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屋敷に引っ越し新たに十人雇い入れてから二週間。三人辞める。飛ぶ。微妙な空気になるが気にするなと博之は言う

屋敷に移ってから、二週間が過ぎた。

最初は勝手の違いに戸惑いもあったが、今では皆それぞれの動きが定まり、

生活の流れもできてきていた。朝は屋敷で軽く飯を食い、それぞれの持ち場へ散る。

昼と夕方は忙しく、夜はまた屋敷に戻って火を囲む。

博之は、新しく借りた小屋で二軒目の豚汁屋を回していた。

昼時は特に忙しい。人の流れも読みやすく、最初の店と同じように、匂いにつられて

客が集まってくる。

「……まあ、こんなもんやな」

 自分でやりながら、手応えを感じていた。

 夕方になると、博之は一度、元の店に顔を出す。

「どうや」

 鍋の前に立つお花に声をかける。

「はい、大丈夫です」

お花は落ち着いた手つきで椀によそう。

元々、横で見ていた分、要領は掴んでいる。味も大きくは外れていない。

博之は一口、味見をする。

「……ええな」

 短く言う。

「このままや」

 それだけで、お花は少しほっとした顔をした。

 周りでは、他の面子も動いている。

 団子を焼く者、魚を返す者、給仕に回る者。

 最初に入った女の子も、今では薪運びから解放され、塩焼きを任されていた。

「見ててくださいよ、旦那!」

 串を持ちながら、楽しそうに言う。

「焦がすなよ」

「わかってますって!」

 その様子をヨイチが横で見て、苦笑する。

「最初とえらい違いやな」

「ええことや」

 博之も小さく笑う。

 そんな日々が続いていた。

 だが、すべてが順調というわけでもなかった。

 二週間で、三人いなくなった。

 一人は未亡人の女。

 そして一人は、計算ができると言っていた若い男。

 加えて、雇った武士のうちの一人も、気づけば姿を消していた。

 金を持っていかれたわけではない。

 ただ、着物や寝具、湯浴み代――揃えてやったものを持って、そのまま消えた。

 ヨイチは最初こそ驚いたが、今では少し肩をすくめるようになっていた。

「またおらんなったな」

 朝飯の席で、ぽつりと言う。

 皆も、それとなくわかっている顔をしている。

 博之は椀を置いた。

「まあ、こんなもんや」

 静かに言う。

「……驚かへんな」

 ヨイチが言う。

 博之はうなずく。

 少し間を置いてから、続けた。

「理由は大体わかる」

 皆の視線が集まる。

「一つは、怖なった」

「怖い?」

 お花が聞き返す。

「そうや。飯も出る、寝るとこもある。でもな、それが続く保証はないと思ったら、逃げる」

 静かに言う。

「慣れてへんやつほど、そうなる」

 ヨイチが腕を組む。

「もう一つは」

 博之は続ける。

「楽な方に流れる」

 子供たちが少し顔を見合わせる。

「働かんでも、何とかなる場所があれば、そっち行く」

「……なるほどな」

 ヨイチが納得したようにうなずく。

「あと、計算できるやつな」

 博之は少しだけ笑う。

「自分でやれる思たんやろ」

「逃げたやつか」

「そうや」

 短く答える。

「武士は?」

 ヨイチが聞く。

「あれは……気に入らんかったんやろな」

 博之はあっさり言う。

「指図されるのが」

 その言葉に、皆が少し苦笑する。

「でもな」

 博之は少しだけ声を強めた。

「別に、ええ」

「ええんか?」

 ヨイチが眉をひそめる。

「ええ」

 博之ははっきり言う。

「残るやつが残ればええ」

 静かに続ける。

「全員残る方がおかしい」

 火の音がぱちりと鳴る。

「むしろ、最初に抜けてくれた方が楽や」

お花が小さくうなずく。

「確かに……」

「こっちも、見極める時間が減る」

 博之は言う。

「だからな」

 全員を見る。

「気にするな」

 その一言で、場の空気が少し軽くなる。

 ヨイチが笑った。

「なんや、思ったより冷静やな」

「慣れや」

 博之も笑う。

 飯を再び口に運ぶ。

 火が静かに燃える。

 残った者たちだけで、また一日が始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
お花って誰??未亡人さんのことですよね? 自己紹介してなくないですか?それとも私の見落としですか? 作者の脳内では名前が決まってて自己紹介済みで何かしらのイベントがあって呼び方を未亡人さんから名前呼び…
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