屋敷を借りる話がまとまり人が集まり始める。孤児仲間、未亡人、武士の流れ者。全員続くかわからんが屋敷の外の店に住まわせることにする
屋敷を借りる話がまとまってから、博之たちのまわりには、人が少しずつ集まり始めた。
最初に来たのは、ヨイチの顔見知りの孤児仲間だった。痩せた体に、汚れた着物。だが目だけは、
どこか必死だった。
「……飯、食わせてくれるんか」
遠慮がちにそう言う。
広之はすぐには答えなかった。
ヨイチを見る。
ヨイチは少しだけうなずいた。
「嘘つかんか」
博之は短く聞く。
「つかん」
「盗まんか」
「せえへん」
「裏切らんか」
一瞬、言葉に詰まる。
だが、ゆっくりと答えた。
「……せえへん」
博之はしばらく目を見てから、ふっと息をついた。
「ほな、やってみ」
それだけ言った。
次に来たのは、未亡人の知り合いだった。同じように行き場を失った女で、
少しやつれてはいたが、手はしっかりしている。
「……私でも、できますか」
「できることやればええ」
博之はそう言う。
「飯と寝るとこは出す。働いた分は払う」
女は何度も頭を下げた。
さらに、潰れた店の元奉公人だという若い男も来た。
「帳面は、少しなら見れます」
そう言って、小さく頭を下げる。
博之の目が少しだけ鋭くなる。
「数は読めるか」
「はい」
「嘘はつかんか」
「……つきません」
その声には、どこか悔しさが滲んでいた。
博之は少しだけ間を置いてから言う。
「最初は雑用や。それでええなら来い」
「はい」
その返事は、はっきりしていた。
そしてある日、少し空気の違う男が現れた。
腰に刀を差している。
だが着物はくたびれ、顔もどこか疲れている。
「……食わせてくれ」
そう言った。
場が一瞬、静まる。
ヨイチが警戒する。
博之は、その男をじっと見た。
「武士か」
「……元、や」
男は視線を逸らさずに答える。
「領地を追われた。今は、ただの食い詰めや」
博之はゆっくりと近づいた。
「腕は」
「ある」
短い返答。
「裏切るか」
その問いに、男は少しだけ目を細めた。
「……飯を食わせてくれるなら、裏切らん」
その言い方に、博之は少しだけ笑った。
「正直やな」
しばらく沈黙が流れる。
やがて博之は言った。
「ほな、やってみ」
ヨイチが驚いた顔をする。
「旦那、大丈夫なんか」
「わからん」
博之はあっさり言う。
「せやから、様子見や」
その言葉に、場の空気が少し戻る。
結局、同じような境遇の武士がもう二人、流れてきた。
どれも食い詰めた顔をしていたが、立ち姿はやはりどこか違う。
博之は全員を屋敷に入れることはしなかった。
「いきなり中には入れん」
はっきり言う。
「まずは外で働け。信用見てからや」
それに異を唱える者はいなかった。
仕事はすぐに割り振られた。
孤児たちは薪の仕入れと運び。
女たちは給仕と洗い。
奉公人の男は、簡単な帳面付けの手伝い。
そして武士たちには、少し違う役目を与えた。
「寺、行ってこい」
博之は言う。
「和尚に話つける。読み書き、教えてもらうんや」
「……俺らがか」
武士の一人が眉をひそめる。
「お前ら、字は読めるやろ」
「まあ、少しは」
「なら話は早い」
博之は淡々と続ける。
「こっちのガキらに、数字と字を覚えさせる。ついでに、何売れたか、いくらやったか、
書けるようにする」
武士はしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。
「……わかった」
その日から、少しずつ人が増え、少しずつ役割が増えた。
だが、博之は決して気を緩めなかった。
誰も完全には信用しない。
だが、完全には疑わない。
その間を取る。
屋敷にはまだ余裕がある。
だが、そこに入れるかどうかは別の話だ。
外で働かせ、飯を食わせ、様子を見る。
それで十分だった。
火は今日も焚かれる。
人も、また増える。
だがそれが、続くかどうかは、まだわからなかった




