「そう。施しって、いつまでも続けられへん。うちは今、銭がある。伊勢と松阪が怖いぐらい
稼いでる。けど、それがずっと続く保証なんかない」
「はい」
「だから、ただ金を配るんじゃなくて、場を作る。その場で人が集まって、話して、食って、
ちょっと笑って、その売上が寺社に入る。これなら、寺社も“場代”として受け取れるやろ」
ヨイチは黙って筆を置いた。
お花が代わりに言った。
「お寺さんとしても、ただ寄進を受けるより、“自分の場所で会が成立した”という形になりますね」
「そうや。寺が縁を作った。寺が人を集めた。そこに伊勢松坂屋が飯を出した。
売上は寺に入った。これなら、寺の顔も立つ」
「参加者も、ただ施しを受けた感じになりません」
「そう。ちゃんと会費を払って参加する。麦茶と饅頭を食べて、お好み焼きを作る体験をして、
誰かと話す。お寺には売上が残る。うちは評判と商品試験ができる」
女衆たちが、少しずつ頷き始めた。
「それなら、婚活の場としても自然です」
「お寺さんも声をかけやすいと思います」
「“伊勢松坂屋が寄進してくれる”より、“お好み焼きの縁会をします”の方が人が来やすいです」
「女衆も参加しやすいかもしれません」
博之は嬉しそうにした。
「やろ。寄進をイベントに変えるんや」
ヨイチが、ようやく口を開いた。
「旦那様にしては、かなりまともです」
「にしては、いらん」
「ただし、問題もあります」
「出た」
「まず、鉄板五つの準備。運搬。火の管理。火傷防止。二部制にするなら、人の入れ替え。
待っている人の扱い。雨の日。具材の準備。寺社側との場所の確認。参加者の人数管理」
「多いな」
「多いです」
「でも、できるやろ」
「できます。ただし、試験が必要です」
博之は頷いた。
「最初は身内でやる。次に小さい寺で一部だけ。うまくいったら二部制や」
「それがよろしいです」
お花が続けた。
「会費は、最初は一人七十五文くらいがよいかもしれません」
「なんでや」
「五十文だと安すぎて、ただの安い飯会に見えます。百文だと、
婚活の入り口としては少し高く感じる方もいるでしょう。七十五文なら、麦茶、蜂蜜饅頭、
お好み焼き体験を含めれば、特別感があります」
「なるほど」
女衆の一人が笑った。
「二人で百五十文ですね」
「またご縁にできますね」
ヨイチがすぐに言う。
「旦那様、口上は売り子に任せましょう」
「まだ何も言ってへん」
「言いそうでした」
「言いそうやった」
座敷に笑いが起きた。
博之は、少し照れたように頭をかいた。
「でもな、これ、いいと思うねん。うちは儲けんでええ。儲けるのは普段の横丁でええ。
寺社では、場を作る。寺社に銭を残す。人に縁を残す。うちはお好み焼きを広める」
「結果的には、かなり強い宣伝になります」
ヨイチが言った。
「そこも狙ってる」
「正直でよろしいです」
「施しやない。商売でもない。いや、商売ではあるけど、寺社に残す商売や」
お花が静かに言った。
「恩着せがましく寄付をしないやり方、ですね」
「そう。それや」
博之は、言葉を噛みしめるように繰り返した。
「恩着せがましく寄付をしない。金を置くんじゃなくて、場を置く」
ヨイチは帳面に書き込んだ。
「寺社縁会案。鉄板五枚。一回十枚。二部制。麦茶、蜂蜜饅頭、お好み焼き体験。会費一人七十五文
前後を検討。売上は寺社へ全額寄進。伊勢松坂屋は材料・人件費・道具を負担。目的は縁作り、
寺社支援、商品試験、評判作り」
「めっちゃ書くやん」
「これは重要です」
「帳簿増えたな」
「増えました」
「でも、ええ増え方やろ」
ヨイチは少しだけ笑った。
「はい。今回は、ええ増え方です」
博之は、その言葉を聞いて少し満足した。
寄進は必要だ。
だが、ただ渡すだけでは続かない。
飯会も必要だ。
だが、ただ食わせるだけでは、いつか施しになる。
ならば、人が集まる場を作る。
二人で具を選び、円を焼き、縁を結ぶ。
その売上が寺に残る。
笑い話が残る。
お好み焼きという新しい飯の種も残る。
「よし」
博之は言った。
「まず和尚さんに相談やな」
お花が微笑んだ。
「きっと面白がられると思います」
「やろな」
「ただし、旦那様は後方待機です」
「またか」
「縁を逃がさないためです」
「俺、縁を作ってる側やのに」
女衆たちが笑った。
博之は少ししょげたが、それでも顔は楽しそうだった。
銭を渡すのではなく、場を作る。
伊勢松坂屋はまた、飯屋なのか、寺社支援なのか、縁談屋なのか分からない道へ進み始めていた。




