飯を食べて城の普請をしながら残りの半月で身の振り方を決めないと。飯がまずい。豚汁でも作ろうか。
朝は早かった。
夜が明けきる前から、周囲がざわつき始める。怒鳴り声と、木を打つ鈍い音。それで目が覚める。
体は重い。腕も脚も、昨日の作業の疲れがそのまま残っている。
だが、動かないわけにはいかない。
飯を食うために、働く。それだけだ。
俺は黙って立ち上がり、周囲の連中に混ざるようにして城の築城作業に加わる。丸太を担ぎ、
土を運び、ひたすらに手を動かす。
「おい、そっち遅れてるぞ!」
「サボんじゃねえ!」
怒鳴り声が飛ぶ。誰に向けているのかも分からないが、確実に自分にも含まれている。
気を抜けばすぐに怒鳴られる。それだけの現場だ。
丸太は重かった。想像以上に、重い。肩に食い込み、腕に痺れが走る。息が上がる。足元もふらつく。
――これ、きついな。
内心でぼやきながらも、止まるわけにはいかない。止まれば終わりだ。ここから追い出されたら、
次は本当に死ぬかもしれない。
ひたすらに、我慢する。
昼飯まで。
それだけを支えに、体を動かす。
ふと、頭の奥に引っかかるものがあった。
――俺、前は何してたんだっけ。
ぼんやりとした記憶の断片が浮かぶ。机、書類、パソコン。誰かの声。数字。画面。
――ああ、事務仕事か。
そう思った瞬間、妙な違和感に気づく。
――いや、そもそも事務仕事って、この時代にないよな。
苦笑が漏れそうになるが、そんな余裕はない。丸太が肩に食い込み、現実に引き戻される。
考えるのは、後だ。
今はただ、働くしかない。
ようやく昼の合図が出たとき、体は限界に近かった。
皆が一斉に手を止め、ぞろぞろと飯の配給の方へ向かう。俺もその流れに混じる。
差し出されたのは、握り飯が一つと、椀に入った味噌汁もどきだった。
握り飯は小さい。味噌汁は薄く、具も少ない。野菜が申し訳程度に浮いているだけだ。
「おめえも、とりあえず飯にありつけたんだからよ」
隣で声をかけてきたのは、昨日も見た、がたいのいい男だった。日に焼けた肌に、
太い腕。いかにも現場のまとめ役といった雰囲気だ。
「この城な、多分あと半月くらいはこういう仕事あるからよ。その間に、次の身の振り方でも考えとけ」
「……ああ、そうします」
俺はうなずきながら、握り飯にかぶりつく。
うまい。
――いや、うまいというか、腹が減りすぎて何でもうまい。
味噌汁をすする。温かいだけで、体に染みる。
周囲を見渡すと、皆細い。筋肉はついているが、全体的に締まっているというより、
削れているような体つきだ。
――そりゃそうか。
これだけ働いて、この量の飯なら、太るわけがない。
ふと、自分の体を思い出す。
――そういや俺、前はメタボだったな。
あの頃は、食いすぎていたくらいだ。今は逆だ。食わなさすぎて、体が悲鳴を上げている。
昼の休憩は短い。すぐにまた作業に戻る。
午後も同じことの繰り返しだ。丸太を運び、土を積み、汗を流す。腕は重く、腰も痛い。それでも、
手を止めることはできない。
そして、日が傾き始めた頃、ようやく晩の飯にありつく。
同じだ。握り飯と、味噌汁もどき。
だが、朝や昼と違って、少しだけ心に余裕があった。
体はしんどい。正直、もう動きたくないくらいだ。それでも、昼よりは落ち着いている。
――なんとかなるかもしれない。
そんな感覚が、わずかに芽生えていた。
だが同時に、別の思いも浮かぶ。
――このままじゃ、ダメだな。
握り飯を見つめる。
まずい、というほどではない。だが、うまくもない。味が薄い。満足感がない。味噌汁も同じだ。
温かいだけで、味は頼りない。
――もっと、うまくできるだろ。
そんな考えが、自然と浮かんだ。
味噌の使い方。野菜の入れ方。火の通し方。頭の奥に、断片的な知識が引っかかる。
――俺、自分の飯くらい、うまいもん食いたいな。
そう思った。
ならどうするか。
――金を作るしかない。
ここでしばらく働いて、日銭を稼ぐ。少しでも貯める。それで、米と味噌と野菜を買う。
できれば、肉も。
――豚汁、作るか。
ぼんやりとしたイメージが浮かぶ。具だくさんの汁。味噌のコク。温かさと、満足感。
あれなら、腹も満たせるし、体も持つ。
――いや、俺だけじゃない。
周りの連中も、あれ食ったら喜ぶんじゃないか。
そんな考えが、ふっと浮かんだ。
だが、すぐに首を振る。
――まずは、自分の飯だ。
そこまで余裕はない。
握り飯をかじりながら、俺は考える。
このまま働き続けるのか。別の道を探すのか。
答えはまだ出ない。
ただ一つだけ、はっきりしていることがある。
――このままじゃ終わらない。
腹を満たすためだけに働く生活。そこから一歩、抜け出す。
そのための方法を、考えなければならない。
俺は椀を置き、ゆっくりと立ち上がった。
体はまだ重い。それでも、頭の中には、さっきまでなかった“次”のイメージが、
わずかに形を取り始めていた。
――とりあえず、明日も働く。
そして、少しずつ、金を作る。
そこからだ。
そう決めて、俺は再び作業場へと戻っていった。




