休みの日の夕方。博之が現状の懐事情を話す。屋敷を借りる。金が多少あるが襲われたら終わりなので物や仕入れに変えながら手を広げる
休みの日の夕方、火の前に自然と皆が集まった。昨日までの慌ただしさは消え、
どこか落ち着いた空気が流れている。博之は一度周りを見渡してから、ゆっくり口を開いた。
「ちょっと、話しとくか」
ヨイチが姿勢を正し、未亡人と給仕の女も顔を向ける。子供たちも、なんとなく空気を読んで黙った。
「今な、正直、儲かっとる」
包み隠さず言う。
「市の日もあったしな。このままいけば、しばらくは回る」
皆の顔に少し安堵が浮かぶ。
「でもな」
博之は続ける。
「金があるいうんは、ええことばっかりやない」
少し声を落とす。
「狙われる」
その一言で、空気が引き締まる。
「せやから、金はそのまま持たん。米と味噌に変える。薪や炭もそうや。干物も作るし、沢庵も仕込む」
指を折りながら言う。
「塩もいる。酒も、余裕あれば持っとく」
ヨイチが小さくうなずく。
「……全部、食いもんやな」
「せや」
広之は笑う。
「腹満たせるもんは、裏切らん」
少し間を置く。
「で、そのためにや」
広之は姿勢を正した。
「小さい屋敷、借りる」
「屋敷……」
未亡人がつぶやく。
「今の小屋だけやと、もう手狭や。干す場所もないし、物も置かれへん」
給仕の女も納得したように頷く。
「確かに、最近はもう詰まってますもんね」
「せやろ」
広之はうなずく。
「屋敷なら、干し場も取れるし、寝るとこも増える」
ヨイチがふと顔を上げる。
「……ほな、人も増やすんか」
「そのつもりや」
広之ははっきり言う。
「屋敷に入る分、今の店の中の三軒分くらいの寝床は確保できる」
子供たちが少しざわつく。
「ただしや」
すぐに釘を刺す。
「誰でもええわけやない」
視線を一人一人に向ける。
「嘘つかん。盗まん。裏切らん。それだけや」
皆が黙ってうなずく。
「仕事はある。飯も出す。寝るとこも出す」
ゆっくりと言う。
「その代わり、ちゃんと働いてもらう」
未亡人が口を開いた。
「……給金は、どれくらいにします?」
「二食付き、寝るところを保証で二十五文」
即答だった。
「最初はそれで来るか、やな」
給仕の女が少し驚いた顔をする。
「……それ、来ますかね?」
「来るやつは来る」
博之は短く言う。
「来んやつは、どうせ続かん」
その言葉に、誰も反論しなかった。
少し沈黙が流れる。
ヨイチがぽつりと呟く。
「……用心棒はどうするんや」
博之は少しだけ考える顔をした。
「まだ決めとらん」
正直に言う。
「侍は怖い。強いけどな」
「……せやな」
ヨイチも苦笑する。
「僧も考えたけど、すぐには無理や」
広之は火を見つめる。
「とりあえず今は、人増やして回す方が先や」
未亡人が静かにうなずく。
「守るより、崩れんようにする方が先ですね」
「せや」
博之はその言葉に乗る。
「崩れたら、全部終わりや」
火がぱちりと音を立てる。
博之は顔を上げた。
「せやからな」
少しだけ口元を緩める。
「面接する」
「面接?」
ヨイチが聞き返す。
「そうや」
博之は指で人数を示す。
「俺、未亡人、給仕の姉さん、ヨイチ」
順番に見る。
「四人で見る」
給仕の女が苦笑する。
「なんか、大げさですね」
「大げさくらいでええ」
広之は即答する。
「人選まちごうたら終わりや」
その言葉は重かった。
「話聞く。目見る。変なやつは入れん」
ヨイチが腕を組む。
「俺も見るんか」
「当たり前や」
博之は笑う。
「お前、現場やろ」
ヨイチも少しだけ笑った。
「……わかった」
そのやり取りを見て、未亡人も小さく息をつく。
「忙しくなりますね」
「なるな」
博之はうなずく。
「でも、ここや」
静かに言う。
「ここで広げるか、止まるかや」
火の明かりが、皆の顔を照らす。
不安もある。だが、それ以上に、前に進む空気があった。
その夜は、少しだけ静かに飯を食った。




